第四〇二話、強度観測
七九一空の銀河双発爆撃機が、敵輸送艦隊の中型空母を急襲した。
新たに3隻の空母が血祭りにあげられた頃、第一陣として迎撃に向かったヴォンヴィクス、エントマ戦闘機隊は、日本軍航空隊と交戦に入った。
その日本軍は、東部ニューギニアのチリチリ、ナザブ飛行場から飛来した第二九一海軍航空隊、第二九二海軍航空隊の二個戦闘機隊と、第五九一海軍航空隊、第五九二海軍航空隊の艦爆、艦攻隊であった。
これらは、一九一空の偵察機の誘導を受けて飛行しており、その内訳は、業風戦闘機36機、暴風戦闘機36機、九九式艦上爆撃機27機、九七式艦上攻撃機36機に、偵察仕様の二式艦上攻撃機4機、合計139機だった。
先手を取ったのは、業風戦闘機隊だ。コア制御の改造ヘルキャットは、正面の敵機に対して魔力誘導波を照射すると、翼下に懸架してきた空対空誘導弾を発射し先制した。
正面から高速で突っ込んできた対空誘導弾は、あっという間に距離が縮まり、すれ違い、または正面衝突して派手に爆発した。
ざっと命中したのは、半数の十数機。あまりに速過ぎて、誘導しきれず外れてしまったものが半分くらいあった。
そして航空隊は、そのままヘッドオン。業風の12.7ミリ弾と、ヴォンヴィクスの機銃、あるいは光弾砲が飛びかった。
いくつもの機が火を噴き、黒煙を引いた。ジュラルミンの翼を銀粉に変えて四散するものもあれば、エンジンを失い、石つぶてのように落ちていくものもある。
業風が敵編隊通過した後、旋回機動に移る。一方、ヴォンヴィクスが反転する中、エントマはそのまま突き抜け、九九式艦爆、九七式艦攻の編隊へと突き進む。
異世界帝国側は、艦隊に迫る攻撃隊を阻止しようというのだ。艦隊にとって危険なのは、戦闘機ではなく、艦爆と艦攻である。
だが、そこへ暴風戦闘機――コルセア戦闘機1個中隊12機が被さるようにダイブしてきた。
狙われたエントマは回避機動。しかしそれでも抜けた機体は少なくない。が、またも暴風が今度は斜め後ろから24機、高度から突っ切ってきた。
さすがに後ろから迫る戦闘機には、エントマも回避運動を取る。一部の機体は高速機である点を活かしてダイブして逃げたが、暴風もまた時速700キロ超えの高速戦闘機。ダイブして振り切れない。
背後からの対空誘導弾、もしくは機銃弾の雨を食らい、エントマが次々に落ちていく。
無人戦闘機隊が、敵機を近づけないようにしている間に、攻撃隊は艦隊へ迫る。
異世界帝国輸送艦隊は、対空戦闘を開始。外周に配置された駆逐艦が、高角光弾砲を発砲。対して五九二空の九九式艦爆が、中型誘導弾を発射で応戦。敵の攻撃が弱いうちに誘導弾による遠距離攻撃を仕掛ける。
1隻に対して小隊ごとの一斉発射。高速で目標に接近する誘導弾。これに対して、標的になった駆逐艦は、必死の対空弾幕を展開。だが全てを撃墜には至らず、被弾、爆発した。
陣形の一角に穴が空く。
九九式艦爆隊は、そのまま周りの駆逐艦に対しての攻撃を続行。対して九七式艦攻隊は、より中央の大型艦――巡洋艦めがけて800キロ対艦誘導弾を発射した。
こちらも無人機だらけなので、有人の指揮官機の定めた目標に対しての一斉投下となる。先頭の中隊から9発、狙われたプラクス級重巡洋艦は、唐突に対空射撃を中断した。
飛来する誘導弾の全撃墜が非常に困難なのがわかっているのだ。だから異世界帝国重巡洋艦は、防御障壁を展開した。
どうせ敵機は対空機銃の範囲まで踏み込んでこない。であるならば、誘導弾の撃墜は諦め、防御に徹する。それが結果的にダメージを抑える手っ取り早い方法だったのだ。
