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第四三三話、状況把握からの反撃、しかし――


 第一機動艦隊は、ぶ号作戦を実施するため、転移巡洋艦を4隻参加させていた。


 目標である三島攻撃時に転移で移動したり、位置変更、敵が大艦隊で出撃してきた際、連合艦隊が駆けつけるための中継点として利用するため、珊瑚海に展開させたのだ。


 そのうちの1隻、もっとも南寄りでオーストラリア大陸に近づいた『釣島』に、第一機動艦隊司令部は、ブリスベン近海まで進出するよう命令を発した。


 参謀長である神明少将が挙げた三つの案のうちの第二案、ブリスベン攻撃のための準備だ。


 一方で、第一機動艦隊自体は、ニューカレドニア島の南西側から、東側に移動する以外は、特に行動せず待機した。


 エスピリトゥサント島、エファテ島、そしてニューカレドニア島が、日本軍の攻撃を受けたことは、異世界帝国側にも伝わっているはずである。


 おそらくオーストラリア大陸東岸に近い地域の飛行場からは、日本機動部隊を捜索するため、足の長い重爆撃機が飛んでくる。


 第一機動艦隊は、これら様子を見に来た重爆撃機を撃墜することに注力する。高高度を飛行する敵機に対して、マ式エンジンを搭載した高高度迎撃戦闘機の青電が、『祥鳳』『瑞鳳』に搭載されている。


 送った重爆撃機が撃墜により未帰還となれば、異世界帝国は、艦隊の姿は見えずとも日本軍がまだいると判断するだろう。いなければ、そもそも撃墜されることなく捜索ができるからだ。


 そうやって、ニューカレドニア島近海に、敵がいると思わせることで、異世界帝国軍の反応を見る。


 ソロモン諸島に進出させた大艦隊から、部隊を差し向けてくるのか? はたまたオーストラリアにいる艦艇で、部隊を編成してくるのか?


 それをはっきりさせるため、第一機動艦隊は、彩雲偵察機による長距離偵察を実施する。ソロモン諸島はもちろん、タウンズビル、ブリスベン、シドニーと、その間の海域を移動する敵船舶の索敵も兼ねて、広範囲の敵情収集を行った。


 そうしてわかったことは、第一機動艦隊司令部にまとめられ、次の行動のための糧となった。


 一機艦旗艦『伊勢』。山野井情報参謀がまとめたそれに目を通し、小沢は眉間にしわを寄せた。


「――シドニーにいた艦隊が、ソロモン諸島に現れた艦隊と見てよさそうだな」


 彩雲によるシドニー偵察で、同地にいた異世界帝国艦隊が姿を消しているのが確認された。周辺海域を索敵した別の彩雲もまた、敵大艦隊の姿を発見できず、ブリスベンへ北上していたりしていないのもわかった。


「しかし、問題はタウンズビルとブリスベンか」

「以前より、船舶移動が活発だったのですが――」


 山野井は、控えめな調子で告げた。

 ニューカレドニア島から一番近いオーストラリア東部ブリスベンには、戦艦15、空母10を含む艦隊を輸送船200隻あまりが確認された。

 そこから大陸に沿って北上した先にあるタウンズビルには、戦艦5、空母10、巡洋艦、駆逐艦100以上、輸送船200近くがあった。


「思いの他、艦艇数が増えています。連日、哨戒空母部隊が偵察していたはずですが、それらより数が多いです」

「まさか、こいつらも転移でフネを移動させたのか……?」


 小沢は訝ると、山野井は答えた。


「わかりません。今のところ、ゲートなどは確認されておりません」

「どう思う、神明?」

「確かに。船舶移動が多いのは確認していましたし、フネの数もある程度数えていたにもかかわらず、ここにきて急に増えるというのは、異常です。ただ転移でなければ、潜水機能付きの艦艇の可能性が高いですね」


