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第四一五話、ラクシャディープ諸島沖海戦


 ピスケース艦隊の戦艦群を急襲したのは、日本海軍第七艦隊の奇襲攻撃隊だった。


 十一航戦の『白龍』『赤龍』『翠龍』、十三航戦『幡龍』『水龍』のうち、前4隻の九九式戦闘爆撃機一個中隊が元フランス戦艦を、残る『水龍』の九九式戦爆隊が、残存空母を襲ったのだ。


 遮蔽装置で接近した各9機の九九式戦爆は、砲撃に集中し、防御障壁を張っていない戦艦に肉薄、艦橋部を狙った攻撃を行った。


 砲撃戦の最中に、航空機は突っ込んでこない。味方の砲撃に巻き込まれるから――長距離からミサイル誘導兵器が使われるようになってからも、まだまだ人間の意識というものは変わらない。


 だがその思い込みは、遮蔽で姿を消して近づき、そして攻撃の段階になって解除し、突撃してきた日本海軍機の奇襲を食らってから思い出すのである。


 そもそも、自分たちは日本戦艦から、まだ砲撃されていなかった。だから日本機が飛び込んできても誤射や巻き込まれる心配はない。


 急降下爆撃は廃れた――それが嘘かのような肉薄だった。旗艦『ジャンバール』をはじめ、『リシュリュー』『ダンケルク』『ストラスブール』も艦橋とその周りに9連続の爆撃を食らった。


