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第四三六話、東南アジア救援


 異世界帝国軍、蘭印を空襲! 空母を含む有力な艦隊を発見せり!


 内地にもたらせた緊急報告は、軍令部、連合艦隊はもちろん、大本営すら衝撃を与えた。


『東南アジアの石油は、万が一、米国が今次大戦に脱落しても、日本が異世界人と戦うために必要なものである!』

『断固、敵を撃滅し、南方石油地帯を死守すべし!』


 陸軍省はもちろん、海軍省からもそれらの声が上がり、軍令部でも東南アジアの防衛のための戦力を送り込むべきという意見が出た。


 作戦担当の軍令部第一部、その部長である中澤 (たすく)少将は、この攻撃は陽動ではないか、と最初は思った。


 ソロモン諸島に大艦隊があり、しかしその本命はインド洋であり、大陸での戦いを優勢に進めるためには後者に全力を傾けると予想されたからだ。

 それ以外の攻撃は、つまりところ、こちらの攻撃を逸らす、あるいは別方向に注意を向けたいがための陽動だと、看破した。


 だから、陸海軍のお偉いさん方が、南方死守に戦力を送れと、パニックを起こそうとも、敵が一撃離脱に徹してくれれば、連合艦隊をそちらに送れなどという、敵に利する行為をさせなくても済むと考えた。駆けつけた頃には、敵が立ち去っているからだ。


 だが、現実問題として、異世界帝国の戦艦10、空母15を含む有力艦隊が確認され、さらにジャワ島方面へ空襲を繰り返し、現地の施設を攻撃しまわっているという。


 ジャワ島に有力な油田はないが、原油を石油へと製油する重要な製油所があった。これをやられては、当然、石油が内地などに運び、運用することができない。


 しかも海岸に沿って、ジャワ島からスマトラ島に移動されれば、そこには油田と製油所が複数存在する。特にパレンバンをやられれば、日本軍は深刻なダメージを受けることになる。


 確かに、現在、日本はアメリカと同盟関係にあり、石油も輸入できる。しかし異世界帝国との戦いは予断を許さず、大国アメリカのみ頼りにしていれば、何かあった時に共倒れとなる。そんなことにならぬよう、資源入手経路は複数あったほうがよい。

 そう考えるならば、東南アジアにすぐさま戦力を派遣して、異世界帝国艦隊を撃退しなければならない。


 普通なら、どう急いだって間に合わないのだが、転移連絡網が整備された現在、内海である東南アジアへは、すぐに出撃準備が整った時点で艦隊派遣が可能だ。それこそ、南東方面艦隊の日高見すら、転移で東南アジアへ送りつけることだってできる。


 軍令部総長、永野元帥は、報告に対して考えをまとめるようにしばし黙り込んでいた。連合艦隊司令部に派遣した伊藤 整一軍令部次長から、連合艦隊のインド洋派遣についての話し合いの結果を聞いて、さらに言葉に窮したのだ。


 インド洋よりソロモン諸島の敵を先に叩く。山本五十六長官の覚悟めいた発言の直後の、東南アジア蘭印への攻撃である。


 会談した時と状況が違う、といえばそうなのだが、だからといって、陸軍・海軍上層部の意見を鵜呑みにはできないところもある。軍令部としては、インド洋が本命であり、東南アジアへの攻撃は陽動ないし牽制と見ていたからだ。

 中澤の見守る中、永野総長は重々しく、ゆったりとした口調で告げた。


「……結局のところ、動くのは連合艦隊だ。どれだけの戦力を送るにしろ、山本君の匙加減一つ、ということになるだろう」

「では、対処については、連合艦隊司令部に一任すると」


 伊藤の確認に、永野は小さく頷いた。


「フム。現場の判断というものだ。……君は何か意見はあるかね、伊藤君」

「第一機動艦隊の支援任務に出ている第九艦隊を急ぎ、呼び戻してはどうでしょうか?」


 第九艦隊は、ぶ号作戦を行った第一機動艦隊の陽動を兼ねた、フィジー、サモア空襲の任務を果たし、ひとまず役目は果たしている。補給は必要だし、連戦になるが、いざという時の戦力になるだろう。