 そもそも、潜水機能付き艦艇は、異世界人の得意とするところだ。巡洋艦や駆逐艦には、これまでも潜水可能型もあるし、鹵獲したそれらを日本海軍も使用している。


「これは、狙ってますね。敵はニューギニア島への上陸を」


 タウンズビルから北上して珊瑚海を突っ切り、ポートモレスビー辺りに。小沢は首を傾けた。


「問題は、ブリスベンの艦隊だ。輸送船の数から、本来はタウンズビルへ向かう艦隊と合流する腹積もりだったのだろうが、我々がニューカレドニアにいることで、こちらへ向かってくる可能性があるだろう」

「ええ。我々は、敵からしたらかなり気になる場所に潜んでいますからね」


 ニューカレドニア島に日本軍が居座れば、ソロモン諸島の艦隊の後ろを衝かれるかもしれないし、ブリスベンに向かってくるかもしれない。それは異世界帝国にとって厄介この上ないだろう。


「ブリスベンの艦隊が、こちらの戦力を掴めるまで動かないのであれば、タウンズビルの艦隊も足踏みを強いられるでしょう。こちらはブリスベンに向かわせている転移巡洋艦を使って、明日には空襲を仕掛けられます」

「うむ。我々がニューカレドニア島にいると見せかけて、ブリスベンの敵を強襲するのだ」


 転移を用いなければ、航空攻撃も艦隊進撃でも届かないと高をくくる敵に、強烈な一撃をぶちかますのだ。

 ただし、防御障壁を持つ戦艦、空母ではなく、輸送船やブリスベン港施設、燃料タンクなどを破壊し、以後の行動に制限を加える戦い方になるが。


「あと気になるのは、ソロモン諸島の敵だな。エスピリトゥサント島やニューカレドニア島はこいつらにとっては重要な後方拠点だったはずだ。そこを我々が押さえているとなれば、連中も無視はできんだろう」


 小沢は懸念した。敵がゲート以外に転移方法がなかったとしても、その気になれば、一日半から二日もあれば、部隊を送り込める位置にいる。ちょうど、ニューカレドニア島からブリスベンまでの距離と同じように。


「それならそれで、敵を引きずり回すだけです」


 神明は微笑した。


「ソロモン諸島からの艦隊が出て、ニューカレドニアに来る頃には、ここはもぬけの殻。一機艦はブリスベンですから」



  ・  ・  ・



 連合艦隊司令部は、ソロモン諸島にゲートと共に現れた異世界帝国艦隊への対応のため、艦隊の出撃の用意を進めていた。

 敵情把握を行いつつ、どう攻撃するか。作戦を練るのだが、入ってくる報告には気がかりなものが少なくなかった。


「敵は、ガダルカナル島に兵員と物資を揚陸。基地化を図りつつあり」

「フロリダ島、バウ島にも上陸!」


 ソロモン諸島の島々を拠点化しつつあるようだった。

 連合艦隊旗艦『敷島』では、司令部の参謀たち、そして山本五十六長官含め、危機感を抱いた。時間をかけるほど、敵はこの方面の戦力を強化し、一大拠点化させてしまうだろうと。


「明らかに、敵は我々を誘っています」


 樋端航空参謀は言った。


「拠点化をこちらが容認しないとふんで、連合艦隊の主力がやってくるのを、大艦隊で待ち構えているのです」

「ふむ……」


 山本は頷いた。進出してきた敵を早期に撃退しなければ、む号、ぶ号作戦の成功が水泡に帰する。


 現地の南東方面艦隊、第八艦隊だけでは荷が重い。連合艦隊の主力、各機動艦隊を結集して当たらねばならない。

 しかし、そこで、思いがけないストップがかかることになる。旗艦『敷島』を、軍令部次長、伊藤中将と第一部長の中澤少将が訪れたのだ。


「ニューギニア方面は一時放棄もやむを得ません」

「どういうことかね、伊藤君?」


 軍令部からの突然の訪問と、向けられた言葉に山本は訝しむ。伊藤は告げた。


「マダガスカル島に集結していた敵の大船団が、行動の兆候を見せております。連合艦隊には、インド洋の制海権の確保、引いては、大陸決戦の勝利のため、これを撃滅していただきたい」

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