表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
424/1116

第四二四話、想定外の敵を発見


「ヌデニ島?」


 小沢 治三郎中将が聞き返せば、航海参謀の山下 雅夫少佐が海図台で指示棒を指した。


「ソロモン諸島南部、サンクリストバル島の東――サンタクルーズ諸島で一番大きな島になります」


 航海参謀の指し示したそれを確認すると、小沢は、報告を持ってきた情報参謀の山野井實夫少佐を見た。


「そこに敵の小規模艦隊がいると?」


 第一機動艦隊旗艦『伊勢』。ぶ号作戦遂行のため東進していた攻撃部隊だが、ソロモン諸島を偵察していた哨戒空母所属の彩雲偵察機が、敵の存在を知らせてきた。


「基地でも作ろうとしているのか?」


 警戒線の構築のために、哨戒拠点や監視所を作ろうとしている可能性を小沢は考えた。なにぶん南太平洋は広いが、小島もまた多い。

 日本軍の南進を警戒する異世界帝国軍が、見張りを設置してもおかしくない。


「確認された艦種は?」

「それが、報告によると水上機母艦、あるいは飛行艇母艦のような艦影をしている艦が3隻。他、軽巡洋艦1、駆逐艦5、輸送艦5隻とのことです」


 山野井の、特に水上機母艦の言い回しが、本人も半信半疑というのが伝わった。小沢も一瞬耳を疑い、そして神明参謀長を見た。


「異世界人が水上機母艦を?」

「連合国側が使っていたものの鹵獲艦かもしれません」


 異世界帝国が、南太平洋の島々に水上機を配備し、使用しているという報告は受けている。だから、それを運用するための支援艦艇を使っていたとしてもおかしくはない。これまで遭遇してこなかっただけで。


「偵察の報告では、水上機母艦乃至飛行艇母艦という言い方でしたから、『秋津洲』のような艦影だったのでしょう」


 秋津洲型水上機母艦『秋津洲』。水上機母艦と類別されているが、その目的は、二式大艇のような大型飛行艇の補給や整備のために建造された。海の飛行艇補給屋といったところで、実際は、飛行艇母艦というのが正しいかもしれない。


 もっとも基準排水量4650トン、全長114メートルの小兵で、航行しながら飛行艇の整備などをするわけではない。


「それが3隻いて、輸送艦もいるとなると、敵はヌデニ島に水上機基地でも作ろうとしているかもしれません。……まあ、それはそれとして、飛行艇が出張ると、その航続距離の長さから、こちらの移動を察知される可能性があります」


 第一機動艦隊、第九艦隊の行動を、飛来した飛行艇に発見される――それはぶ号作戦のための奇襲効果を大いに損なう。敵に反撃の態勢を整える用意を与えるのは面白くない。


「潰しておくべきでしょう。上手くすれば、敵の注意をヌデニ島や、これから襲撃するエリス諸島に向けられるかもしれません」

「よし。少々遠いが、攻撃隊を編成。この敵部隊を叩こう。――航空参謀! 配分は任せる!」

「はい!」


 航空参謀の青木 武中佐は首肯した。

 予定外の敵発見である。第一機動艦隊15隻の空母のうち、直掩空母の『祥鳳』『瑞鳳』、そして第二航空戦隊を除く、9隻から攻撃隊が発艦準備にかかった。


 敵索敵機に発見される可能性を減らすため、スピードが要求された。『大鶴』『紅鶴』『赤城』『翠鷹』『蒼鷹』『白鷹』『翔鶴』『瑞鶴』『飛隼』から、烈風艦上戦闘機各3機、流星艦上攻撃機各9機が飛び立った。


 さらに3つの戦隊から指揮官機を兼ねた彩雲偵察機が1機ずつ。そして敵のレーダーを避ける遮蔽装置付き、誘導機として、重巡『利根』『筑摩』の瑞雲水上爆撃機が4機、先導役として発進した。

