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第四三七話、二機艦の出撃、一機艦の躍動


 蘭印を襲撃した異世界帝国艦隊は、二つ存在した。ジャワ島の南にいる艦隊と、フローレス海からジャワ海へ入り込んだ艦隊である。


 前者が外、後者が内とするなら、まず外を行く艦隊だが、こちらはジャワ島からスマトラ島へ向かいつつ、ジョクジャカルタ、マジウン、南遣艦隊司令部のあるスラバヤを空爆した。


 そして内に侵入した艦隊は、セレベス島ケンダリー、マカッサル、ボルネオ島バンジャルマシン、バリクパパンを空襲した後、マカッサル海峡を北上せず、ジャワ海を西進した。

 つまり、外と内、双方とも島を挟んで、同じ方向へ向かっているということだ。


 この動きに、艦隊を派遣しようとしていた連合艦隊司令部は――


「外側の敵艦隊――甲部隊は、島の海岸に沿って移動すると思われます」


 草鹿 龍之介参謀長は言った。


「その間、攻撃目標となる施設に空爆を続けると思われます。が、この艦隊の動向よりも、内側に入り、ジャワ海を移動している乙部隊。これの行動が鍵を握っています」


 乙部隊は、日本軍のテリトリー内を航行している。しかし南にはジャワ島が壁のようになっているため、離脱できない。彼らがテリトリーから脱出するためには――


「シンガポールまで進み、マレー半島とスマトラ島の間、マラッカ海峡を抜けるルート」

「そこはまずいんじゃないですか」


 渡辺戦務参謀が呻いた。


「シンガポールまでこられたら、セレター軍港、リンガ泊地まで攻撃される……。改修艦のスケジュールが――」

「そしてもう一つ」


 草鹿は気にすることなく続けた。


「ジャワ島とスマトラ島の繋ぎ目、スンダ海峡から南へ抜けるルートがあります。ただここは艦隊が通行するのには狭く、潮の流れが早く、航行上の難所です」

「敵としては、マラッカ海峡まで抜けて、我が軍の拠点を叩いて回るのが理想だろうが……」


 山本は地図を睨んだ。


「しかし、こちらの反撃のリスクを考えれば、大事に至る前に離脱しようとするかもしれない」

「はい。しかし、どちらのルートを進むにしろ、スマトラ島の油田やリンガ泊地をやられるわけにもいきませんから、その前に、迎撃するのが理想です」


 草鹿は、スンダ海峡を指し示した。


「我が方の転移連絡網は、この海峡の外と内、双方にあって、海峡自体を通過せずとも通れます。そこで、第二機動艦隊を外と内に転移させ、迎撃させる案を提案致します」


 草鹿の説明はこうだ。

 内側に第二機動艦隊の水上打撃部隊、外側に空母機動艦隊を転移させる。いずれも潜水行動が可能な奇襲部隊であり、おそらく角田覚治中将が水上打撃部隊、山口多聞中将が空母部隊を率いる。


 角田部隊は、潜水行動で、敵乙部隊を待ち伏せして襲撃、近接砲撃戦を仕掛ける。ジャワ海を航行しているならば、敵が引き返さない限り、捕捉は可能だ。もちろん、周辺基地航空隊などの偵察機が、敵位置の通報を行う。


 山口部隊は、奇襲攻撃隊を使って、敵甲部隊を空襲、敵空母部隊を叩く。敵の航空戦力さえ喪失すれば、いかに戦艦が残っていようとも、沿岸砲撃しかできないから被害を抑えられる。