『レーダー損傷!』

『通信アンテナ、断線! 無線使用不能!』

『射撃管制室、交信途絶!』


 司令塔は、艦の中枢であり頭脳だ。主砲は無事でも、その戦闘力は大幅に奪われる。

 艦隊司令長官のピスケース中将は、司令塔の強固な装甲に守られ無事だった。攻撃が真上からだったこと、司令塔が艦橋でも下のほうにあることが幸いした


「くそっ! どこから現れた!?」

「転移で、我々の真上に……!?」


 倒れていたカエシウスが手を掛けて起き上がる。ピスケースは声を荒らげた。


「直掩機は何をしている! 敵機を追い払わないか!」

「提督! 敵航空隊が――」


 航空参謀が窓から外を指さした。


 日本機は、戦艦を襲っただけではなかったのだ。5隻の空母から放たれた九九式戦爆の制空隊が、滞空するムンドゥス帝国航空隊にも牙を剥いていた。


 九九式戦闘爆撃機18機、二式艦上攻撃機18機――5隻の空母合計で180機が殺到したのだ。

 45機の戦爆が空対空誘導弾で先制した後、残る異世界帝国航空機に飛びかかり、立ち直れないままの敵機を掃討していく。


 完全に不意打ちだった。ヴォンヴィクス戦闘機はもちろん、攻撃待機していたミガ攻撃機もまた日本機に追い回されている。


 だが、戦闘機ばかりを気にしている場合ではなかった。90機の二式艦攻が、懸架してきた800キロ対艦誘導弾を放ってきたのだ。


『ジャンバール』以下、戦艦戦隊は艦橋とその周囲に多数のロケット弾を撃ち込まれたため、高角砲と対空機銃の大半が損傷、破壊されて防空能力が大幅に落ちていた。


 そこへ殺到する対艦誘導弾を、無論防ぎきることはできない。護衛の軽巡、駆逐艦が対空射撃で戦艦戦隊を守ろうとするが、多勢に無勢。

『シュフラン』以下、重巡洋艦戦隊も、単装高角砲や機銃を振り向けたが、焼け石に水だった。


 降り注いだ対艦誘導弾は、次々に戦艦に命中。その水平装甲を叩き爆発した。『ジャンバール』『リシュリュー』は艦上構造物を破壊され、さらに一部甲板を貫かれる。


 だが、より軽攻撃力、軽防御力の『ダンケルク』、『ストラスブール』は、水平装甲を砕かれ、船内で爆発が連続。艦の重要区画も破られ、次々に爆沈した。


 二式艦攻隊は、敵護衛艦に狙われないよう退避行動を取る。

 だがそれで終わりではない。戦艦への誘導弾を迎撃していた重巡洋艦戦隊および護衛部隊に、別方向から対艦誘導弾が雨あられと向かってきていたのだ。


 それは、姿を確認されていなかった大型巡洋艦『黒姫』以下、第九戦隊と、特殊巡洋艦『初瀬』『八島』の第三十戦隊からの、対艦誘導弾だった。


 戦艦より軽装甲の重巡洋艦以下の艦は、対空射撃の展開で防御障壁を張っていないところを狙われた。

 艦体をあっさりと抜かれ、爆発。火薬庫や機関部で誘爆が起きて、たちまち戦闘不能、いや爆発、沈没していく。


 ピスケース艦隊は、交戦の最中の奇襲により、一挙に劣勢となり、立て直す間もなく壊滅した。


 護衛の艦をことごとく失い、しかし強靱な耐久力でかろうじて浮いていた『ジャンバール』『リシュリュー』だが、第九水雷戦隊の特殊巡洋艦『九頭竜』以下、駆逐隊の誘導魚雷によって引導を渡された。


 司令長官ピスケース中将以下、艦隊司令部も全滅したのだった。



  ・  ・  ・



「敵艦隊、壊滅。残存する敵艦なし」


 第七艦隊旗艦『扶桑』。艦隊司令長官の武本中将は頷いた。


「うん、まあ。こんなものだろう」

「完封しました」


 阿畑参謀長が白い歯を見せる。


「水上砲撃戦なのに、我が戦艦部隊は、一発も砲弾を使いませんでした。こんなことありますか?」


 そうなのだ。第五十一戦隊の戦艦『扶桑』『山城』『隠岐』は、敵戦艦からの長距離砲撃を受けたものの、一発も反撃することなく終わった。


「こちとら、何年こういう戦い方を研鑽したと思っておる」


 幽霊艦隊として、対艦誘導弾を用いた大型巡洋艦や特殊巡洋艦の浮上襲撃。遮蔽装置を用いた航空攻撃も、元々その戦術研究と実施には、武本は多く携わってきた。


 転移を積極的に用いた戦法については、まだまだ人並みではあるが、浮上や遮蔽奇襲の年季にかけては、日本海軍一という自負があった。


「連合艦隊の若造たちにできるなら、わしならもっと上手くやるわ」


 旗艦『扶桑』ら戦艦部隊で、敵戦艦を引きつけつつ、防御障壁を張ってないところを、奇襲攻撃隊による襲撃。その混乱の隙を衝いて、潜ませていた特巡隊のよる側面誘導弾攻撃。


 昨今、防御障壁の存在に手を焼いている日本海軍だが、その障壁を使わせない、あるいは使っていないタイミングを狙った攻撃は、見事に嵌まった。


 前線指揮官としては最年長。予備役どころか行方不明でしばらく過ごしていたため、復帰組として同階級の一番後ろという立場ではあるものの、武本は気にしない。


 彼は、対異世界勢力との戦いに備え、生きていた。本懐を果たせるならば、それでいいと考えている。


「よし、作戦終了だ。敵沈没艦は、回収隊に任せて、第七艦隊はセイロン島へ帰投する!」


 艦隊集結を図りつつ、武本は阿畑から、敵の撃沈リストを眺める。

 戦艦4、空母4、重巡洋艦4、軽巡洋艦3、駆逐艦16――その全ての撃沈を確認した。


「これで、マダガスカル島の敵に注力できそうですな」


 阿畑の言葉に、武本は首を傾げた。


「近場に面倒な敵艦隊がいないというのは朗報ではあるがな。果たして、敵はどう動くやら」


 ムンバイ軍港辺りへの補給か、それともセイロン島攻略か。連合艦隊の目が南太平洋に向いている間に、異世界帝国のインド洋での動きは、果たして……?

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