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復活の艦隊 異世界大戦1942  作者: 柊遊馬


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第四五三話、決戦不参加の戦力


 神明一機艦参謀長の思いつきを繋げて、樋端連合艦隊航空参謀は、東南アジアに潜む可能性のある敵への対抗策を練りあげた。

 それを連合艦隊司令部にて、山本五十六大将に提案する。


「訓練中、ならびに調整中の艦を集めて艦隊とし、東南アジアへ配備します」


 現在、連合艦隊はソロモン方面における艦隊決戦のため、主な戦力を結集させる予定だ。第七艦隊は、インド洋での作戦のため温存するが、内地で修復なった第一艦隊と、第一機動艦隊、第二機動艦隊、第六艦隊、第一〇艦隊、南東方面艦隊ならびに第八艦隊を参加させる。


 スマトラ島やボルネオ島の油田地帯防衛は重要であるが、決戦のための戦力を割きたくないのが連合艦隊司令部の本音だった。

 そこで樋端が出した案が、ソロモン方面作戦に投入しない、しかし間もなく前線配備する予定の、動ける艦艇を集めることだった。


「東南アジアに仕掛けてきた敵の意図は、まさに我が軍の戦力を分散させ、アジアに有力艦を配置させることです」


 日本軍の戦力集中を不可能にし、ソロモン方面、あるいはインド洋方面で展開する作戦を成功させることだ。


「それであるならば、我が軍の大型空母や戦艦が、東南アジアに配備されれば、戦わずとも敵にとっては目的を果たすことになります」

「なら、むしろ艦隊を配置しない……という手は?」


 渡辺戦務参謀が問うた。樋端は首に振る。


「その時は、こちらが艦隊を差し向けるよう、敵が油田地帯を攻撃するだけです。つまり、我々は油田や軍港を人質にとられているようなものです」


 つまり、どうあっても一定の戦力を差し向けねば、潜伏している異世界帝国艦隊は、東南アジアで暴れまわるということだ。


 そうなれば、陸海軍上層部、引いては政府や国民から連合艦隊への非難の声が上がることになるだろう。事実、陸海軍の上の方からは、東南アジアの防衛要請が連合艦隊にきている。

 山本は頷いた。


「それで配備前の艦で、艦隊を編成し、日本の有力艦隊がアジアにいると、敵に見せつけようというわけか」

「はい、長官。敵の目的が、こちらの戦力の分散にあるならば、それなりの規模であれば、そこに戦力を留めさせるために安易に仕掛けてくることはないと考えます」


 戦わないこと、そこにいると思わせることで、敵戦力を拘束するのだ。


「まるで潜水艦みたいだな」


 渡辺が呟いた。海に潜み、密かに活動する潜水艦――言い得て妙である。


「で、臨時防衛艦隊に配備するのは?」


 山本が確認した。生半可な戦力では、日本軍からさらに『おかわり』を引き出すべく仕掛けてくるかもしれない。

 樋端はメモを差し出した。


「一応、可能と思われる艦を選んでみました」

「……」


 ぴくり、と山本の眉が動いた。



○『東南アジア派遣囮艦隊』候補


・敷島型航空戦艦(プロトボロス型2番艦):「出雲」

・改大鶴型大型空母(リトス級大型空母改):3乃至4隻

・石見型戦艦(リットリオ級戦艦):4隻

・道後型大型巡洋艦(イタリア旧型戦艦):4隻

・二上型重巡洋艦(ザラ級重巡洋艦):4隻

・宇波型防空巡洋艦(異世界帝国重巡洋艦改):4隻

・他、イタリア、フランス型改修駆逐艦:16隻



「敵大西洋艦隊の所属艦の改修艦か……」


 これには山本も渋い顔をする。


「改大鶴型はともかく、他の艦はいくら何でも投入は早過ぎではないか?」


 そもそも異世界帝国大西洋艦隊との決戦は3月の出来事だ。一カ月と少し。


 魔核を利用した再生、改修が短期間に終わるといっても、乗員の訓練期間はよくても一カ月以内。そんな艦艇を、戦闘の可能性のある場所に投入するのは、常識的に考えて無茶である。


「最近の海軍は、規格共通化と自動化が進んでおりますから」


 樋端は言ったが、山本は表情を変えない。


「そうだろうか?」


 練度不充分の艦など、ろくな戦力にならない。皮だけよくても、使いこなせなければ、ただの的を敵に献上するだけだ。


「魔技研からの能力者が魔核操作すれば、ある程度は補えるそうです。もっとも、この艦隊はあくまで囮なので、最低限、巡航速度で動いて、防御障壁さえ展開できれば問題ないのです」


 樋端は、いつもの調子で告げた。不安など微塵もないように。


「敵が来たら、別動の討伐艦隊が相手をするので、これら囮艦隊は、転移で戦場を離脱します。ええ、戦闘をする必要はないのです」

「……なるほど」


 だから、出来たて、とても戦場に放り込む練度でなくても、『皮だけよい』艦を集めたわけだ。

 ソロモン方面作戦にも間に合わない戦力外でも、敵にはそれがわからない。自分たちの陽動に引っかかり、大型空母や戦艦が出てきたとなれば、そこに留めようとするだけ。


「囮としては、確かに魅力的だろうね、これは」


 プロトボロス級航空戦艦の改装型に、ただでさえ大型でありながらアングルド・デッキ型で、より大きく見えるリトス級空母改の大鶴型空母。戦艦、大型巡洋艦など、それなりに有力な艦隊に見えるだろう。

 もし練度も充分であるなら、東南アジアに潜入した敵艦隊も全力で当たらないと返り討ちにあうと判断するに足る規模である。


 そこで草鹿参謀長が発言した。


「樋端参謀。囮艦隊はいいが、もし敵が仕掛けてきたきた場合、これの対処はどうするのか?」


 囮艦隊は襲われれば逃げるだけである。囮を釣り出したことに満足して撤退したならまだしも、敵が艦隊に仕掛けてくる果敢な指揮官だった場合、囮艦隊は張り子の虎で終わって、何も解決しないが。


「敵に燃料や弾薬を浪費させる、という点では、無意味ではないですが」


 いかに自分の艦隊が無傷でも、艦載機を飛ばせば航空機用の燃料を消費するわけで、これまでの潜入と奇襲で、敵の空母の攻撃力も複数回を繰り出すだけの余裕はなくなってきていると思われる。


「きちんと敵を見つけ、攻撃する艦隊も編成致します」

「そんな艦隊があるか?」


 有力な艦隊はソロモンへ行く、このタイミングである。


「第九艦隊があります。そもそも、能力者についてはあちらが専門ですし、敵艦隊撃滅用の部隊編成に、一機艦の神明少将に話をつけて頂いたので、軍令部もお認めになられるでしょう」


 魔技研出身で、何かと顔が利く神明である。軍令部直轄の第九艦隊については、ぶ号作戦でも第一機動艦隊の補助に、前線に引っ張り出したことがあるので、今回が初めてではない。


 彼が動いて、しくじったことは今のところないので、軍令部もおそらく許可するだろう。永野軍令部総長は、そういう男だ。

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