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第四五二話、見えない敵への対応策とは?


 第一機動艦隊は、内地にて修理と補給を受けていた。


 ぶ号作戦で、航空機用の誘導弾をほぼ使い切り、水上打撃部隊は、ソロモン夜戦にて砲弾を消費した。


 一部損傷艦はあるものの、その損害は軽微であり、近くソロモン諸島への再攻撃があっても出撃が可能な状態にあった。


 連合艦隊司令部の航空参謀である樋端 久利雄中佐は、第一機動艦隊司令部を訪れた。一機艦司令長官、小沢 治三郎中将は、海軍きっての俊英である樋端の訪問を歓迎した。


「貴様に航空のなんたるかを教えてもらったのが懐かしい」


 小沢がかつて航空戦術を教わった三人の中の一人が、樋端だったりする。


「このタイミングできたのは、ソロモン作戦か?」


 連合艦隊司令部は、いかなる戦術を用いて、ソロモン諸島の敵艦隊を叩くのか、その方針を聞けると期待する小沢である。しかし樋端は首を横に振った。


「いえ、長官。それも大事なのですが、目の上の瘤をまず片付けなくてはいけなくてですね――」


 樋端は、ジャワ海に入り込んだ敵艦隊の存在について説明した。石油資源の獲得、それを妨害されては、今後の戦いにも国民生活にも影響する。故に無視できず難儀している、と。


「他方面で立て込んでいなければ、こんなに悩まずに済んだのですが、事は専門外な事柄にもかかるので」

「さすがの貴様でも、難儀しているか。それは大変だ」


 小沢は小さく笑った。


「よし、神明。その専門家の知識を貸してくれ」


 第一機動艦隊参謀長の神明少将は、さっそく二人の会談に加わった。遮蔽装置で隠れている敵をどう見つけるか。魔技研出身であり、自身も能力者である神明に話を聞けば――


「残念ながら、今のところ遮蔽を見破る(すべ)は、装置として存在しない」


 そもそも――神明は、遮蔽について語る。


「――レーダーによる電波、魔力索敵による魔力波も、遮蔽膜が吸収してしまう。基本的に、索敵は反射、すなわち反応で識別するわけで、返ってこなければ観測できない。だから、見つけられないということだ」

「さすがの魔技研もお手上げか」


 小沢が言えば、樋端は少し首を傾けた。


「さっき、装置としては存在しないと言いましたよね? 装置ではない、他に何か方法があるのですか?」

「ここからは能力者の能力、魔法の領域に入る」


 神明は真顔で告げた。


「現状、心当たりがあるのは二つだ。一つは、霊的なエネルギーで、生命反応を探知する方法」

「霊的、とは……幽霊みたいな?」

「オカルトな話は海軍軍人らしくないのは認める」


 神明は淡々と言う。小沢は肩を揺らした。


「怪談話には4月はまだ早いだろうて」

「まあ、幽霊とかそういうのでもないんですが、とにかく能力者の中には、生きているモノを遠くから見つけることができる者もいるんです。これでどうして遮蔽を抜けてくるのかはわからないのですが、それで隠れている者――機械でなければ見つけられます」


