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第四〇五話、南海艦隊と南方軍団 大将会議


 ムンドゥス帝国南海艦隊司令長官ロウバート・ケイモン大将は、陸軍南方軍団指揮官、マルティホラス大将と面談していた。

 その内容は、南太平洋に進出してきた日本軍への対処についてだ。


「第一、第二輸送艦隊は、日本軍の攻撃により壊滅した」


 魔術師然としたケイモンが告げる。老いているわけではないが、自然な貫禄を滲ませる。

 向かい合うは、筋骨隆々の体躯を持つ赤毛の男性であるマルティホラス。初老の彼は、憮然とした表情を浮かべた。


「日本軍の南方攻撃の要であるトラック諸島を脅かす前進拠点のはずでしたが、残念です」

「……」

「ここを前線とできれば、後方のソロモン諸島の拠点化をせずに済んだ」

「正直、気が進まない」


 ケイモンの気のない言葉に、マルティホラスも首肯した。


「同感です。あそこは島も多い。複数の防御拠点を作れれば、日本軍を悩ましてやることもできるでしょう。逆にあそこを敵に押さえられれば、ニューカレドニアが脅かされ、フィジーやサモアを分断されかねません」


 しかし悲しいかな、ムンドゥス帝国地球侵攻軍は、前線は強いが後方拠点は弱い。


 ニューギニア島、ニューブリテン島、ニューアイルランド島を前線に据えたが、その近くのソロモン諸島は、元々地球人側の基地がなかったこともあって、ほとんど手が入っていない。


「しかし、仮にソロモン諸島を強化したとて、日本軍が座して見ているだけではあるまい」


 ケイモンは告げた。

 前線を強化する意味も兼ねて、マヌス島辺りに前進基地を設営しようと二つの輸送艦隊を送ったが、その護衛艦隊を壊滅させられ、基地化にも失敗している。

 それどころか。


「敵は、ニューギニア島の各飛行場を無力化した。どうやったかは……言うまでもないだろう」

「アヴラタワーの破壊。我々の行動を縛るもの。……大陸でも、日本陸軍にしてやられていると聞きます」


 マルティホラスは渋い表情を浮かべた。


 ニューギニア島の防備には、それなりの設備投資をしたが、日本軍は、島中のアヴラタワーと関係施設を破壊。そのせいで、ムンドゥス帝国人の住める環境ではなくなってしまった。

 ケイモンは淡々と告げた。


「この星の生き物である地球人が制約がないのは、当然として、我々にとってはネックになっておる」

「しかし、だからと言って、手を引くには惜しい。ここは帝国が求める資源があります」


 ムンドゥス帝国にとっては、特殊資源の獲得のための侵略である。他の世界の人類、それが下等であり、蛮族であるなら搾取するのみである。


「が、その蛮族はこちらと互角以上に渡り合って見せている。彼らは僅かな間で、ムンドゥスに匹敵するレベルにまで進化したやもしれん」


 ケイモンは目を細めた。


「まあ、たとえそうであろうとも、皇帝陛下は征服せよと、仰せである。戦える人間を排除し、それ以外を資源に変換。この星もまたムンドゥス帝国の領地となる。それだけだ」

「……そうですな」


 マルティホラスは思うところがありつつも、同意した。


「しかし、日本は小さな国だという情報でしたが、大陸以外にも南太平洋に陸軍を展開する戦力を持っていたのですな」


 ニューギニア島をはじめ、アヴラタワーを破壊し、まさかそのままということもないだろう。日本軍は、ムンドゥス帝国人がいなくなった飛行場や、各基地を制圧し、ニューギニア要塞を手に入れたに違いない。


「戦力展開が完了する前に、できれば先手をうって叩きたいところですが――」

「すでにニューギニア島の飛行場に日本軍は展開しているという報告がある。第二輸送艦隊は、同方面から敵航空隊の攻撃を受けたという」


 ムンドゥス帝国軍は詳細を掴み切れていないが、この進出した部隊というのは、第九航空艦隊だったりする。転移倉庫を活用した機動支援部隊による、転移展開で、迅速な部隊配備が行われたのだった。


「生半可に仕掛ければ、逆にこちらが戦力を失うだけだろう」

「ですが、このままというわけにもいきますまい」


 陸軍大将は、語気を強めた。


「帝国軍人であるからには、敵を叩き潰さねばなりません。太平洋方面では、日本軍に押されて南半球に押し込まれているものの、いつかは反撃し、北半球に侵攻をかけねば」

「貴殿の言い分はもっともだが」


 しかしケイモンの口調は冷めていた。


「我が南海艦隊は、防衛艦隊。攻勢艦隊だった太平洋艦隊、大西洋艦隊、東洋艦隊がやられ、今は再建中の段階だ。陸軍の攻勢思考はわかるが、海軍としては、確かなものがなくては、これ以上前進するのは同意しかねる」

「……」

「とはいえ、だ」


 南海艦隊司令長官は告げた。


「海軍としても時間が欲しい。攻勢艦隊の準備が整うまで、このオーストラリア大陸、そして南東太平洋の制海権は確保せねばならない。それが叶うのであれば、具体的な陸軍の攻勢作戦に対して、我が南海艦隊は全力で応えることを約束しよう」

「なるほど。……では、こういうのはどうでしょうか」


 マルティホラスは、副官に合図し、とある作戦案の資料を提出した。


「我が陸軍としては、計画はあります。ただし、それを実行するためには、海軍の――南海艦隊の協力が不可欠」

「拝見しよう」


 ケイモンは資料に目を通す。

 ソロモン諸島を基地化。南海艦隊はソロモン海に展開する。それと並行して、ニューギニア島はポートモレスビーに電撃上陸を仕掛けて、これを奪回する。


「南海艦隊が大戦力を展開してくれるならば、日本海軍は、その主力――連合艦隊の全力をもって向かってくるでしょう。そこで、オーストラリアに集結させた陸軍航空隊が、海軍と共同して敵艦隊を叩きます」


 用意される戦力。そして使用する武装などの一覧をみて、なるほどこれは南方軍団も本気だと、ケイモンは感じた。

 しかし――


「意気込みは買うし、協力も吝かではないがね、マルティホラス大将。陸軍施設のアヴラタワーをやられたら終わりという状況の対応策についても、具体策を示してもらえないだろうか?」


 こちらにオーストラリアの拠点があるなら、日本軍にも奪取したニューギニア島やニューブリテン島の飛行場がある。


 連合艦隊と南海艦隊が戦う時、ムンドゥス帝国南方軍団航空隊が支援するのと同様、日本の基地航空隊も向かってくるだろう。その配分によっては、逆に南海艦隊が劣勢に追いやられる可能性がある。


 オーストラリアにある飛行場から重爆撃機を飛ばすにしても、敵は制空権獲得を第一とする日本軍。間違いなく、飛行場から叩いてくるだろう。アヴラタワーをやられて、艦隊決戦時に支援できない、では洒落にならないのだ。


「なに、さほど難しいことではない。二重三重の対策を練って、準備してもらえればよいのだ。そうであれば、現行案でも、我は構わんよ」

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