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第四二二話、異世界帝国軍の動きと、早まる出撃


 彩雲偵察攻撃機は、蒼空を飛ぶ。眼下に広がるのは青く澄み切った南東太平洋。

 異世界帝国が地球を侵略しようとも、表向き自然は変わらずその姿を留めている。


 南東方面艦隊に所属する第十五航空戦隊の哨戒空母は、偵察攻撃機を用いた長距離索敵網を形成して、偵察活動を行っていた。


 オーストラリアの沿岸部に集中した敵拠点、ならびに南東太平洋の島々へと続く輸送ルート、その広い範囲に日本海軍機は目を光らせていた。


 む号作戦に続き、ぶ号作戦を行おうとする日本海軍だが、異世界帝国軍が、奪われたニューギニア方面を奪回しに動く可能性は高い。


 その兆候はあった。

 オーストラリア東海岸、クイーンズランド州最大の都市ブリスベンに入る船舶量が増えつつあったのだ。


 北のニューギニアが日本の勢力圏になった今、ブリスベンから出る輸送船は、ニューカレドニア島へ行き、そこから南東太平洋の島々へと向かう。


 かつてはハワイにまで繋がっていた輸送ルートも、そのハワイが陥落し、アメリカ海軍が拠点としている今、かつての交通量はなくなっていた。


 だが、異世界帝国軍は軍艦、輸送艦問わず、ブリスベン、そしてニューカレドニアへ送る数を増やしてきた。


 これは彼らが次の作戦のために動き出しているということを如実に物語っているのだ。

 連合艦隊司令部は、第一機動艦隊へのぶ号作戦説明時に指摘された『有力な敵艦隊との邂逅の可能性』が増大したことを確信した。


 旗艦『敷島』にて、山本五十六連合艦隊司令長官は、草鹿参謀長と中島情報参謀からの報告を受けた。


「――ブリスベンとニューカレドニア島の在泊艦艇の増加を踏まえ、さらに南のシドニーに偵察機を飛ばしたところ、確認されました」

「!」


 もたらされた航空写真には、海を埋め尽くす艦隊。山本は無言である。かつて遭遇した太平洋艦隊や大西洋艦隊、その規模に勝る。


「輸送船もかなりの数ではありますが、戦闘艦艇だけでも、中部太平洋海戦やアラビア海海戦の規模に匹敵します」


 中島が事務的に告げれば、他の参謀たちも言葉が出ないようだった。

 時間が止まってしまったような沈黙。間がもたなくなったか、草鹿参謀長は山本を見た。


「長官……?」

「この敵は、どう動くだろうか?」


 山本は一同を見回した。中島は口を開く。


「十中八九、侵攻でしょう。これだけの輸送船を揃えたのですから、上陸部隊と基地設営用の資材などを輸送するつもりに違いありません」

「どこだ?」


 山本が再度言った時、中島は自分が勘違いしていたことに気がついた。

 敵がこれだけの戦力を集めたのは、日本側の侵攻に備えるためになのか、それとも逆襲のためかを問うたと思ったのだが、山本は敵の反撃と読み、どこに上陸してくるだろうと問うたのだ。


「ニューカレドニア島方面へも輸送船舶が増加しているところから見て、ソロモン諸島に侵攻し、そこからラバウル、ニューギニア方面を牽制するつもりかもしれません」

「そう見せかけて、実はハワイ奪回を狙っている……ということはないですかね」


 渡辺戦務参謀が言えば、草鹿は真顔で告げた。


「我が軍がニューギニア方面を押さえている。喉元に刃を突きつけられているのに、よそ見をするとは思えない」


 ハワイを狙うということはアメリカ海軍と戦うということ。そこへ日本軍が横槍を入れてくる可能性の高さを考えれば、異世界帝国にとってもまずは日本軍をどうにかするのが先だろう。


