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第四〇四話、猟犬は食らいつく


 異世界帝国輸送艦隊は、引き返した。


 その報は、連合艦隊司令部を安堵させたが、事態はこれで終わりではなかった。

 何より、敵輸送艦隊撃滅の命令を受けていた第二機動艦隊が、猟犬の如く、猛追していたのである。


 日が落ちた。

 ムンドゥス帝国第二輸送艦隊は、日本軍の基地航空隊からの攻撃をひとまず切り抜けたと、ホッとしていたに違いない。


 だが転移巡洋艦の支援で、距離を詰めた山口機動部隊は、夜間航空隊を発艦させた。


「敵輸送艦と駆逐艦を掃討! かかれ!」


 山口の檄を受けた奇襲攻撃隊は、8隻の空母から出撃。九九式戦闘爆撃機72機、二式艦上攻撃隊144機は、夜間視力魔法やゴーグルを頼りに視界を確保しつつ進撃。偵察機が張り付き、通報された海域に進むと、遮蔽を解除し突撃を敢行した。


 この攻撃は、異世界帝国側の不意を衝いた。

 彼らは、日本軍が夜間航空隊を持っていることは知っていた。だがその規模について正確な情報がわからず、一部艦艇に防御障壁を展開させる以外に対応がなかった。


 だが奇襲攻撃隊は、そんな障壁展開艦をスルーし、駆逐艦や輸送艦を狙った。夜目にも鮮やかな炎が、海上の至る所に現れ、死屍累々の光景を作り出す。


 たちまち駆逐艦は半分が失われ、さらに犠牲が増えていく。周りの巡洋艦を無視し、輸送艦もまたあっけなく10隻が轟沈した。


 そして、状況はこれで終わらない。

 二機艦司令長官である猛将、角田中将は、航空攻撃で注意が夜空に向いている異世界帝国艦隊に襲い掛かった。


「浮上! 第二、第八戦隊は、敵戦艦を攻撃! 水雷戦隊、突撃せよっ!」


 海面から浮上した第二機動艦隊夜戦部隊は、戦艦部隊と水雷戦隊で分かれた。


 角田率いる戦艦部隊は、旗艦『近江』を先頭に単縦陣を形成。敵戦艦に対して同航戦を展開する。

 夜戦部隊の編成は、第七水雷戦隊に加え、今回は第八水雷戦隊も参加し、以下の通り。



 ●第二機動艦隊:夜戦部隊


 第二戦隊(戦艦):「大和」「武蔵」「美濃」「和泉」

 第八戦隊(戦艦):「近江」「駿河」「常陸」「磐城」


 第三十二戦隊(巡洋艦):「早池峰」「古鷹」「加古」


 第七水雷戦隊:(軽巡洋艦)「水無瀬」

 ・第七十一駆逐隊:「氷雨」「早雨」「霧雨」

 ・第七十二駆逐隊:「海霧」「山霧」「大霧」

 ・第七十三駆逐隊:「黒潮」「早潮」「漣」「朧」

 ・第七十四駆逐隊:「巻雲」「霰」


 第八水雷戦隊:「川内」「神通」

 ・第七十六駆逐隊:「吹雪」「白雪」「初雪」

 ・第七十七駆逐隊:「磯波」「浦波」「敷波」「綾波」

 ・第七十八駆逐隊:「天霧」「朝霧」「夕霧」「狭霧」

 ・第七十九駆逐隊:「初春」「子日」「春雨」「涼風」



「目標、一番近い敵戦艦!」

「長官、空母もいますが、戦艦でよろしいんですね?」


 古村参謀長が確認すれば、角田は吠えた。


「今は空母は捨て置けぃ! 戦艦を優先だ!」


 この夜戦において、敵小型空母は、脅威たり得ない。


 航空隊の襲撃で、敵艦隊は空母を囲むような防御陣形を取っており、近距離の砲戦に即時対応できる状態ではなかった。

 山口の航空隊と、角田の水上部隊の連続攻撃。それは異世界帝国艦隊に致命的な破壊をもたらす。


「長官、砲撃準備、完了。行けます!」