 生命反応を見ることができる能力。なお死体は見えないという。


「なるほど。それでもう一つは?」

「一つ目と似たようなものです。能力者が個人的に使役する使い魔に探らせます。隠れているものを見つけるのが上手いのがいるんです」


 小沢と樋端は顔を見合わせた。


「神明さんの言うことなので本当なのでしょうが、その方法で探るとして、ジャワ海、もしくはそこから移動しているかもしれない敵艦隊を見つけられますか?」

「樋端、その前に一つ確認だが」


 神明は目を細くした。


「敵はジャワ海にいた艦隊だけか? セレベス海に入ってタウイタウイを叩いた艦隊についてどうなったかわかっているのか?」

「……いえ」


 樋端は眉間にしわを寄せた。


「そういえば、完全に失念していました。角田中将の艦隊が追尾し、行方をくらませて、それっきりです」

「そいつもまだ潜伏している可能性があるんじゃないか? セレベス海から、敵の制海権のあるところまで行くには、我が軍のテリトリーを横断しなくてならない」


 これは、敵が消えたのは転移ではなく、遮蔽であるとした場合の話だ。つまり。


「敵艦隊がまだ二つ、東南アジア一帯に潜んでいる可能性があると……」


 樋端の目が真剣さを増した。もう敵は逃げているのではないか、というのは楽観が過ぎると思えてくる。


「もちろん、遮蔽で姿を隠し、これ幸いとすでに逃げたかもしれん。特にセレベス海の艦隊はノーマークだったからな。ボルネオ島にも油田地帯はあるが、そっちの艦隊は空母を失っているというし。……ジャワ海の艦隊は、山口さんが粘ってスンダ海峡を睨んでいるから、じっと息を潜めているかもしれないが」


 空母をやられて山口多聞はお怒りだった。空母を退避させ、再編にかかる一方、第八水雷戦隊を潜水艦よろしくスンダ海峡に沈めて、敵が通過するのを待ち伏せさせている。


「敵が待ち伏せに気づかなければ、そろそろ引っかかる頃だと思うが、問題は警戒していると予想している場合だ。よくよく考えれば、敵にとっても退路は限られるから、そこを日本軍が押さえていると想像するのは容易い。こちらが警戒を解くまで、しばらく隠れていることもあり得る」

「で、我々はそれを見つけないといけないわけだ」


 小沢は腕を組んだ。


「いるのか、いないのか。それをはっきりしないことには先に進めない」

「そしてそれをどうやって探り出すか」


 樋端は神明を見た。


「能力者の探知範囲というのはどれくらいなのですか? 数人の能力者で何とかなりますか?」

「探知できる範囲も無限ではないからな。ある程度、敵の行動を予想したとして、抜けなしで調べるのはな。……敵が一カ所に留まってくれていれば別だが、動いているとすれ違いも起こるだろうし」


 その時はいないとしても、数時間後に通過された、とかそういう例もある。


 レーダーがなかった頃の空母艦載機による索敵線と似ている。タイミングによる漏れがないよう、二段三段と複数の偵察機を放って敵艦隊を探す。


 が、こちらは適性能力者の数が少ないから、偵察機を増やせばいいという問題でもない。


「……うん、まあ、探すフリをするのがいいだろう」


 神明は呟いた。


「私は以前、遮蔽装置を使って敵の領海を抜けて、セレター軍港を襲撃したことがある」


 異世界帝国との開戦直後、トラック沖海戦で連合艦隊が敗退した直後、神明は第九艦隊を率いて、当時敵地だったシンガポールへ乗り込んだ。


「遮蔽装置があったとはいえ、なかなか心臓に悪かった。何か一つの手違いで、作戦すべてが破綻する可能性があった」


 軍令部に承認されたとはいえ、発案者であり死地に飛び込む役目だった神明である。平静を装っても、心中穏やかでいたわけではなかった。


「その経験から言わせてもらえば、時間をかけることは相手にとっても相応の負担を与えることになる」

「と、言いますと?」

「あれもこれも守ろうと探し回る余力はない。ならば、敵の目の前にお誂え向きの餌を用意するのはどうだろうか?」


 緊張感を抱えつつ、潜伏する敵。日本軍に痛打を与えられる機会が目の前にあれば、手を出さずに我慢するのも相応の精神力が必要だ。そしてつい、手を出したなら――


「それで敵が潜伏している場所が大まかにわかる。範囲が狭まれば、能力者での捜索もやりやすくなるだろう」

「なるほど。理解しました」


 樋端が口元を綻ばせた。


「敵をこちらの望む場所に誘い出すわけですね。……餌には何を使います?」

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