案の定、9発の対艦誘導弾は障壁に阻まれた。
別の九七式艦攻の中隊は、メテオーラ級軽巡洋艦に狙いをつけた。こちらも一中隊9発の誘導弾を撃ち込む。
軽巡洋艦は結構な間、対空砲で撃墜すべく粘り、途中2発が撃墜されたが、残る7発は、防御障壁を展開して阻止した。
後続の2個中隊は、敵艦隊との距離が近づき、高角砲弾が届き出していたが、観測機からの指示が飛んだ。
『第三中隊は、第一中隊が狙った重巡。第四中隊は第二中隊が攻撃した軽巡を攻撃せよ』
残る編隊は、それぞれ指示された目標へ攻撃した。
するすると伸びる対艦誘導弾。離脱する九七式艦攻だが、運の悪い機体が高角砲にやられて墜落した。
少し距離が近かかった。魚雷の投下距離と比べたら、まだまだ遠いが、おそらくそこまで踏み込めば、半分以上が撃墜されているだろう。
さて、放った誘導弾だが、重巡洋艦はやはり防御障壁で自艦を守った。しかし軽巡は僚艦の援護も受けながら、最後まで対空砲を撃ちまくり、そして誘導弾が艦体に三発直撃し、その艦を構成する部品を派手に飛び散らせた。
後は退避するだけの攻撃隊だが、ここで敵軽空母から発艦した戦闘機第二陣が、離脱する九七式艦攻、九九式艦爆に襲いかかった。
ヴォンヴィクス、エントマに比べれば、遥かに低速の旧式機は、次々に撃墜され――だが全滅する前に、暴風戦闘機が切り込んで、敵機を払い除ける。
戦闘機が派手にやりあう間に、攻撃隊は元来た道を引き返して、戦線を離脱した。
・ ・ ・
第九航空艦隊攻撃隊の空中指揮官、上森 平吉郎中佐は、彩雲改偵察機から、戦場を監視、いや、観測していた。
「浜村少尉、どうだ?」
『標的となった重巡の観測魔力は、かなり弱くなっています。もう一撃できれば、崩せるかもしれません』
魔力測定装置をいじっていた浜村が答えた。
「まあ、今回はもう種切れだがな」
上森は手元の紙に記録をつける。今回の攻撃で、敵が使用する防御障壁の耐久データが取れた。
まず、この艦隊の駆逐艦は、防御障壁装置を装備していない。九九式艦上爆撃機隊の標的にした駆逐艦は、1隻の例外なく障壁を展開しなかった。結果、大破、または沈没した。
しかし巡洋艦以上は、防御障壁が確認された。戦艦や空母については、これまでの海戦で装備しているのはわかっている。
問題は耐久力だが、軽巡洋艦は大型対艦誘導弾十発ほど当てれば撃沈可能。重巡洋艦に対しては、その2倍から3倍が必要と見られるため、現状の攻撃力で正面から航空攻撃はすべきではない。
おそらく空母、戦艦はそれ以上の障壁耐久力を持つ。オアフ島のアヴラタワーを守っていた障壁が50発前後必要だったことを思えば、戦艦級も同程度必要ではないだろうか。
『中佐、電探に新たな航空隊の反応あり!』
彩雲改搭載の対空電探が、戦場に迫る航空機の一団を捕捉した。
「南東方面艦隊の第一航空艦隊か」
出撃前、九航艦と連携して、南東方面艦隊は航空隊を出すとか言っていたのを、上森は思い出した。
「どれ、あちらさんに伝えておこうか」
上森は通信機を取ると、一航艦攻撃隊の空中指揮官に呼びかけた。
狙うなら防御障壁がない駆逐艦。軽巡洋艦は2個中隊があれば撃沈可能。重巡洋艦以上については効率が悪いので非推奨。
あと、一九一空の彩雲改は、敵の防御障壁の魔力とその強弱を観測していることも付け加えておく。
標的の選定を手伝えるのと、もし大物を狙うつもりなら、記録を取りたいと添えて。