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復活の艦隊 異世界大戦1942  作者: 柊遊馬


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第四二六話、空飛ぶ転移中継


 そろそろコイツに名前が欲しいところだ――白鯨号の機長、田島 晴夫少佐は思う。


 異世界帝国軍の重爆撃機MEBB-21パライナを鹵獲(ろかく)した日本海軍は、そのうちの1機を魔技研に与えた。

 解析し、研究する対象だったのだが、魔技研を擁する軍令部第五部は、一通りの解析を終えると、実際に飛ばして、検証と実験を繰り返していた。


 鹵獲機ゆえに、日本海軍から正規の機体コードもなく、ただ白鯨号とだけ呼ばれているのが田島らの乗るパライナ重爆撃機だった。

 その辺りの名付けは放置気味なのに、仕事に関しては忙しい。


 今回の出撃も、軍令部が検討している米軍との共同戦線――バックヤード作戦に参加した際に用いられるだろう戦術の実証を兼ねている。

 これが上手く行くなら、このパライナ機をベースにした、大型機を生産、実戦に投入されるようになると説明された。


 つまり、重爆撃機、否、特殊大型機が、転移中継装置になるということだ。


「機長! フナフチ環礁です!」

「おう! ――渡会、第九航空艦隊司令部に、到達を打電!」

「了解!」


 目標であるフナフチに、白鯨号は到着した。どこまでも広がる紺碧の海に、歪なリングを形成する環礁。30近くある小さな島々は、大半が無人島だ。


 しかし、ここには飛行場があって、港もあって、この方面の海上輸送の一つの拠点でもあった。


「飛行場上空に敵機! ……哨戒飛行中の模様」

「ヌクフェタウとナノメアで、攻撃が始まったせいだろう」


 田島は言った。先ほど、味方と敵、双方の通信を拾った。こちらは『攻撃す』、向こうは『日本軍の空襲』を告げるそれだった。


「特にヌクフェタウは、ここからも近いからな。今頃、襲撃に備えて、急ピッチで戦闘の準備をしているかもしれない」

「では、突っ込みますか、機長!」


 主操縦士が振り返ったので、田島は声を張り上げた。


「ようし、沓井(くつい)、やってしまえ!」


 白鯨号はスロットルを開け、最高速度に加速。フナフチ飛行場上空へと直進する。遮蔽装置で、レーダーも、目視からも逃れているが、敵戦闘機が飛んでいるのは緊張を隠せない。


 こちらを守ってくれる護衛機がいないのは、実に心もとないのだ。しかし、それもここまでだ。

 田島は席を立ち、機内を圧迫している機械、その操作パネルに触れた。


「転移中継装置、作動!」


 航空機搭載型転移中継装置。艦船搭載型より軽量、小型に作られた試作品が、マ式エンジンとは別の甲高い起動音を鳴らした。


 しかし、それも数秒のことで、あっという間に静かになった。田島は装置がきちんと稼動しているのを確認し、小さく息をもらした。


「動いてないんじゃ、と不安になってしまうなぁ」


 機械というのはうるさいのが当たり前。静かな機械など動いているのか心配になってしまう。ここで転移中継装置が動かなかったり、故障していたら、来た意味がなくなる。フナフチ攻撃作戦も失敗だ。


 田島は窓から機外を覗く。まだ変化はない。相変わらず、海は静かで、飛行場の周りを敵の空中警戒小隊が周回している。


「電探に反応! 来ました!」

「!」


 まばたきの間に、白鯨号の周りに次々にレシプロ航空機が姿を現す。翼に日の丸をつけたその機体は、紛れもなく味方だ。


 第九航空艦隊の二九二空の暴風戦闘機、五九一空の九七式艦攻、五九二空の九九式艦爆が、白鯨号の転移中継装置の導きで、遥か西方のニューギニア島から瞬間移動してきたのだ。


 本来なら、航続距離の関係上、とても飛行できない機体でも。


 ――航空機搭載型の中継装置、作動良好!


 遥々、単機で飛行して甲斐があった。艦隊が転移巡洋艦で飛んでくるように、飛行する航空機に、他の航空隊が馳せ参じる。これはまた作戦の幅が広がるだろう。


 早速、転移した航空隊は攻撃に移った。コルセア(暴風)戦闘機の一個中隊が、基地上空の敵戦闘機へ、弾丸のごとく突っ込み、残る暴風と九九式艦爆が降下を開始して、飛行場と地上施設へ攻撃を行う。


 九七式艦攻隊は、フナフチ港にいる敵輸送艦や補助艦艇、護衛の駆逐艦へと誘導弾を叩き込む。


 フナフチ飛行場は瞬く間に、待機中の航空機が潰され、建物が吹き飛んだ。発電施設を真っ先に叩き、防御障壁があっても発動できないようにする。そうなってしまえば、後は一方的に叩くだけである。


 エリス諸島の三つの環礁にある異世界帝国拠点は、こうして壊滅的打撃を受けたのだった。



  ・  ・  ・



 エリス諸島、日本軍の攻撃を受ける――


 ムンドゥス帝国南海艦隊司令長官ロウバート・ケイモン大将のもとに、陸軍南方軍司令部や、現地守備隊から、そうした悲報が届いた。


 日本軍が動いた。

 ニューギニアに攻め込まれ、南東太平洋が戦場となった今、ムンドゥス帝国の陸海軍は反撃を準備していたが、先手を取られた格好である。


「……敵は東へ移動しているのか」


 ケイモンの呟きに、南海艦隊参謀長に就任したペーダーン少将は口を開いた。


「最初に攻撃を受けたのはヌデニ島の先見偵察艦隊。その後、ナノメアが攻撃を受け、間髪を入れず、ヌクフェタウ、そしてフナフチがやられました」


 地図上で確認しても、徐々に東へ攻撃が移っているように見えた。


「ナノメアを襲った敵は双発機が含まれているとのことで、おそらくギルバート諸島から南下してきた基地航空隊と思われます。しかし他は、すべて単発機だったとのことなので、空母機動部隊による攻撃の可能性が高いです」

「……何故、東なのだ?」


 ケイモンは、やはり呟いた。まるで独り言のようだが、聞き取ったペーダーンは自分の意見を口にした。


「オーストラリア方面に米海軍が侵攻するための、露払いではないでしょうか?」

「アメリカ……?」

「はい。南米方面軍からの情報では、米軍が攻勢の準備を行っているとのことです。海軍と輸送船も動員されるようですが、もしかしたら南米に行くと見せかけて、オーストラリアへ進撃してくる可能性も……」

「アメリカが目の前の敵を放って、こちらに来る、だと……?」


 小声だが、疑問を口にするケイモンである。そう言われると、ペーダーンも自信がなくなる。


「しかし、日本軍がエリス諸島を攻撃した理由となりますと、その可能性もあるかと」


 ペーダーンは地図を指揮棒で指した。


「この襲撃ルートから、次はサモア、あるいはフィジーも攻撃される可能性が極めて高いと思われます。ここを叩かれば、ハワイより米海軍が出てきて、ニューカレドニア、そしてオーストラリアへ来てもおかしくないかと」

「そう見せかけたいだけではないのか?」


 ケイモンは言った。


「アメリカがオーストラリア方面に乗り出してくると見せかけて、南米方面軍を欺こうとしているだけやもしれん。日本軍の攻撃は、その陽動支援だ」

「……では、如何いたしますか?」

「作戦は、このまま続行する。ヌデニ島の偵察部隊はやられたが、致命傷ではない。我が南海艦隊は、南方軍と共同し、行動を開始する」


 ケイモン大将は、きっぱりと断言した。

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