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第四二八話、兵力不足


 ぶ号作戦には、問題がある。


 第一機動艦隊司令部では、そういう認識があった。


 攻撃目標は3つの島。エスピリットサント島、エファテ島、そしてニューカレドニア島だ。

 この3カ所を叩くことで、オーストラリア方面と、南東太平洋方面の島々を分断するのが、ぶ号作戦である。


 この両方面を繋ぐ輸送ルートの中心が、ニューカレドニアであり、そこより北のエスピリットサント、エファテは、日本軍にとって邪魔な存在だった。


 この2つの島は、ソロモン方面を睨む拠点として悪くなく、港もあって補給もスムーズだ。さらに重爆撃機ならばラバウル・ニューギニア方面を充分射程に収めていて、厄介この上ない。


 輸送ルートの中継点であるニューカレドニア島はもちろん、エスピリットサント、エファテは、進撃のために是が非でも無力化しておきたい場所だった。

 だが実際に作戦を実行する第一機動艦隊にとって、面倒なのは、位置関係からこの3カ所を同時に攻撃できないことが問題だった。

 もっとも警戒されているソロモン方面の敵索敵を躱して、北寄りに迂回する。そこから南下してエスピリットサント、エファテは同時に攻撃圏に収めることが可能だ。だがニューカレドニア島から距離があるため、艦載機の足が届かない。


 転移離脱による帰投をすれば、数字の上では可能かもしれないが、パイロットたちの負担は相当なものになる。おそらく反復出撃もあり得る第一機動艦隊としては、一回出撃したらその日は疲労で使えなくなる長距離飛行は、採用し難い策だった。


 昨日、第九艦隊がニューギニアの第九航空艦隊を活用したが、その大半は各1回しか出撃しなかったのも、機体のメンテとパイロットの疲労を考慮しての結果だ。

 そして何より状況を難しくしているのは、第一機動艦隊の出撃に前後して、異世界帝国軍は、エファテのハバナ港に、有力な艦隊を入港させたことだった。


 エスピリットサント島の港にも、小型空母3隻、巡洋艦4隻、駆逐艦5隻の存在が確認されていたが、ここにきて、ハバナ港にも戦艦3隻、空母5隻、巡洋艦5隻、駆逐艦15隻ほか輸送艦が新たに報告されていた。


 オーストラリアで準備中の敵大艦隊の先遣隊の可能性も捨て置けないが、これから仕掛けましょうというタイミングで、攻撃対象が増えるのは、第一機動艦隊の作戦計画を狂わすに充分な存在だった。


 できるならば、三島まとめて攻撃し、連合艦隊司令部の草鹿参謀長が言うように、一撃のもとに粉砕してしまうのが理想ではある。そしてそうなるよう、転移戦法を用いて立ち回ろうと第一機動艦隊は考えていた。


 が、ただでさえ攻撃目標が多い。エスピリットサント島だけで7カ所。エファテ島は4カ所だが、有力艦隊の存在が、無視できないためこれも叩く必要がある。

 中途半端な攻撃にならないようにするなら、この二つの島の攻撃に手一杯となり、ニューカレドニア島には素直に、別日に攻撃を仕掛けざるを得なかった。


 しかしそうなると、エスピリットサント、エファテを叩かれた敵は、ニューカレドニア島への襲撃を当然警戒し、防備を固めてしまうだろう。


 比較的重要拠点であるニューカレドニア島には、五つの飛行場があり、防御障壁もあれば、先の二島を攻撃した日本軍と正面からの殴り合いとなる。

 いや、それ自体は構わない。対防御障壁用の兵器を試作品込みでかき集めたので、ニューカレドニア島の敵が守りを固めようが、最低限は確保してある。


 当初の想定は崩れてしまったが、作戦は実行中であり、これを果たさなくてはいけない。ただ、オーストラリアの東海岸の拠点に、大艦隊が控えていることが確認されている現状、消耗は抑えたいというのが本音だった。


