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第四二一話、現場の意見


「いわゆる神明参りというやつです」


 そう言ったのは、軍令部第一部長、中澤 (たすく)少将だった。小沢 治三郎中将はチラと神明を見やり、当の第一機動艦隊参謀長は肩をすくめる。


「これは伊藤軍令部次長の了承を得て話すが、あくまで重度の軍機なので、ここだけの話にしてもらいたい」


 一機艦の旗艦『伊勢』。場には中澤と小沢、神明しかいない。


 そこで語られたのは、アメリカ軍による中南米攻略作戦。異世界帝国の南米大陸支配に対する反攻作戦についてだった。


「かつては中国やソ連にも支援していたアメリカが、この作戦への参加と引き換えに、我が国に武器供給を優遇する、というのはどうにも解せんな」


 小沢の率直な言い回しは、日本軍が米軍の都合のいい囮に使われるかもしれないということに対する反発だった。

 神明は少し考える。


「米国は、本国に攻め込まれていましたから、世論も他国へ支援している物資を自国で使えとうるさかったのかもしれません。戦場が余所へ移れば、共闘して異世界人と戦おうという空気にもなるのではないでしょうか」


 アメリカは民主主義の国だ。世論も馬鹿にできない。大統領は国民の支持なくば、政権を維持できないのだ。

 中澤は頷いた。


「それはそれとして、仮に米軍の作戦に乗る場合、参加戦力の中心は、一機艦になると思われます」


 軍令部の第一部――作戦課は、投入戦力を第一機動艦隊と想定して考えているということでもある。


 空母部隊が中心になるのは、近場に日本軍が使える飛行場がないこと。海岸からの艦砲射撃よりもレンジの長い航空機が、戦いの主役になるからだ。


「連合艦隊に通していない、構想段階ではありますが、やはり担当になりそうな一機艦からも参考意見を伺いたい」

「難しいな」


 小沢は渋顔を作った。


「作戦予定が5月か6月……。今は4月なのだが?」


 作戦準備期間が短い。しかも日本側としては、まだ参戦すら決まっていない。参加するとして投入部隊もまだ決まっていない。連合艦隊にも話していない。

 何より――


「一機艦は、ぶ号作戦に向けて準備を進めている。5月では間がなさ過ぎるし、損耗如何では補充もままならないだろう。よしんば6月だったとしても、余裕はないぞ」


 エスピリトゥサント、エファテ、ニューカレドニアへの攻撃を控えている第一機動艦隊である。南太平洋で敵が反撃に出てくる可能性を考えれば、状況次第で、かなりの消耗も想定される。そこでそのまま米軍の反攻作戦参加は、かなり無理がある。


「さらに敵がインド洋での反攻を企てている兆候がある。増援として連合艦隊が動くならば、南米ではなくインド洋ではないか」

「やはり、難しいですか」


 中澤は、半ば予想していたような顔になった。そこで神明を見やる。


「神明、君はどう思う?」

「細部も詰まっていない、多分にアメリカの意向が大きい作戦ではあるので、大雑把なことしか言えないのですが」


 神明はそう前置きをした。


「必ずしも一機艦でなくてもよいのでは」

「二機艦を使え、か?」


 中澤は首を横に振る。


「しかし二機艦は、潜水行動可能な襲撃艦隊だ。海上に留まり、継続した作戦展開をする機動部隊としては、あまり向いていない」


 奇襲してなんぼ。搭載航空隊も奇襲攻撃隊であり、先制の一撃を仕掛けて、一挙撃滅する戦いには向いているが、海域に留まり、作戦中、航空隊を反復攻撃させるような戦いでは、最大の持ち味が活かせない。


「利点を活かせないから、使えないということはないと思います。でも私見ですが、二機艦は、やはり南方かインド洋での作戦に投入すべきでしょう」

「一機艦ではなく、二機艦でもない。ではどうする?」


 第七艦隊はインド洋、第八艦隊は南太平洋。第五艦隊は北方警備、かつアメリカが求める戦力には満たない小規模艦隊。第九艦隊も内地近くにいて、こちらも同じく規模が小さい。


「動かせるとしたら、第九艦隊。それと6月というなら、再生して就役させられる改修艦艇で、割り増しができると思います」

「しかし第九艦隊は――」


 中澤は言いかけて、口を閉じた。


 第九艦隊は、軍令部直属艦隊であり、内地の一部、つまり九頭島方面の守備の他、新型の試験艦隊、そして演習艦隊も兼ねている。何より魔技研と大変絡みがあり、神明もそこ出身である。


「アメリカ軍が、我々をどう利用したいかにもよるのですが、囮役を所望するなら、第九艦隊に、海氷空母群をつけて前線に出せば、空母の数は一機艦は無理でも、二機艦以上にはなるんじゃないですか」

「航空機はどうする?」


 中澤は質問した。囮でいいなら海氷空母を前面に出すというのもわからなくはない。だが上陸するアメリカ軍の支援や、敵飛行場攻撃には、航空機が必要だ。


「そもそも、転移中継、離脱ができる以上、艦載機である必要もないんですよね」

「なに?」

「空母を張りぼてとするなら、航空隊は内地の基地航空隊でも事足りるということです」


 転移離脱装置があって、航空機側は転移中継装置がある場所へ移動できる。それならば装置さえ積んだ航空機だったら、現地まで飛んで、攻撃や防空などの役目を終えたら、転移で基地に帰ればいい。

 ハワイ作戦で、往復の航続距離が不足するから帰りは転移でやる、それの応用だ。


「それなら空母もいらないのではないか?」


 小沢が指摘した。基地航空隊と転移移動で完結するから、機動艦隊でなくても何とかなってしまう。


「非常事の緊急着陸先、囮役としての海氷空母……。まあ第九艦隊や稼働する軽空母群を補助に使えば、一機艦や二機艦を使うまでもないかと思います」


 あくまで、現時点の大雑把な想定では。作戦がより明確になり、投入戦力の規模もはっきりすれば、やはり機動艦隊ではないと駄目だ、ということも出てくるかもしれない。


「その場合、航空機は、内地の航空隊か」


 中澤が腕を組んで考えれば、神明は言った。


「戦闘機に関しては、一機艦から機種転換で下ろした零戦もあります。レンドリースのF4U(暴風)F6F(業風)もある。攻撃機は、さすがに内地で練成している部隊がいくらか必要でしょうが」

「第二航空艦隊あたりになるかな」


 中澤は呟くように言った。第一航空艦隊、第十一航空艦隊は南東方面艦隊としてむ号作戦に参加。ぶ号作戦でも出番があるかもしれない。第九航空艦隊も同様だ。内地で新編成されている第二航空艦隊ならば、無傷で訓練中もあり、使えるかもしれない。


「ありがとう。参考になった。作戦課に持ち帰って検討させてもらう」

「ああ、それと、アメリカの作戦に協力するかどうかは別として――」


 神明は一つ指摘しておく。


「作戦海域近くに、転移中継ブイや中継装置搭載艦の展開は、やっておいた方がいいと思います」


 転移で道中を省略できるなら、参加する艦隊も作戦ギリギリまで内地や港で整備や補給ができるから。

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