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第四二七話、ビティレブ島空襲


 エリス諸島が襲撃を受けている頃、異世界帝国軍もそれを座して見守るだけではなかった。


 フィジー、サモアから飛行艇が発進し、日本軍機動部隊を捜索に向かった。南海艦隊司令部も、敵の意図ははっきりしないものの、南東太平洋方面の島々の拠点が攻撃される確率は高いとみて、敵機動部隊の発見と撃滅を命じたのだ。


 そして午後、サモア、ウォリス島から飛び立った偵察機が、空母3隻を含む日本機動部隊を発見した。今から出撃すれば攻撃時は日が沈み、帰還時には完全に夜になってしまうため、攻撃はその日は見送った。


 夜間、洋上を移動する艦隊への爆撃は、練度と装備の面で難しいという判断である。また日本艦隊の位置から、早朝にサモア諸島を攻撃圏に収めるだろうと予測された。


 ウォリス島、フィジー諸島最大の島、ビティレブ島に展開する異世界帝国重爆撃機隊は、翌日の日本軍のサモア攻撃に反撃できるよう、準備にかかっていた。

 そして4月22日、早朝。フィジーのビティレブ島に日本軍航空隊が殺到した。


「敵はサモアに来るのではなかったのか!?」


 ビティ=フィジー、レブ=大きい、を意味するビティレブ島には、異世界帝国軍の重爆基地が三つ、中・軽爆基地が一つずつ、さらに飛行艇用の水上機基地が四つもあった。

 フィジー諸島唯一にして最大の拠点はしかし、285機の日本機の奇襲で幕を開けた。


 敵がサモアを狙っていると思い込んでいたフィジーの各飛行場はパニックに陥った。

 島中央のアヴラタワーが、遮蔽に隠れた銀河陸上爆撃機隊によって破壊され、続いて各基地上空に突如飛来した航空機により、爆撃機や戦闘機、湾内の飛行艇は次々に破壊された。

 明らかに昨日発見した3隻の空母だけではなかった。他にも機動部隊がいたのだ!


 そのカラクリはこうだ。


 第九艦隊は、エリス諸島の異世界帝国拠点を空爆したのち、陸上基地航空隊は転移で帰還させた後、サモア諸島方面へ針路をとった。


 ただし、艦隊を二分した。



・第九艦隊:甲部隊

 大型巡洋艦:「妙義」

 空母:「翔竜」「龍驤」

 特務艦:「鰤谷丸」

  第八十七駆逐隊:「柏」「黄菊」「初菊」「茜」

  第八十八駆逐隊:「白菊」「千草」「若草」「夏草」


・第九艦隊:乙部隊

 大型巡洋艦:「生駒」

 空母:「神鷹」「角鷹」

 特務艦:「牛谷丸」

 第九水雷戦隊:(軽巡洋艦)「鈴鹿」

  第六十七駆逐隊:「鱗雲」「朧雲」「霧雲」「畝雲」



 第九艦隊司令長官、新堂中将は甲部隊を率いて、エリス諸島を南下し、フィジー諸島を目指した。


 甲部隊は、全艦が潜水行動な可能な艦で構成されており、これで敵の索敵機の目を逃れていたのだ。


 一方の乙部隊は、一部を除いて潜航できない艦があって、水上を航行しつつ囮航路であるサモアへ向かった。

 異世界帝国偵察機が発見したのは、この乙部隊だったのである。


 新堂の想定では、もし乙部隊が、敵の空襲を受ける場合、甲部隊の方へ転移することで退避し、攻撃を躱す予定だった。


 異世界帝国側は、夜間攻撃能力が低く、攻撃を見送ったため、襲撃はなかったが、結局のところ、フィジー・ビティレブ島攻撃のため、乙部隊の空母、特務艦は転移で甲部隊に合流した。


 そして転移中継装置を利用し、ニューギニアの第九航空艦隊を転移(召喚)。4隻の空母、2隻の特務艦の艦載機を合わせて、285機の航空機をまとめて投入したのだ。


 結果、ビティレブ島の各飛行場、水上機基地は壊滅し、その航空機はことごとく破壊されることとなった。

 呼び寄せた基地航空隊を転移で撤収させ、艦載機は空母、特務艦に収容すると、第九艦隊は再び移動する。


 ウォリス島の敵飛行場は、フィジーに現れた日本機動部隊を捜索に出撃し、サモアの航空隊も同様だろう。

 その裏をかくべく、サモアに向かっていた乙部隊――大巡『生駒』、軽巡『鈴鹿』、一部潜航可能な二隻が、転移巡洋艦の役割を果たし、甲部隊をサモア諸島へ呼び寄せたのだ。


 フィジーにいたはずの空母と特務艦6隻は、今度はサモアに現れた。第二次攻撃隊81機が発進。こちらは全て遮蔽装置付きの九九式戦闘爆撃機と二式艦上攻撃機であり、奇襲攻撃隊として、ウポル島、ツツイラ、パゴパゴを襲撃。アヴラタワーを破壊し、その行動力を大幅に失わせた。


 第九艦隊の往復パンチは、フィジー、サモア双方の異世界帝国を翻弄し、その辺境戦力に壊滅的損害を与えたのだった。



  ・  ・  ・



 その頃、小沢中将率いる第一機動艦隊は、フィジー諸島ビティレブ島の西、そして攻撃目標の一つ、エファテ島の東、つまり双方のほぼ中間地点を南下していた。

 第一機動艦隊旗艦『伊勢』。


「現れんなぁ」


 青木航空参謀が、雲が点在する空を見上げる。航海参謀の山下少佐は言った。


「そういうルートを選んでいますからね」

「言ってみれば、ここは敵勢力圏のド真ん中だろう。いつ敵の哨戒機が飛んできてもおかしくないはずなんだ」

「敵中だからこそ、だな」


 神明参謀長がやってきた。


「サンタクルーズ諸島の敵は、ラバウル・ソロモン方面を見ているし、エリス諸島は西と北を警戒していた。フィジー諸島も北西の比較的広い範囲を注意していたが、第九艦隊がエリス諸島を襲撃したことで、その範囲が北寄りになった」

「むしろサモア諸島の方に意識が行っていたようですからね、第九艦隊のおかげで」


 山下が言えば、青木は首を傾げた。


「しかし、エスピリットサントやエファテの飛行場が、ソロモン方面以外にも索敵機を飛ばしてきてもおかしくないと思う」

「サモア方面に向かっているという時点で、それらの基地は後続がいないか北寄りを念入りに探っていただろう。つまり、我々が通過した後をな」


 神明はそこで眉をひそめた。


「むしろ今日のフィジー攻撃で、エファテから重爆辺りが飛んでくる可能性もある」

「さらにいえば、このまま艦隊が南進すれば、ニューカレドニアとサモア方面の輸送ルートを航行している敵船舶との遭遇率も上がってくると思います」


 山下は指摘した。


「この数時間が正念場ですね」

「その数時間で白鯨号が、中継ブイを投下するのが早いか……。それが勝負の分かれ目かもしれん」


 神明は腕時計を見つめた。


「仮に敵がこちらを発見しても……いや、発見してくれたほうが、いい陽動になるかもな」

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