「これまでのパターンを考えれば、アヴラタワーを狙うところですが――」


 神明第一機動艦隊参謀長は告げた。


「艦載機の爆弾、誘導弾を無駄にせず、最大限の効果を発揮させることを重視させるため、最優先は、各施設の防御障壁発生装置を破壊します」


 旗艦『伊勢』の作戦室で、各攻撃目標と、自艦隊の移動ルート、攻撃隊発進予定などの確認が行われている。


「障壁さえなければ、後はやることは従来のそれと変わりません。思う存分、敵施設を爆撃できます」

「うむ。我が艦隊の主力艦載機は、遮蔽装置が搭載されていない通常型だ。敵電探をかいくぐっても、限界がある」


 小沢司令長官は、参謀たちを見回した。


「しかも攻撃カ所は複数だ。どこかで敵に察知されるだろう。しかし、複数同時に襲撃することで、敵に相互支援させない。奇襲が強襲に変わろうとも、先制の勢いのまま、目標を無力化させるのだ」


 エスピリットサント島、エファテ島の敵を叩く。この際、ニューカレドニア島は、後回しと諦める。

 参謀副長の大前大佐が首を横に振った。


「しかし、せっかく白鯨号が、ニューカレドニア島近くにまで転移中継ブイを落としに行ってくれたのに、活用できず少々もったいないですな」

「まあ、そうなんですが――」


 航空参謀の青木中佐は苦笑した。


「私から言わせてもらえるなら、攻撃隊の振り向けを押さえられるのはありがたいです。エスピリットサント、エファテ、そしてニューカレドニアを同時に攻撃隊を出すなんて、割り振りが大変でした」


 じろり、と小沢が青木を見た。元々厳つい顔つきの小沢である。睨まれたのでは、と青木は萎縮する。


 本音を言えば、三島まとめて先制攻撃で仕留めたかったのだろう、と神明は、小沢の考えを察した。元々、小沢は先制攻撃主義者だ。


 奇襲、アウトレンジ、攻撃される前に攻撃を体現するのが彼の好む戦術であり、砲術を早々に見限って水雷、そして航空に移ったのも、攻撃可能範囲の広さ故だった。

 今は誘導兵器が航空隊のセットで運用されているところがあるが、射程が伸びれば、小沢は航空屋からミサイル屋に移るのではないかと、神明は思っている。


 かくて、第一機動艦隊は、攻撃隊の準備にかかり、日の出と共に出撃させた。


 まず、第一次攻撃隊を、エファテ島に向けて発進。その直後、二日前に分かれた転移巡洋艦戦隊の1隻『宮古』が待機しているエスピリットサント島北西300キロの海域に転移。そこで第二次攻撃隊を飛ばすのだった。



  ・  ・  ・



 南東方面艦隊司令部、海氷飛行場『日高見』。

 草鹿 任一中将は、参謀長の富岡 定俊(さだとし)少将に確認した。


「小沢の機動艦隊が、攻撃を開始したって?」

「はい。エファテ島に第一次攻撃隊、エスピリットサント島に転移後、第二次攻撃隊を発進させたようです」

「んん? 第九航空艦隊の白鯨が、ニューカレドニアの近くに転移ブイを落としに行ったよな? 小沢は使わなかったのか?」

「作戦検討段階より、現地に駐留する敵艦隊の規模が大きくなってますから。……おそらく、取りこぼしがないように、二つの島に戦力を集中させたのだと思われます」


 率直に富岡が告げると、草鹿は口元を歪めて、少し考えた。


「要するに、手が足りんということだろう。第九艦隊は、東で陽動をやってて、第九航空艦隊も忙しいそうだ。……よっしゃ、じゃあ、こっちで暇している第八艦隊から空母を回してやろう」

「よろしいのですか?」

「小沢とは同期の桜じゃ。あいつも水臭いからな。こっちから手を貸してやらんと頼ってこんだろう」


 海兵37期の同期である草鹿と小沢である。

 なおハンモックナンバーは草鹿が上なので、直接の部隊を使うと指揮権云々で外野がうるさいので、第八艦隊の遠藤中将(海兵39期)の部隊を動かすことで、小沢の指揮の邪魔をしないように配慮するのだった。

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