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第四一六話、ぶ号作戦に向けて、作戦会議


 1944年4月8日、トラック島を出撃したラバウル攻略部隊が、ニューブリテン島に上陸した。



○攻略部隊


 第十四戦隊(重巡洋艦):「高雄」「愛宕」「摩耶」


・第一護衛隊(旗艦:軽巡洋艦「長良」 

 第二十九駆逐隊:「睦月」「望月」「三日月」

 第三十駆逐隊 :「追風」「疾風」「夕凪」

 第102戦隊:「柳」「椿」「檜」「橘」「蔦」「萩」

 第103戦隊:「菫」「楠」「楡」「梨」


 軽空母:「大鷹」「神鷹」

 水上機母艦:「日進」「千代田」

 輸送船:「浅間丸」「秩父丸」

 特務艦:「鰤谷(ぶりたに)丸」



 すでにアヴラタワーはなく、補給も得られぬまま放置された結果、島は無人であり、輸送船『浅間丸』『秩父丸』から上陸した海軍陸戦隊は、抵抗なく、ニューブリテン島を制圧した。


 部隊は通常の歩兵主体であり、ゴーレムや特殊戦闘服などの装備はなかったが、相手がいないので損害も、不注意による怪我以外はなかった。


 ここからは、転移倉庫を用いて、必要な物資が内地より送られることになり、制圧した飛行場には、早速航空隊が配備され、それらを運用できる人員も配置された。


 南東方面艦隊の巨大海氷飛行場『日高見』もラバウルの近くに移動し、ニューギニア、ソロモン方面を睨む拠点が確保されたのである。


 その頃、連合艦隊司令部では、オーストラリアと南東太平洋海域の島々の異世界帝国駐留部隊を分断する作戦――ぶ号作戦について、担当する第一機動艦隊司令部と会議を行っていた。


「目標は、エスピリトゥサント島、エファテ島と、ニューカレドニア島の無力化となります」


 連合艦隊参謀長、草鹿 龍之介少将は地図を指し示した。


「オーストラリアと南東太平洋の島々の分断を企図するものであり、ここを押さえることにより、敵のソロモン方面への反抗を挫くと共に、南東太平洋の敵拠点を孤立化させます」

「……」


 小沢 治三郎第一機動艦隊司令長官と、神明第一機動艦隊参謀長は、無言で説明を聞いていた。


 エスピリトゥサント島、エファテ島は、ニューヘブリディーズ諸島にあり、ラバウルより南東のソロモン諸島の、さらに南東にある島々だ。


 そしてニューカレドニア島は、そのニューヘブリディーズ諸島の近くにあるロイヤルティ諸島の一つだ。西に行けばオーストラリア大陸があり、東に目を向ければ、フィジー諸島やサモアなどが点在している。


「ここは敵太平洋艦隊がハワイを制圧していた際、オーストラリアとの主要補給線を担っていました。それゆえ、異世界帝国からすれば後方ではあるものの、交通の要衝として、それなりの規模と充実した施設を持ちます」


 草鹿は向き直った。


「故に、敵はここを拠点に、ハワイへ再侵攻を企てる可能性もありますし、ニューギニア方面を制圧した我々に対して、有力な艦隊を差し向けるための足掛かりにもなり得ます」

「それなりに有力どころか、状況によっては敵の大艦隊がいるかもしれんということか」


 小沢が腕を組めば、草鹿は頷いた。


「はい。それ故、ここを拠点として使えないようにする、もしくはアヴラタワーなど敵の急所を衝いて守備隊を無力化させておくべきと考えます」

「本当は、フィジーやサモアの敵も潰しておきたいんだがね」


 山本五十六連合艦隊司令長官はポツリと言った。


「ただ、あの辺りは島が多い。個々の戦力は小さいが、四方からやたらめったに攻撃されて、マーシャル諸島攻略の際の二の舞を演じるのはご免だ」

「島がそこそこあるという意味では、ニューヘブリディーズ諸島もロイヤルティ諸島も同様です」


 淡々と草鹿は告げた。


「そんなわけで、生半可な兵力で近づけば、思わぬ反撃を受ける可能性があります。強力な一機艦の兵力を持って、一撃の元に全滅させる――それくらいの覚悟で挑んで貰いたく思います。……何か、神明参謀長」


 視線の動きで、指名を受けた神明は立ち上がった。


「一機艦が、この作戦に選ばれた理由を伺ってもよろしいでしょうか?」

「ん?」


 列席していた連合艦隊参謀たちが怪訝な表情になった。神明は続ける。


「無力化を狙うのならば、奇襲攻撃隊を有する二機艦の方が向いている作戦かと愚考します。何か二機艦が他の作戦で使うとか、そのような理由でしょうか?」


 その問いに、草鹿は山本を見た。山本が小さく頷くのを受けて、草鹿は口を開いた。


「神明参謀長。ここのところ二機艦は、連戦ゆえ、補給と整備に、しばし後方に下げたいというのが、連合艦隊司令部の判断である。何か意見があるか?」

「いいえ、ありません」


 神明は着席した。む号作戦では第二機動艦隊が、敵艦隊と交戦しており、連合艦隊司令部の判断も間違ってはいないだろう。


 オーストラリアを巡る戦いでは、敵が有力な艦隊を以て反撃してくる可能性がある。戦力を最善の状態に保つためにも、休息は必要だ。


 その分、第一機動艦隊は、補給や整備を終えつつあり、休ませてもらった分、働けということであろう。

 それはいい。神明は挙手した。草鹿は一瞬瞬きをし、頷いた。


「どうぞ、神明参謀長」

「確証がある話ではないので恐縮なのですが、こちらがニューギニア方面を敵から奪回したことで、異世界帝国も反撃の態勢を整えていると考えます。こちらがニューヘブリディーズ諸島を叩いている時、あるいはその後のロイヤルティ諸島を攻撃中に、敵の迎撃艦隊もしくは大艦隊を発見した場合、一機艦はどう対応すべきでしょうか?」


 一瞬、会議室がしんとなった。神明は言う。


「攻撃目標への攻撃を厳守――つまり、何が何でも三島の無力化を優先するか。作戦を中断し撤退するか。あるいは、攻撃対象を敵艦隊に向け、これを極力叩くことに注力すべきか……。一機艦はどう対応すべきでしょうか?」


 現場の判断で最善を尽くしたとしても、連合艦隊司令部の意思に反した結果になり、後で文句を言われても困る。


 要するに、何が重要で優先すべきか、それを明らかにしてもらいたい、と神明は言ったのだ。

 できるかできないかは、その時にならねばわからないこともあるが、何をすべきかはっきりしているなら、それに向かって最善を尽くせるように仕事をするのが参謀長の役割である。


「状況による、としか言えない」


 山本は言った。その答えは、神明や一機艦にとって、責任の所在が曖昧で、いざという時、こちらに責が降りかかるかもしれなかった。


「そもそも確認されていない敵に備えるのは困難である。現場の判断を優先してくれたまえ。最善を尽くしてくれたなら、責任は僕が持とう」


 もちろん、事前に敵艦隊が発見されたり、状況に変化があればその時は改めて指示を出す、と山本は締めくくった。

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