「もちろん、第九艦隊単独で敵艦隊に太刀打ちできるかは難しいと思いますが、基地航空隊と共闘すれば、手傷を負わせるくらいはできるかと」


 それで返り討ちにあって壊滅されても困るが――中澤は思ったが、口には出さなかった。


 連合艦隊がどれくらい戦力を送ってくれるかわからないが、ある程度の戦力を出してくれれば、第九艦隊もその支援として助けになるだろう。


「敵が、あくまで一撃離脱に徹してくれればよいのですが」


 中澤は言った。ジャワ、スマトラが叩かれるのは日本にとって大きな損害であるが、敵が占領を仕掛けてこない限りは、有力な日本艦隊が駆けつけたとしって撤退する可能性もあるからだ。


 だが、そんな期待は、次にもたらされた報告で消えた。


「総長、大変です! マカッサル、ケンダリーが敵の襲撃をうけました! 敵艦隊がフローレス海に侵入しております!」

「!?」


 セレベス島の飛行場が攻撃を受けた。それはつまり、敵はボルネオ島も攻撃範囲に収めてつつあるということだ。


 スマトラ島に並び、ボルネオ島には油田と製油所が存在する。ここの攻撃を許せば、南方からの石油輸入が大打撃を被ることになる。そして敵が侵入したということは、ボルネオ島のみならず、フィリピン方面まで出てきて暴れまわる公算が高い。


 もはや、何としても排除しなければならない敵に昇格したのであった。



  ・  ・  ・



 連合艦隊司令部は、ソロモン諸島に進出してきた敵大艦隊に向けて、可能な限りの戦力を投入するつもりだった。


 だが、東南アジアを襲った敵の行動によって、その投入兵力をそちらに向けねばならなくなった。


「ここまで侵入されていると、さすがに無視はできない」


 持久のために確保した東南アジアである。そこをやられることは、日本としてはますます米国に依存度が高まることであり、下手をすれば彼らに体よく利用される危険性が増した。


 アメリカや西洋における白人至上主義にかかれば、黄色人種の軍隊など、囮や使い捨ての駒として使われるのがオチである。

 山本五十六としては無念ではあるが、優先順位の変更もやむを得なかった。


「まず、第七艦隊と第一機動艦隊は除外する」


 地図と睨めっこしながら、渋い顔で山本は告げた。


「第七艦隊は、インド洋での作戦のために温存する。ソロモン諸島攻撃、そして此度の東南アジア救援でどれだけ連合艦隊が消耗するかわからないが、残った戦力と合流した際の保険としても、第七艦隊は動かさない」


 第一機動艦隊は、現在、ニューカレドニア島にいて、ソロモン諸島に現れた敵に対する牽制、さらにタウンズビル方面から北上する可能性のある敵船団の足止めのために行動中であり、これも動かすことはできなかった。


 残っているのは、内地で修理の終わった旧第一艦隊戦艦群ほか、修理復旧・演習組と、第二機動艦隊、第一〇艦隊、北方警備の第五艦隊、そして軍令部直轄部隊であり、ぶ号作戦に協力した第九艦隊ということになる。


「ソロモン諸島攻撃を延期するのでしたら――」


 樋端航空参謀が発言した。


「日高見ほか、第十一航空艦隊を東南アジア救援に差し向けることも可能です。草鹿長官は、南東方面艦隊着任前は、東南アジア方面の守備を担っていましたから、土地勘があります」


 南東方面艦隊司令長官の草鹿 任一中将の第十一航空艦隊は、東南アジアにあって、ニューギニア方面の異世界帝国航空隊とやりあっていた。土地勘があるというのは、そういうことだ。

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