 瑞雲4機、烈風27機、流星81機、彩雲3機、合計115機の攻撃隊だ。


「第九艦隊にも、少し早いですが、動いてもらいましょう」


 神明は、小沢にそう告げた。


 ぶ号作戦で定められた目標の攻撃を成功させる率を高めるために、軍令部に掛け合って派遣してもらった第九艦隊臨時機動艦隊。それにも動いてもらおうというのだ。


「そのための陽動部隊だからな」


 小沢は、はっきりと第九艦隊の役目を口にした。


 そう、日本軍の攻撃目標は、ニューカレドニアやニューヘブリディーズ諸島ではなく、サモア、フィジー方面であると敵に思わせるために。



  ・  ・  ・



 第九艦隊旗艦、大型巡洋艦『妙義』。司令長官、新堂 儀一中将は、第一機動艦隊から、所定の作戦行動を開始せよ、と命令を受けて、思わずその厳つい狂犬のような顔つきを緩めた。


「状況からすれば、拙速もやむなしか」


 海軍兵学校39期卒。同期は軍令部次長の伊藤 整一の他、第二機動艦隊司令長官の角田 覚治、第八艦隊司令長官、遠藤 喜一、第五艦隊の司令長官になった志摩 清英もそうだ。


 新堂は水雷屋であるが、砲術も航空もバランスよく運用することが肝心で、どれかに傾倒することはなかった。口癖は、『どんなものでも使い道はある』である。


「では、我が機動部隊は、エリス諸島へ前進。雪崩の如く、敵拠点を攻撃する!」


 彼らに与えられた任務は、南東太平洋方面へ進出し、エリス諸島、フィジー諸島、サモア諸島、可能ならばトンガ諸島の異世界帝国拠点へ一撃離脱戦法による攻撃を仕掛けることである。


 日本軍が同方面に対して攻撃している、と他方に報告することで、ニューギニア方面は狙われていないと錯覚させ、同地の敵の警戒を緩ませるのだ。


「そのために必要なのはスピードだ。第一機動艦隊より手早く、敵を襲撃せねば意味がない。そうだな、倉橋君」


 第九艦隊参謀長の倉橋 清二郎少将は頷いた。


「はい。遠いですが、エリス諸島へは攻撃隊も攻撃圏内です。しかし、艦隊の移動についても梃子入れが必要と考えます」

「うむ。例の、魔技研の転移を実戦で試してやろう。――通信長、第九航空艦隊に通信!」


 新堂の第九艦隊は、小沢の第一機動艦隊と別行動のため、南東へ針路を向けた。

 ニューギニアに展開する軍令部直轄航空隊である、第九航空艦隊と連絡を取りつつ、攻撃隊の発進要請を出した。


 同時に、安村航空参謀と滝田航海参謀が、転移によって第九航空艦隊司令部に移動。艦隊と攻撃目標の位置などを伝えた。

 打ち合わせを終えて、転移装置で『妙義』に戻ってきた二人の参謀の報告を受けて、新堂は次の命令を発した。


「転移中継装置を作動。第九航空艦隊航空隊を招待しよう」


 大型巡洋艦『妙義』『生駒』、軽空母『翔竜』『龍驤』、特務艦『鰤谷丸』『牛谷丸』の6隻、そして軽巡洋艦『鈴鹿』には、転移巡洋艦と同じく、転移中継装置が搭載されている。


 前者6隻が、それぞれ装置を発動させれば、ややして、艦隊上空に日本航空機が現れる。

 瑞雲、一式水戦、銀河陸爆、彩雲、二式艦攻、およそ40機ほど。


 さらに、ぬっと巨大な重爆撃機が1機、姿を見せる。異世界帝国の新型重爆を鹵獲し、魔技研が保有する白鯨号だ。


 これら陸上基地運用の第九航空艦隊航空隊は、ニューギニアからショートカットして現れ、第九艦隊に先んじて、それぞれの攻撃目標へと長距離飛行を開始した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