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第四四二話、第一次ソロモン海戦


 異世界帝国南海艦隊内に踏み込んだ第一機動艦隊水上打撃部隊は、目につく敵艦艇を攻撃し、血祭りにあげていた。


 途中、ガダルカナル島、マライタ島にある敵揚陸集積場に、遠方からの誘導弾を撃ち込んだ。こちらは島なので大まかな位置は、彩雲偵察機の情報で掴んでいる。これらは襲撃があったからといって移動できるわけではないので、行き掛けの駄賃とばかりに攻撃、焼き払ったのである。


 小沢隊はもちろん、栗田隊も、防御の弱い輸送艦の他、防御障壁を展開する戦艦や巡洋艦が現れると、戦隊単位で対応した。


「敵重巡洋艦!」

「主砲を斉射。僚艦に、同一艦への集中射撃を指示」


 栗田 健男中将は自身の率いる第十戦隊の大型巡洋艦にそう命じる。先頭の『雲仙』が、標的にしたプラクス級重巡洋艦へ砲を向ける。基準排水量1万5000トンと、重巡洋艦としてはヘビー級だ。


『雲仙』は、格上である30.5センチ砲弾を発砲する。本来なら重巡洋艦の装甲を穿つそれも、プラクス級の防御障壁が直撃に耐える。


 だが、続く『剱』が、そのプラクス級重巡洋艦に砲撃、さらに障壁を削ると、三番艦の『乗鞍』が主砲を叩き込む。


 防御の壁も、より破壊力のある大巡の主砲を数発も受ければ、エネルギーを失い、効力を失う。障壁を抜けた1発が、艦体中央の主砲搭を直撃し吹き飛ばす。


 炎上するプラクス級に、四番艦の『白根』がトドメを撃ち込む。20.3センチ砲弾を耐える重装甲も、容易く貫通されて異世界帝国重巡洋艦の命脈は断たれた。

 非装甲艦艇ばかりが破壊されているように見えて、合間合間にいる護衛の大型艦も集中射撃で障壁を取り払い、損傷、撃破していく。


 事情は知るよしもないが、戦艦が紛れ込んでいるのを見れば、追加装備されたイ式光線砲を用いて、その防御障壁を破壊、やはり後続艦との連携で大破、航行不能に追いやった。


 そうした雲仙型大型巡洋艦が道を切り開く一方、損傷艦艇や撃破し損ないを、列の後方艦が刈っていく。

 先の大破戦艦も、『肥前』『周防』『相模』『越後』の第五戦隊が、41センチ砲で追い打ちをかける。


 前の第十戦隊、第五戦隊が敵の障壁搭載艦に火力を集中した結果、取り逃がした敵駆逐艦、輸送艦を『伊吹』以下6隻の重巡洋艦、二水戦が撃破、沈没させていく。


 サンクリストバル島方面の敵は、小沢隊が攻撃しているので、栗田隊はマライタ島方面の敵を砲撃する。


 味方を誤射しないために、割り当て範囲の敵に全力を出す。ある意味、自分たちの反対側は、味方が盾になっているのと同じて、安心して目の前の敵に集中できたのである。


 やがてマライタ島の南東から離脱すると小沢長官から命令が、栗田隊の旗艦『雲仙』にも届いた。


 さすがに、異世界帝国艦隊も日本艦隊にやられるだけではない。その針路予想から配置転換できた部隊――艦隊外周の警備艦隊が、一部支援艦艇群と入れ替わり、日本艦隊を迎撃しようと移動しつつあった。


 オリクト級戦艦をはじめとした砲戦部隊だ。だが、小沢も栗田もこれらとまともに戦うつもりなど最初からない。特に栗田は、この突撃はあくまで牽制と聞いていたから、自軍の被害が出ないことに注力していた。