 田原 吉興(よしおき)艦長が告げ、角田は声を張り上げた。


「撃ち方ーはじめっ!」


 八戦隊の『近江』、僚艦の『駿河』『常陸』『磐城』が立て続けに、41センチ連装砲を発砲した。


 四基八門、合計三十二発の砲弾が、敵艦隊中央の空母を取り囲むように配置されたうちの1隻、中央より右前方のオリクト級戦艦を水柱と直撃の爆発で覆い隠した。


 なお、その後方を行くヴラフォス級戦艦には、第二戦隊『大和』『武蔵』『美濃』『和泉』の砲撃が集中し、たちまち蜂の巣となり爆沈した。


 夜の闇を裂くかがり火が、周囲を照らす。34.3センチ砲対応防御しかないヴラフォス級には、大和型の46センチ砲、美濃型の41センチ砲は、格が違い過ぎた。


 一方、潜水型駆逐艦部隊である第七、第八水雷戦隊も、敵艦隊へ肉薄する。

 特潜型駆逐艦、改吹雪型潜水型駆逐艦は、マ式機関によって不要になった煙突部に設置された対艦誘導弾連装発射管を、対空射撃中の敵巡洋艦に向けて発射した。

 27隻各4発、合計108発は、異世界帝国重巡洋艦または軽巡洋艦へと分散、襲いかかった。


 この攻撃は、各巡洋艦艦長たちの油断を衝いた。

 昼間から続く航空攻撃が、駆逐艦と輸送艦を中心に狙ったことで、自分たちが攻撃されなかったことに慣れてしまった故の隙であった。中には、自分の艦ではなく輸送艦が狙われていると思っていた艦長もいた


 輸送艦の護衛に集中していた異世界帝国巡洋艦戦隊は、光弾高角砲や対空機銃を撃ち上げていたが、それはすなわち防御障壁を展開していないということ。対艦誘導弾は、これら防備が薄い巡洋艦に次々に突き刺さった。


 輸送艦隊の中で、被害の少なかった重巡洋艦だが、たちまち無傷の艦がなくなった。半数が中・大破。航行不能ないし、指揮系統喪失。残る半分もまたダメージコントロールにかかり、襲撃してきた日本軍水雷戦隊への反撃にかかる。


 そんな重巡洋艦に対して、軽巡洋艦戦隊は、壊滅的打撃を受けていた。重巡でも当たり所によっては致命傷である誘導弾を直撃され、轟沈。大破、航行不能になる艦が相次いだのだ。


 日本軍水雷戦隊は容赦なかった。残存駆逐艦に、速射砲ないし光弾砲を撃ち込みつつ、誘導魚雷を発射。異世界帝国巡洋艦戦隊に止めを刺した。



  ・  ・  ・



 ムンドゥス帝国第二輸送艦隊旗艦『カリドゥス』。ラーディックス中将は、傾いている旗艦を見やり、口髭をいじった。


「正直、海峡を超えたらこういう展開になるんじゃないかって予感はあった」


 しかし現実には、ダンピール海峡の手前で引き返したのに、日本軍は食らいついてきた。彼らは、この世界での狂戦士だと、ラーディックスは思った。

 セルペンス参謀長もまた皮肉げに言った。


「さすがは蛮族というところでしょうか。敵の指揮官は、とんだ猛犬だったようだ」

「やはり、決断が遅かったな……」


 惜しむらくは、次に活かす機会はないということが。


『防御シールド、ダウン!』


 いよいよ、最後の時がきた。第二輸送艦隊の戦艦群は、日本海軍の8隻の戦艦に各個撃破され、『カリドゥス』もシールドで防いでいたものの、砲撃が集中し、それも限界がきた。


 ガーン、と46センチ砲弾が、オリクト級戦艦の装甲板を貫くと、その艦体を吹き飛ばし、ラーディックスら司令部を飲み込んだ。


 第二輸送艦隊は、壊滅したのだった。

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