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第四三九話、ハリケーンに乗じて


 ソロモン諸島の近くを発生した嵐は弓なりの進路をとって南下した。

 南半球なので台風ではなく、サイクロン、またはハリケーンとなる。そしてオーストラリア西部はインド洋側なのでサイクロン。対して太平洋側の東部はハリケーンだ。


 そして4月はオーストラリアは秋であり、サイクロンないしハリケーンシーズンも末となる。

 この最後のハリケーンは、ソロモン諸島から珊瑚海へと進み、オーストラリア東海岸に沿うように向かうだろう。


 南海艦隊主力を監視していた彩雲偵察機は、このハリケーンの影響で目視による確認が困難となっていた。


 第一機動艦隊は、タウンズビルの異世界帝国艦隊を襲撃した後、転移ブイを使い、ニューカレドニア方面に戻っていた。


 異世界帝国軍には、まだ自分たちのテリトリーに、日本の機動部隊がいると思わせて、その注意を引こうという魂胆である。

 かつてインド洋に進出してきた大西洋艦隊の戦力を分離させた策の延長である。第一機動艦隊の小沢中将からすれば、あわよくばソロモン諸島から敵艦隊の一部なりを、引き離せれば、というところだったが――


「――ハリケーンが発生し、現在、ソロモン諸島がその影響下にあります」


 気象長の藤木 弘少佐が告げた。


「その後、南西方向に進路を向けると思われます。数日以内にオーストラリアに上陸して、東海岸に沿って移動すると予想されております」

「タウンズビル方面に向かってくれれば、同方面の敵の再編にも多少の遅滞が発生するかもしれんな」


 小沢は言った。


 第一機動艦隊は、ブリスベン、タウンズビルを空襲し、その港湾施設にもダメージを与えている。その状況では、北上してニューギニア方面へ向かうと予測される敵艦隊の行動も、より足踏みさせられる可能性が出てきた。

 藤木少佐は首をすくめる。


「まあ、ハリケーンのすることですから、確実性はないですが」

「むしろ、この嵐を利用できないものか」


 神明参謀長がポツリと言った。航空参謀の青木 武中佐は苦笑した。


「参謀長。ハリケーンじゃ、航空機は飛ばせませんよ」

「そこだよ、青木」


 神明は淡々と返した。


「我々は空母機動艦隊だ。そして敵も同じ認識だと思う」


 サンタクルーズ諸島、ニューカレドニア島、そしてオーストラリア東海岸。その攻撃はことごとく空襲だった。


「だが、我々は旧第二艦隊――つまり戦艦、巡洋艦を多数揃えた水上打撃部隊も含めた艦隊だ」


 戦艦は10隻。金剛型4隻は35.6センチ砲と小振りではあるが、残る『伊勢』『日向』は修理、改装時に41センチ砲に換装されていて、第五戦隊の『肥前』『周防』『相模』『越後』も41センチ砲搭載戦艦だ。

 さらに雲仙型大型巡洋艦4隻ほか、重巡洋艦10隻。防空戦隊を抜いても、第二、第三水雷戦隊がある。


「ソロモン諸島がハリケーンの暴風域にあるうちに接近し、砲、雷撃戦によって、敵艦隊に一太刀を浴びせる……」

「正気ですか!?」


 青木や参謀たちが目を回した。


「いくら戦艦、巡洋艦が充実しているといっても、敵艦隊の比べれば5分の1以下です。それに殴り込みをかければ、タコ殴りされておしまいでは……」


 殴り込み、と聞いて、ここに神 重徳大佐がいたら賛成したのでは、とチラを神明は思った。いないものは仕方がない。


「あくまで、連合艦隊の主力が来るまでの陽動、いや漸減の一環だ。一撃離脱に徹して、敵に一撃を与えつつ、こちらは危なくなる前に逃げる」

「いや、しかし……」


 大前参謀副長が言いかけたところで、海図を眺めていた小沢が口を開いた。


「ソロモン諸島に一番近い転移巡は、『宮古』だったな」


 彼は指揮棒を持ってこさせると、それでエスピリットサント島付近からソロモン諸島近くへ移動し、遊弋する転移巡洋艦を指した。


「珊瑚海に抜ける台風――いやハリケーンに乗じて、『宮古』の転移中継装置で、第一機動艦隊水上打撃部隊は、ソロモン諸島南部へ接近。敵艦隊を突っ切る」


 ガダルカナル島と、転移ゲートのあるサンクリストバル島の間を横断するルートをなぞる小沢だが、これには参謀たちが目を剥く。もっとも敵がひしめている海域ではないか、と。


「こちらは火力で押しまくるが、さすがに敵も素通りさせてはくれんだろうから、本格反撃される前に、転移でニューカレドニアなり、我々日本軍の制海権内に飛べばよかろう。……どう思う神明?」

「大変よいと思います。仮に、襲撃が察知され、守りを固められても、転移で仕切り直せばいいわけですから」

「そういうことだ」


 小沢はニヤリとすると、通信長に告げた。


「『雲仙』に通信。栗田に仕事の説明をせんとな」



  ・  ・  ・



 ソロモン諸島に乗り込む。これを聞いた時、第一機動艦隊水上打撃部隊指揮官である栗田 健男中将は面食らった。


「またぞろ、おれは貧乏くじを引いた気がする」


 どうしてこう、危ない場所ばかり行かされるのか――言わずとも、そう顔に書いてある。参謀長の大西 新蔵少将は、ここ最近の付き合いで、そう察した。


 アスンシオン島のゲート破壊の挺身隊を指揮。ハワイ沖海戦では、第一機動艦隊の護衛として、敵海域内深くに踏み込んだ栗田である。

 そして今回は、嵐に乗じて、ソロモン諸島に接近。サンクリストバル島付近の敵大艦隊の夜戦突撃を仕掛ける。そしてそれは第一機動艦隊の前衛部隊であり、水上打撃部隊である栗田の艦隊が行うのだ。


「まあ、我々は小沢中将の後に続くだけですから」


 大西は慰めるように言った。


 指揮は、戦艦『伊勢』に座乗する小沢自ら採る。一番偉い人が率先して前を行くと言った以上、栗田も参謀たちも文句は言えなかった。


「漸減作戦における第二艦隊の役割といえば、主力に先んじて敵艦隊を夜戦で痛打することですから、我々の本懐というもの」

「おれは君より頭がよくないが、これがかなり無謀な作戦なのはわかるぞ。長年、海の上で勤務した経験からして」


 栗田は緊張感を漲らせた。大西は片方の眉を吊り上げる。


「今、東南アジア方面で、敵が暴れまわっているそうです。連合艦隊主力がソロモン諸島に来るまで、少々遅れる……。そうであれば、できるだけソロモンの敵に損害を与えて、以後の作戦をやりやすくするための布石となりましょう」

「我が艦隊は、第二機動艦隊と違って、潜ってやり過ごすことができない」


 栗田は眉間にしわを寄せた。


「いくら嵐に隠れても、今じゃ電探やらなんやらで見張られている。そう上手く奇襲を仕掛けられるかね?」

「攻撃することに意義がある、と言いましょうか。警戒厳重なら、とっとと転移で離脱するという話ですから、逆に奇襲でもされない限りは酷いことはないでしょう」

「……そうかねえ。いざ始まったら、敵味方どっちとも関係なく、酷い戦場になる予感がするんだがね」


 夜戦を甘くみたらいかんよ、と栗田は言った。

・修正報告:伊勢型の主砲(誤)35.6センチ砲 (正)41センチ砲

(88話で、換装されていました。訂正いたします)

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