 かくて、異世界帝国艦隊が本格的に砲撃を仕掛けてきた頃、第一機動艦隊水上打撃部隊は転移によって、戦線を離脱。

 のちに第一次ソロモン海戦と呼ばれる戦いは、終了した。



  ・  ・  ・



 トラック島の転移中継ブイの周りに、小沢、栗田隊が転移で到着すると、近くには分離し先に離脱させていた空母とその護衛部隊がいた。

 第一機動艦隊は合流を果たした。


 そして小沢中将は、ソロモン海での戦闘による被害確認と戦果確認、集計を命じた。


 なにぶん夜戦、しかも敵艦艇で溢れた海域への殴り込みである。一方的に叩いたように見えて、まったく反撃を受けていないこともない。せいぜい小口径砲弾や機関砲による攻撃が多いと思われるが、中には巡洋艦の砲弾を食らった艦もあるかもしれない。


「どう思う? 神明」


 小沢が、従兵から配られた茶をすすりながら聞いた。神明参謀長は小首を傾げる。


「作戦の目的、意図としては成功だったのではないでしょうか」


 戦果のボーダーラインは特に引いていないので、こちらが生き残り、敵に損害を与えられたのなら、それだけで成功判定だろう。突入した艦艇の3分の1ないし半数がやられるようなら失敗だが。


「敵をかなりやっつけたと思うが」


 小沢が言えば、すでに参謀たちは大戦果だと歓喜していた。神明と、大前参謀副長は顔を見合わせる。


「混沌とした戦場だから、派手に沈めたように見えるが……」

「戦果は、報告の半分くらいと見積もったほうがよさそうですね」


 輸送船や支援艦艇、駆逐艦は防御障壁もなく、被弾に弱くあっさり炎上していたが、それで沈められたか、というと確信が持てないものも少なくない。


 なにぶん艦隊は27、8ノットで高速航行しており、被弾した艦が沈むか確認する前に、次の目標を狙い攻撃していた有様だ。


 後続艦も、沈みつつある艦、沈んだ艦を見ているが、さらに後ろの艦は、前の艦が沈めた敵艦を見る機会がない場合もあって、クロスチェックも難しい。


「個人的には半分の半分くらいが、正しい撃沈戦果だと思う」


 神明の発言に大前は苦笑する。


「ちょっと判定が厳し過ぎませんか?」

「あまり現実とかけ離れた評価をしてしまうと、後で自分たちに返ってくるからな」


 今回の襲撃はまだ序盤戦だ。あがってきた撃沈報告を鵜呑みにすると、次に戦闘したら、思ったより敵が残っていて吃驚した、なんてこともあり得る。


「やはり夜戦ですから、どうしても誤認は起こるものです」


 神明は小沢に告げた。


「おそらく集計結果は、凄まじい数になると思いますので、かなり穿った見方をしたほうがよいと思います」

「まあ、ハリケーンは過ぎただろうし、明るくなれば彩雲が飛ぶだろう。そこで残っている敵艦隊の数を確認すれば、ある程度正確な数はわかる」


 それまではぬか喜びに終わらないようにしよう、と小沢は言った。



  ・  ・  ・



 なお第一機動艦隊によるソロモン海戦は、奇襲攻撃に成功したという報告を受けて、連合艦隊司令部でも盛り上がった。


 正確な数の集計は精査中とのことだが、戦艦、空母を除く数隻の撃沈破、多数の輸送艦の撃沈の報告は、暗い話題ばかりだった司令部にとっては待ち望んでいた明るい材料となった。


「いっそ、我々も転移突入して戦果拡大を図ろうか。サンクリストバル島近辺は大混乱の真っ只中ではないだろうか」


 山本五十六長官も、久しぶりに機嫌がよかった。しかし山本の、間髪を入れずの奇襲案には、草鹿参謀長、樋端参謀は反対した。


「さすがに混沌とし過ぎて、踏み込むのは危険と思われます」

「敵も一度やられていますから、同じことがないように、守りを固めているでしょう」

「……うむ、そうだな」


 山本は連合艦隊主力での再襲撃をその日は見送った。中島情報参謀が報告する。


「長官、第二機動艦隊が、転移により東南アジアへ移動しました。蘭印近辺にいる敵の掃討が開始されます」


 日本の屋台骨を脅かす敵の蘭印襲撃。その反撃に、第二機動部隊が向かったのだ。

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