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第四〇一話、その名は銀河


 ムンドゥス帝国第二輸送艦隊、旗艦『カリドゥス』。艦隊司令官、ラーディックス中将は渋い表情だった。


 おそらく遮蔽装置を利用したと思われる日本機の奇襲を受けて、18隻ある空母のうち、半分の9隻が叩かれた。


 レーダーの反応もなく――攻撃を受けた直後に、発見報告などされても遅いのだが、あっという間に5隻轟沈、4隻大破の損害を受けた。


「実に面白くない事態だ」


 日本軍に遮蔽技術がある、という話は本当だったのだ。いざそれを目の当たりにして、ようやく信じるムンドゥス帝国軍人である。

 直接戦ってきた者ならともかく、これまで日本軍と戦ったことがない部隊の将校たちには、地球人は下等という認識がどうにも抜けきれていない。


「しかし、直掩機もいたのに、こうもあっさり接近を許すとは……。どう対処したらいいものか」


 ラーディックスが視線をセルペンス参謀長に向けるが、当の参謀長は何やら首を傾げていた。


「どうしたね? 参謀長」

「いえ……日本軍の攻撃が妙でしたから」

「妙、とは……?」

「あれです」


 セルペンスは、洋上を航行するアルクトス級中型高速空母を指した。


「あれが、どうかしたかね?」

「無傷なんですよ」

「防御シールドを展開していたのだ。少数機の攻撃を防いだのではないかね?

「それが、どうも日本軍は、アルクトス級を始めから攻撃しなかったようなんです」

「!」


 本当にそうであるなら、確かに違和感がある。


 何故なら、第二輸送艦隊の中で、アルクトス級中型高速空母3隻は、艦隊航空戦力の要である。


 艦載機搭載数も、グラウクス級軽空母1隻のほぼ倍の数を運用できる。つまりアルクトス級1隻を撃沈ないし戦闘不能にできれば、軽空母2隻を除外するに匹敵するダメージを与えることができる。


 そんな美味しい獲物であるはずの中型空母3隻を、日本軍は無視した。普通の航空指揮官なら、航空部隊の最大戦力であるアルクトス級を見逃すなとあり得ない。


「わざと攻撃しなかったというのか?」

「そうでなければ説明がつきません」


 結果として、アルクトス級は防御障壁を展開していたから、狙われたとしても無傷で乗り切っただろう。


 だがそれは結果論であり、何故日本軍が攻撃してこなかったのかの理由にはならない。


「始めから、防御シールドの存在を感知し、それで攻撃しなかった可能性がありますな」


 セルペンスは考えながら言った。

 その時、新たな報告が入る。


『対空レーダーに感あり! ニューギニア島より航空機多数、急速接近中。その数100機以上!』

「ニューギニア島から……?」


 ラーディックスは、言葉に詰まった。

 まさか友軍ではないか、と思ったが、すでに日本軍によってアヴラタワーを破壊され、無力化されているのはわかっている。


 生命活動が不可能な状態で、多数の航空機が上がってくる――それが友軍である可能性はなかった。


 しかし日本軍が展開するにしては、早すぎてこれもまた謎である。だが現実に現れ、向かってくる大編隊を無視するわけにもいかない。


「先の攻撃は、露払い。こちらが本命かもしれんな……!」


 ラーディックスは、ただちに残存空母に命じた。


「甲板上の戦闘機をただちに発艦させろ! それが済み次第、戦闘機の第二陣の発進を急がせろ!」


 日本軍の見えない奇襲で半分叩かれたが、まだ半分、9隻の空母が存在する。うち3隻は有力な中型高速空母だ。


 艦隊にはまだ280機前後の戦闘機が残っている。早期の迎撃に成功すれば、艦隊への被害を小さく収めることもできるだろう。


 各空母の飛行甲板に待機していた8機前後が即時発進。直掩隊と合流しそれだけで100機前後となる。


 これを第一陣として送り出し、すぐに飛行甲板に第二陣発艦の準備にかかる。輸送艦隊は、敵とは反対側である東へ護衛艦と共に退避させる。


「対空戦闘、用意!」


 戦艦、巡洋艦は対空戦闘に備え、高角砲、光弾砲の仰角を上げる。


 西にあるニューギニア島方向へ注目する異世界帝国兵たち。だがその時、近くで爆発音が響いた。


 とっさに視線が音の方へ移った。

 艦隊内の3隻のアルクトス級中型高速空母が、艦体から爆炎を噴き上げていた。



  ・  ・  ・



 双発爆撃機『銀河』。

 日本海軍の大型急降下爆撃機――十五試双発陸上爆撃機から開発された機体である。


 もっとも、誘導弾の採用と、急降下爆撃の危険性から、急降下性能についてはオミットされ、一式陸上攻撃機の後継機の一つとして仕上げられた。


 双発爆撃機としては、小型・軽量、さらに戦闘機並の高速性能を求められており、発動機に誉エンジン二基を搭載。最高時速587キロを発揮する。


 1942年6月に完成した試作機は、その後試験が重ねられ、魔技研の技術も加えた上で完成。43年11月に本格的量産が開始された。


 高速双発爆撃機『銀河』の初期量産型は、第五二一航空隊、第七九一航空隊が受領。後者である七九一空は、第九航空艦隊に所属し、こうして戦場にいた。


 一九一空の彩雲改が、異世界帝国輸送艦隊を監視する中、七九一空の銀河9機も、遮蔽装置で身を隠し、その時を待っていた。


『孔雀より、大鷲へ。敵中型空母は防御障壁を解除した。攻撃を開始せよ』


 防御障壁で守りを固めていたアルクトス級中型高速空母が、接近する第九航空艦隊の攻撃隊を迎撃すべく戦闘機を発艦させたのだ。


 障壁を展開したままでは、発艦の妨害になるので解除したのだが、それを銀河隊は見逃さない。


 彩雲改の魔力測定で、防御障壁が消えたとみるや、銀河は爆弾倉を開き、800キロ対艦誘導弾を発射した。


 9機から1発ずつ放たれた誘導弾は、3隻の中型空母めがけて突進。エレベーターを使って、ヴォンヴィクス戦闘機を飛行甲板に上げている最中のアルクトス級に突き刺さり、噴火の如き炎の柱を噴き上げさせた。


 誘導弾を放った銀河隊は、フルスロットルで離脱にかかる。遮蔽装置があるとはいえ、敵に追いつかれても面白くない。


 持ち前の高速性能を発揮し、ヒットエンドラン。それが銀河の戦い方である。

 空母をやられ、潜んでいた日本機を捜索しようと敵戦闘機がやってくるが、その姿は見えず、もはや手遅れである。


 彩雲改で、その様子を観測していた空中指揮官、上森 平吉郎中佐は、七九一空、銀河隊の戦果として、敵空母3隻撃沈と記録を入れた。


 これが銀河双発爆撃機の初戦果である。

・銀河双発爆撃機

乗員:3名

全長:15メートル

全幅:20メートル

自重:6935キログラム

発動機:誉一二型 空冷1825馬力×2

速度:587キロ

航続距離:1920キロメートル

武装:20ミリ光弾砲×2 1000キロ誘導弾×1

その他:帝国海軍が開発した双発爆撃機。空技廠が開発した大型急降下爆撃機だったが、急降下爆撃は自殺行為に等しい戦法となったこと、誘導弾による攻撃が主体となったことで、急降下爆撃性能はオミットされた。機銃が光弾砲系に変更されたことで、地上掃射での攻撃力が向上している。遮蔽装置と軽防御ながら防御障壁を装備する。

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