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第四〇八話、装甲機動歩兵


 ニューギニア方面で鹵獲した、『ゴーレム』と装甲服――陸軍名『機械服』は、連合艦隊からの要請もあり、海軍陸戦隊増強の戦力に組み込まれることになった。


 軍令部第五部――魔技研でも、これら鹵獲品の研究自体は進められていたので、人員さえ揃えば、部隊としての運用、そのための訓練にかかれることとなった。


 山本五十六大将と、渡辺、樋端参謀は、九頭島の魔技研施設で、現物を見学する。

 鹵獲した岩ゴーレムは、高さ2.5メートル。切り出した岩のボディ。関節部分は球体で、金属かあるいはそれに近い物質でできている。頭部は箱形、赤いランプが一つ、目のように輝いていた。


「ゴーレムは、無線指示で動くので、特別な能力は必要ありません」


 魔技研の技術者は、山本にそう報告した。


「こちらの携帯通信機で、ゴーレムに直接命令すれば、それに従って行動します。こちらの通信機には、異世界人の使う翻訳機が内蔵されていますから、日本語でも問題ありません」


 技術者は、さっそく筆箱のような長方形の携帯通信機を使って、ゴーレムを動かした。


 前進。停止。右旋回、左旋回。武器を保持――12.7ミリブローニング機関銃のゴーレム用改造銃を構えたり。

 ほう、と山本は声に出した。


「改めてみると、よくもまあこんな岩の塊が、スムーズに動けるものだ」

「魔力を通した球体関節のおかげです」


 技術者は答えた。


「もっとも、我々もこれを独自に作ることができないので、もっぱら魔核で複製するしかないのですが」


 魔力がなくなると、関節の接合が解けて、部位ごとにバラバラになってしまうという。


「一人辺り、複数のゴーレムへ指示が可能です。ゴーレム側も番号を認識しますので、その番号で呼べば、個別命令もできます。ただ、細かな指示を出す場合は、担当ゴーレムの数を減らさないと円滑な指示は難しいでしょう」


 基本、ゴーレムは命令待ちなので、命令者に対してゴーレムの数が多いと、指示遅れや対処遅れが発生する可能性があった。

 先手をとられて奇襲されたりすると、案外脆い。何より命令者が速攻で排除されたら、ゴーレムたちも木偶の坊である。


 次に、機械服を見る。

 こちらは高さ2メートルほど。全身を覆う装甲服であり、人をそのまま一回り大きくしたようなスタイルだ。頭部は、視界確保のためゴーグル型になった目があり、どこか騎士の兜を連想させる。


 すでに人が入っていて、技術者が適当に動け、と指示すると、体操のような動きをして、その運動性能をアピールし始めた。

 渡辺は目を丸くする。


「これは凄い。普通に服を着ているみたいに、よく動くじゃないか」


 いざ走ると、人間が走るよりもさらに速い。2メートルはあるが、生身の人間では追いつけそうになかった。


「ご覧の通り、中に入っている人間の動きと完全にフィットしていますので、あの見た目で非常によく動けます。能力者が使えば、ジャンプで戦車や飛行機を飛び越えることもできます」


 技術者は、そこで手元の資料に目を落とした。


「ただ、こちらは能力者によって、さらなる性能向上が見込まれるので、詳しい調査が必要かと」

「だが、現状でも普通の歩兵よりは強いのだろう?」


 山本が目を細めれば、技術者は頷いた。


「はい。一人で、一個分隊程度の能力を発揮できます。何より単独で重機関銃や迫撃砲を携帯できますから、火力が一般歩兵よりも遥かに勝っています」

「能力者は数も限られておるのだろう? 一部は検証、そして能力者用の部隊にとっておくとして、それ以外は一般兵に使えるよう、用意してくれ」

「承知しました」


 そこで機械服のデモンストレーションが終わり、頭部と肩が開き、中の人が露わになった。


 ぬるっ、と体が上へ浮かび上がり、全身スーツにベトベトした液体をつけて装着者が出てきた。


 渡辺が顔をしかめ、樋端がしげしげとそれを見る。


「陸軍は全裸と聞きましたが、さすがにここでは専用の服があるんですね。……確かに、妙な服だ。しかし、本当にヌメリとしたものがついてますね」


 べちょり、と足跡をつけて、装着者は引きつった顔のまま、山本らに敬礼すると、控え室の方へ移動した。やはり、あのベトベトは専用スーツがあっても中々不快らしい。


「話には聞いていたけど、機械服の外と中の違いぶりには驚かされる……」


 首を横に振る渡辺である。樋端が淡々と聞いた。


「着てみますか?」

「結構です」


 そんなやりとりを耳にしつつ、山本は技術者に視線をやった。


「あの粘液は何なのかね?」

「わかりません。異世界物だとは思うのですが、確かなことは、毒ではないこと、あれがないと機械服がフィットしないということでしょうか」

「安全ではあるが、あれは兵も嫌がるのではないか」

「機械服に入っている間は、逆に快適のようです。普通、ああいう密閉されるスーツを着込むと暑さと息苦しさで、不快になるのですが、あの粘液が機械服とフィットしている時は、それを感じず、何時間でも着ていられるそうです」

「後始末は大変そうだがね……」


 周りに粘液の足跡を作りながら退散した装着者の顔を思い出す山本だった。



  ・  ・  ・



「お帰りなさい。どうでしたか?」


 魔技研施設から戻った山本らを神明は迎えた。山本はニヤリとする。


「思ったより動けるのだな、という印象だ。もっと動きが鈍いものだと思っていた」


 岩のゴーレムも、もっと動きがノロノロしているかと予想していた。

 機械服の方も2メートルの巨漢サイズでありながら、俊敏で力もある。数人がかりが必要だった装備運びも単機で携帯し、使用できるようだった。


「これなら、戦闘部隊として、稲妻師団に編入することも充分あるとみた」

「それはよかったです。基地の防衛などで使うというお話でしたが、現地へは転移倉庫で部隊ごと送りつけられれば、輸送の問題は解決でしょうか」

「うむ、そうだな。それがいい」


 山本は同意した。輸送の問題も、転移倉庫という装備が運用されるようになって、一気に動き出した。迅速展開、瞬時に大量輸送――転移連絡網は、艦隊から移動距離と時間を大幅に短縮したが、転移倉庫はさらに補給輸送の概念を一気に変えた。


 神明は言う。


「あとは、転送できない土地へ運ぶ際の輸送手段と、強行上陸作戦などで、船から直接、現地へ乗り込む手段を考える必要がありますね」

「……そうだな」


 ふと忘れそうになる。何でもかんでも転移で解決できないわけではないということを。行ったことのない土地、事前に転移を中継できる装置などがないと、結局は直接運ぶしかないのだ。

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