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第四〇六話、陸上戦闘員が欲しい


 1944年4月初旬。日本海軍は、ニューギニア島ならびにアドミラルティー諸島の、異世界帝国軍の無力化を企図したむ号作戦を成功させた。


 稲妻師団と、それに共闘する南東方面艦隊、第八艦隊、第二機動艦隊の支援で、制空権ならびに制海権を確保した。


「――次は、オーストラリアと、南東太平洋海域の敵の分断です」


 連合艦隊旗艦『敷島』。草鹿 龍之介参謀長は、地図を指し示した。


「ソロモン諸島、サンタクルーズ諸島、そしてニューカレドニア島を制圧し、そこより東のフィジー、サモアなどを孤立させる――というのが、軍令部が考えた計画となります」

「……とは言っても、相変わらず陸軍の兵は回してもらえないのだろう」


 山本五十六連合艦隊司令長官は、皮肉げに言った。


「どうせ、アヴラタワーやら異世界人の弱点を狙って、無力化。……オーストラリアも敵は沿岸部だろうから、そうやって無力化させて占領の代わりとする腹積もりかな?」

「兵器の方は、アメリカからの輸入がありますが――」


 草鹿は小首を傾げた。


「人員ばかりはどうしようもありません」

「僕なんか、正直不安もある」


 山本は告げた。


「無力化したところを、敵が兵を送れば簡単に奪回されてしまうからね。そこに誰もいなくて、空っぽの基地が放置されているというのは、気持ち悪くていけない」

「とはいえ、人がいませんからね」


 渡辺戦務参謀が口元を緩めた。


「設営隊とか、そういうのでいいのであれば、送り込めるんですが、いざ戦闘になった時にやられてしまうのでは……」


 無用な被害を増やすだけである。

 拠点であれば、それを警備する要員は必要になるもので、二線級であったとしても、いざという時戦えなくては送る意味が薄れる。非戦闘地帯ならともかく、戦争をしているのであって、敵は正規の兵隊なのだ。


「長官の不安もわかります」


 樋端航空参謀が淡々と言う。


「む号作戦で、ニューギニア方面の飛行場の無力化には成功しましたが、前々から交戦していた北岸寄りのマダン、ウエワク、アイタペ、ホーランジアには、ゴーレムやトカゲ兵の陸上戦力が残っているといいます」

「トカゲ兵やゴーレムに、警備と敵との交戦以上のことはできないとされているが――」


 山本は腕を組んだ。


「それらが流れて空っぽの基地に入られると、処理が面倒ではある」


 アヴラタワーやそれに類するものが破壊され、異世界人のほうは倒せたが、処理すべき残敵が残っているのも事実である。


 ニューギニア方面では、日本軍の上陸に備えて、北岸沿いに地上部隊が配置されている一方、む号作戦で新たに無力化された飛行場などは、最低限の警備しか地上戦力はなかった。


 やはり、前線は強く、後方が弱い異世界帝国である。彼らとて戦力が強大だが、無尽蔵に兵がいるわけでもないのだろう。戦闘がないと思われる後方に多数の兵力を配置するのは、無駄というものである。


「ただ、手はあると思います」


 樋端は、山本を見た。


「さすがにトカゲ兵は、我々では制御できないでしょうが、ゴーレムならば可能性があるかと。警備や戦闘以外は、と長官は仰いましたが、今必要なのは、まさにそれなのですから」

「確かにそうだ」


 山本は頭を振った。渡辺が口を開いた。


「陸軍さんは、ゴーレムとか機械歩兵とか、そんなのを大陸での戦いで使っているという話です。……聞けば、今回のむ号作戦で手に入れた敵施設でそれなりの数を鹵獲できたとか」

「それをこちらでも使えれば、問題の解決になるな」


 それは山本にも大いに関心があるところだった。何せ海軍は艦艇規模が拡大する一方、人員不足が深刻で、艦の自動化が進んだ影響で、艦乗組員で編成する陸戦隊が編成できない艦が圧倒的に増えていた。


 そんな状態だから、前々から海軍でも、回収した敵ゴーレム兵器の解析、研究が進められていた。海軍独自のゴーレム部隊は、マーシャル諸島やハワイ作戦には間に合わないとわかっていたものの、その後の進捗が、少しも連合艦隊に伝わっていないのは問題だが。


「梃子入れが必要だろうか」


 山本は呟いた。首を傾げる渡辺。樋端は意をくみ取る。


「魔技研ですか?」

「以前、神明君がコア制御の航空機や自動化の研究で、陸軍からゴーレム関係の記録を見たと言っていた」


 神明少将――第一機動艦隊参謀長だが、魔技研出の人間で、異世界人の兵器研究において海軍随一の人間である。機動艦隊参謀長にやらせる仕事ではないが、彼の知識に頼りっぱなしなところがある。それを思い出し、渡辺は苦笑する。山本は続けた。


「海軍でもゴーレムは使えると彼は言っていた。だがそれが未だ前線に話が来ないというのは、どこかでトラブっているのだろう」


 たとえば量産性に問題があるとか、どこかの部署がゴーレム導入に反対しているとか。


 樋端が顎に手を当てた。


「単純に、フネでは使えないというサイズの問題かもしれません」


 ゴーレムなどは人間より一回り大きい。普通に考えて、日本海軍の艦艇では、通路も通れないから甲板に載せておくくらいしかできないのではないか。


「今必要なのは陸上(おか)の話なので、軍令部なり海軍省なりに催促してもいいかもしれません」

「……ちょっと、専門家に改めて話を聞いてみるか」


 山本は席を立った。


「例の新型砲搭載艦の話も聞きたいし、ちょっと神明参りでも行ってみよう」


 長官が直接動く。その神明参りというのが、かの多忙参謀長のことだと察する参謀たちである。渡辺はまたも苦笑した。


「何だか神社に行くみたいですね」

「字面も似ているな」


 山本もつられて微笑する。魔技研出身であり、本人も能力者であるという神明である。案外神社とか、そちらとも縁がありそうだと山本は思った。



  ・  ・  ・



 対壁戦研究会――それだけを聞くと、対防御障壁貫通砲と、それを搭載した戦艦を作るという研究会に見えない不思議。


 第一機動艦隊の参謀長でありながら、研究会の中心メンバーとして活動する神明少将だが、彼に持ち込まれる相談は多い。


 対壁戦という名の研究会にあって、海軍各所から、防御障壁を破る兵器の開発を促されていることもそうだ。大砲屋だけでなく、航空屋や水雷――誘導弾関係なども期待を寄せている。


 しかし、それ以外にも、たとえば転移倉庫を使った機動支援部隊でも助言を求められたり、要求希望は多岐に渡る。


「――今度は、ゴーレムですか」


 神明は、やってきた山本長官と渡辺、樋端両参謀に、薄ら笑いを浮かべた。


「ええ、研究してますよ。敵基地の障壁を突破して、アヴラタワーへ突撃する機動歩兵の構想なんかもやってましたからね」


 神明は書棚から資料を取り出すと、山本にそれを見せた。

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