「――何もかも上手くいけば、投入兵力は第二機動艦隊だけで済みます。もちろん、日高見の基地航空隊が、協力すればより敵に打撃を与えられるでしょう」

「よし、それで行こう。二機艦の角田君に作戦を説明し、出撃準備完了次第、ただちに出撃させたまえ」


 山本は決断した。東南アジア救援の算段をつける一方で、来たるソロモン諸島での戦いに目を向ける。


 敵がソロモン諸島の守りを強化する一方、オーストラリアはタウンズビルからニューギニアに北上する構えを見せている。


 それを阻止し、決戦兵力を限定させるためにも、第一機動艦隊のブリスベン空襲は、戦局の鍵を握っている。



  ・  ・  ・



 ブリスベン近海に転移巡洋艦の『釣島』は進出した。


 敵航空機が通過する際は、潜水行動。それ以外は水上航行を続けて、オーストラリア東部に一日かけて接近。機動艦隊の艦載機の攻撃範囲内に到達した。


『釣島』は転移中継装置を作動させ、艦隊の転移点を出現させる。その5分後、第一機動艦隊の艦艇が順次転移してきた。


 護衛の防空駆逐艦が展開し、続いて大鶴型大型空母を筆頭に第一航空戦隊が出現。すでに飛行甲板には、攻撃隊が所狭しと並べられ、誉エンジンが轟々と音を立てていた。


 吹き荒む風。その風向きに合わせて、艦首が向く。

 その間に第二航空戦隊――『大鳳』を先頭に、装甲空母群が出現。これらもすでに飛行甲板上に烈風艦上戦闘機が並び、出撃の時を今や遅しと待ち構えている。


 第三航空戦隊、歴戦の『翠鷹』『蒼鷹』『白鷹』が転移した頃、一航戦の航空隊が、マ式カタパルトを使い、鳥の集団が飛び立つように次々に飛行甲板から離れた。


 五航戦の翔鶴型空母が現れる頃には、二航戦の装甲空母からも艦載機が飛翔。それぞれ準備を終えると、三航戦、五航戦も攻撃隊を放った。


 旗艦『伊勢』ほか、護衛艦隊が、空母群を囲むように陣形を整えていく。


 発艦したのは、烈風298機、流星艦上攻撃機381機、彩雲13機、合計692機がブリスベンへと飛ぶ。


「敵さんが、油断してくれるといいのだがな」


 戦艦『伊勢』から、西の空へと消えていく攻撃隊を見送り、小沢 治三郎中将は呟いた。


「昨日までの偵察では港に入りきらない艦艇が、洋上に投錨していた」

「こちらが近づけば、十中八九、防御障壁で自艦を守るでしょうね」


 神明参謀長は首を傾けた。


「複数並んで停泊している艦艇は優先して叩くように命じてあります。あとは、障壁がない駆逐艦と輸送艦ですね」

「本来なら、敵空母を優先して叩きたいところだが」

「はい。対障壁貫通兵器が欠乏していなければ」


 うむ、と小沢は頷いた。


「しかし、敵の補給路が限定されかけている状況だからな。輸送船叩きは、むしろ敵の行動を牽制できる」

「不幸中の幸いです。戦艦、空母を叩けるなら、普通はそちらを優先してしまいますからね」

「……敵の空母が健在ということは、攻撃隊が帰投する後をつけて、我が機動艦隊に反撃してくるだろうな」


 小沢は水平線の先、ここからは見えないがブリスベンの地を凝視する。


「防御障壁を持った艦艇同士の戦いをやるには、こちらは無駄撃ちするだけの弾薬もない。転移で逃げるかね?」

「いっそ珊瑚海に展開している別の転移巡洋艦を利用して、タウンズビルにいる敵を襲撃しても面白いかもしれません。輸送船を徹底的に沈めて、敵艦隊の行動能力をさらに制限してやるというのはどうでしょう?」

「艦載機用の爆弾を全て使い切るつもりか?」


 小沢は苦笑する。


 空母というのは箱である。艦載機の数を増やすべく、格納庫のスペースを確保しようとする一方、その艦載機用の燃料や、各種爆弾などの武器弾薬を積まねばならない。

 大型誘導弾の在庫は、もうほとんど残っていないので、ロケット弾や小型の爆弾がメインになるだろう。


「烈風にしろ流星にしろ、光弾砲がありますから、輸送艦のような軽装甲船舶なら、やれます」


 敵船に近づくわけなので、アプローチを間違えると撃墜されやすくなるリスクはあるが。


「敢闘精神が旺盛なことだ。山口に似たかな?」

「そんなつもりはないのですが……。そうかもしれません」


 今度は神明が苦笑いを浮かべた。

 約一時間半後、ブリスベン港は、炎に包まれた。

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