 樋端航空参謀が発言する。


「ソロモン諸島は、こちらの目を引きつける囮かもしれません。ブリスベンからそのまま北上し、ポートモレスビー辺りに軍を進めてくる可能性もあります」


 オーストラリア沿岸部に沿って北上、珊瑚海に侵入し、北に進めばニューギニア島のポートモレスビーへ直線で迎える。


 日本軍としては、真面目な防衛戦力はなく、せいぜい放置飛行場を利用して、基地航空隊を放るしかない。


 だが、それは敵も織り込み済みだろうから、飛行場は敵航空隊に真っ先に叩かれるだろう。


「あるいは、ソロモン諸島、ポートモレスビーを同時に攻めてくるかもしれない」


 ボソリと山本は言った。


「我々は戦力を集めて、全力でぶつかるわけだが、敵は数で勝り、二つの攻撃目標にそれぞれ送り込んでくることもできるのではないか?」


 何も一カ所に絞ることはない。連合艦隊としては、敵が一カ所に集まってくれば迎え撃つのに戦力を集中できるが、それはこちらの都合。わざわざ敵が日本海軍の都合に付き合うとは限らないのだ。


 そしてそうなると、日本海軍としては、少々厳しいことになる。戦力集中は戦いの鉄則だが、それが許されない場合、数の差で各個撃破される恐れがあった。

 樋端は指示棒を伸ばした。


「予定を早めて、第一機動艦隊にニューカレドニア島を攻撃させましょう」


 航空参謀の指示棒が、地図上を指した。


「敵がソロモン方面からニューギニア、あるいはニューブリテンに侵攻する場合、ニューカレドニア島は、その後方補給拠点になります。しかしそこを叩いて、港湾施設が使えなければ、当面の間、ソロモン方面からの進撃は困難となるでしょう。そうなった場合、彼らの進撃ルートは――」


 すっと、ニューギニア島の南東沿岸の一都市を指す。


「ポートモレスビーに限定されます」


 敵が複数のルートで来る可能性があるなら、そのルートを減らして、一カ所に集中させればいい。そこを連合艦隊と南東方面艦隊が総力を結集し、敵を叩く。

 樋端の説明に、参謀たちの顔色がよくなった。不安が少し軽くなった程度ではあるが。山本も大きく頷いた。


「よし、ではその方向で作戦をまとめよう。第一機動艦隊も、敵艦隊が動き出す前に行動してもらわねばなるまい。……小沢君と神明参謀長を呼んでくれ。彼らにも作戦を説明せねば」



  ・  ・  ・



 かくて、ぶ号作戦が早まり、第一機動艦隊の出撃も繰り上がることになった。


 元々、出撃のための準備が進められ、参加戦隊、各艦長に通達されてはいたが、それにも増して行動が早まったことで、機動艦隊の乗組員たちも慌ただしくなった。


 連合艦隊司令部の説明に対して、第一機動艦隊側は、連合艦隊直率(ちょくそつ)の転移中継装置装備艦を参加させることを求めた。その用途は、敵艦隊が進出してきた際の布石になるように、転移中継艦を珊瑚海に分散配置しておくというものだった。


 敵がポートモレスビーに侵攻してきて、連合艦隊が出撃したとして、通常のルートを通る場合、狭い海峡を通過するなど、航路が絞られる。

 そこは敵が待ち伏せに利用される恐れもあるので、事前に転移巡洋艦を先行させておくという案は、連合艦隊司令部も賛成し、一機艦の指揮下に置かれることとなる。


 そしてこれとは別に、第一機動艦隊参謀長の神明は、小沢の許可を得た上で、軍令部に掛け合い、第九艦隊の戦力を借り出した。

 第九艦隊は連合艦隊ではなく、軍令部直轄部隊なので、お伺いを立てる場所が異なるのだ。


 相変わらず軍令部は、アメリカ軍が計画しているバックヤード作戦に加わるかどうかの討議していたので、仮に共闘した場合に活用するだろう戦術の実戦試験をすると言って、軍令部の第九艦隊、そして第九航空艦隊の使用を了承させた。

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