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第四一七話、日本海軍に対する、異世界帝国の行動予想


「普通に島だけを相手にするなら、第一機動艦隊の戦力で充分なのですが――」


 参謀長の神明が言えば、一機艦の小沢中将は肩のコリをほぐすように軽く回した。


「空母15隻の艦載機があれば、攻撃も、仮に反撃を受けたとしても盤石だろう」


 エスピリトゥサント島、エファテ島、そしてニューカレドニア島の異世界帝国施設の攻撃作戦。


 偵察部隊が頻繁に同島と周辺海域を偵察して、常に新しい情報が内地へと送られてきている。


「とはいえ、この3島には、叩くべき飛行場や施設が複数ある。まとめて一度に仕掛けることは、さすがに分散し過ぎる」

「目標以外の島々からも、敵が飛んでくる可能性があります。艦隊の配置を間違えると、マーシャル諸島攻略の二の舞になるかもしれません」


 フィジーからなら、エスピリトゥサント辺りまで1200キロ前後、ニューカレドニアまでなら1400キロ以内。大型重爆撃機や、飛行艇ならば余裕で届く範囲である。


「我々は、二機艦と違って、潜ってやり過ごせないからな」


 小沢は顔を上げた。第一機動艦隊は、すべて既存の水上艦隊。第二機動艦隊の艦艇のように潜水行動はできない。


「精々、海氷空母を囮に置いておくか、転移巡洋艦で場所を変えていくしかできんだろう」


 敵の空襲がしつこいなら、それで躱す手もある。要は、やりようである。

 二人は、一機艦旗艦である『伊勢』に戻る。


「やはり、問題は貴様の指摘した通り、異世界帝国軍が反撃しようと艦隊を送り込んできたところに鉢合わせした場合だ」

「あるいは、こちらの襲撃を察して待ち伏せしていた場合ですね」


 どちらでも、日本艦隊と見れば、敵は向かってくるだろう。


「ニューギニア方面を日本海軍は制した。オーストラリアを拠点としている異世界帝国軍が、このまま様子を見ているとは思えません」

「うむ。これ以上の進撃を阻止するため、反撃を企図していてもおかしくない。連中の戦力がどれほどのものかわからない以上、しばらく出てこないという楽観はできん」


 小沢は世界地図、その南半球を凝視する。


「我々は、む号に続き、ぶ号作戦を展開する。これは置いておくとして、異世界人たちは、どう反撃してくるだろうか?」

「すぐに戦力が動かせるなら、ニューギニア方面の奪回。具体的には南部、ポートモレスビー辺り。あるいは――」


 神明は、ニューギニアから東へ指を滑らせた。


「ソロモン諸島に拠点を築こうとするかもしれません」

「ソロモン……。異世界連中も、これまではここに特に拠点はなかったが――」


 小沢の目が光った。


「ここを狙う理由は?」

「位置が絶妙なんです」


 地図の上の島々を神明はなぞる。


「ラバウルからは微妙に遠い。そして敵からするとエスピリットサント、ニューカレドニアからの爆撃機の攻撃範囲内で、重爆撃機の支援が受けられやすくあります」


 航続距離の問題は、移動飛行場である『日高見』や転移離脱でどうにでもなるが、それなしで戦っている敵航空隊、その攻撃が届く位置というのは厄介である。


「さらに、ポートモレスビーに侵攻してきた敵を叩くべく、こちらが艦隊を派遣した場合、ソロモン諸島にいる敵艦隊との交戦は避けられません」


 ニューギニア島沿岸を経由しようとすれば、ソロモン諸島に進出した敵艦隊が動いてくるに違いない。敵はそこに艦隊を配置するだけで、ソロモン諸島、ニューギニア南部攻略部隊の双方を同時に防衛できるのである。


「ニューギニア東部ではなく、西部から回り込む手もありますが、距離的問題で、充分対応されるでしょうし、オーストラリアの陸上基地からの攻撃されるでしょう」

「西部からは潜水できる二機艦で行く手もあるな」


 別動隊を送り込んでニューギニア南部侵攻部隊を叩くことも可能だ。


「はい。ただそうなると、ソロモン諸島の艦隊は二機艦抜きで、ということになるかもしれません」

「確かに……」

「何です?」


 小沢が苦笑したので、神明は聞いた。提督は答えた。


「我々は、まだ起きていない仮想の兵力を脳裏に描いて、話し合っている。こんなもの、考えだしたら切りがないぞ」


 しかも小沢と神明で、その架空戦力の規模や配置も違っているだろう。これでは話も所々噛み合わないこともある。


「まあ、可能性の洗い出しという意味では、無意味ではないかと」

「そうだな。色々想定するのは好きだ」


 小沢はソファーに腰掛けた。


「前線からは、まだ敵の動きはないが……。ぶ号作戦発動の頃には、敵も動くだろうか?」

「戦力がないのならともかく、あるのであれば動かないはずがありません」


 神明は席についた。


「軍令部で小耳に挟んだんですが、インド洋で異世界軍が動いているようです。マダガスカル島に戦力が集まっているとか」

「こちらではなく、インド洋なのか」


 小沢は、地図へと視線を戻す。


「セイロン島の奪回か?」

「おそらく、カルカッタを落としたいんでしょう」


 日本と異世界帝国、双方の陸軍がぶつかる大陸決戦。聞いた話では、陸軍はカルカッタから北へ、大陸を分断する異世界人の生命活動不能回廊を形成したとか。ソ連、中国に進出した敵陸軍だが、深刻な物資不足に悩まされているのだ。


「なるほど、陸軍の侵攻のために、セイロン島を押さえ、ベンガル湾、そしてカルカッタか」


 小沢は納得した。


「すると、我々はこのインド洋での敵の攻勢計画を頓挫(とんざ)させねばならないということだな」


 仮にカルカッタを押さえられ、そこから大陸前線の敵に補給が回るようになれば、決戦中の陸軍も防ぎきれなくなるだろう。いくら太平洋で勝っても、日本本土が敵の侵攻の危機に晒される。


「ただ、敵からしたら、日本海軍がインド洋の防備を強化するのは望んでいないでしょう」


 大陸陸軍への補給を是が非でも成功させたい異世界帝国である。有力な日本艦隊がインド洋に集まるのをよしとしない。


「となると、やはりオーストラリアから北への侵攻。ソロモン諸島辺りに上陸して、連合艦隊を吊り出そうとするのではないでしょうか」

「やはり、ここでの決戦は避けられない、か」


 腕を組んで小沢は唸った。神明は立ち上がり、再び地図の前に移動する。


「南太平洋で敵が艦隊を動員するならば、シドニー、ブリスベンを経由し、そのまま珊瑚海へ北上するか、ニューカレドニアへ進出し、そこからソロモン諸島へ向かうと思われます。理想をいえば、その道中、寄港中に奇襲して大打撃を与えたいところではあるのですが……」


 そこで神明の声のトーンが落ちる。


「まだ対防御障壁武器の量産が間に合っていません。通常攻撃では爆弾、誘導弾の消費が跳ね上がりますから、道中襲撃を成功させたとして、それ以後の戦闘に参加できなくなる恐れがあります」


 いわゆる、弾切れで。艦隊はある。航空機も燃料もあるが、弾薬が不足。これには小沢は頭を抱える。効率的に敵艦艇を葬るなら、対防御障壁武器の量産が欠かせないが、それが配備されている頃には、すでに敵は攻勢に出ているだろう。


「何とかならんものか……」

「これも軍令部での話ですが――」


 神明は言った。


「アメリカから、爆撃機や攻撃機用の爆弾を大量に輸入するよう交渉しているそうです」

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