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復活の艦隊 異世界大戦1942  作者: 柊遊馬


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第四十話、転移のお札


 日本海軍第九艦隊攻撃部隊は、南シナ海を北上中だった。


 旗艦、大型巡洋艦『妙義』では、特マ潜からの通信を受信していた。


「敵東洋艦隊、針路を変更し、マニラへ引き返す、か」


 神明大佐は、特マ潜からの報告を、見たそうにしている神大佐に渡した。ちょび髭の軍令部員は、片方の眉を吊り上げた。


「これが本当の戦果だったらなら、喜ばしいのですが……」

「本当の戦果さ。何せ送ってきたのは優秀な能力者が乗る特マ潜からだからな。彼女の能力ならば、戦場の誤認はない」


 はっきりと断言する神明に、神はまだ納得しきれない顔だった。


 報告にあった敵東洋艦隊の陣容と、撃沈などの戦果――これがたった2隻の潜水艦が上げたものとはとても信じられなかったのだ。


 撃沈16、損傷5。戦艦や大型空母はさすがに撃沈できなかったようだが、軽空母1、巡洋艦5、駆逐艦10という数字は、やはり異常に映った。


「それほど魔技研の潜水艦は、優れているのですか……?」

「性能でも世界水準を凌駕しているが、特に特マ潜は、世界一の潜水艦だという自負はあるよ」

「世界一、ですか……」

「量産性はまったく考えていない、軍隊の兵器としては欠陥品だがな。他で真似できない最優秀な人材に、そいつらしか使えないハイスペック兵器を与えたら、まあそうなるということだ」


 神明は躊躇うことなく言い放った。


「旗艦を損傷させられ、空母も発艦できない状態なら、こいつらは我々の障害にはならない」

「そうですな」


 その点は、神も安堵する。残る障害は――


「米海軍に向かった部隊が、こちらへ来る可能性と、敵の基地航空隊だな」


 艦橋にある海図台へ移動する。


「マレーシア、仏印方面は、日本陸軍にかかっているとはいえ、我々がセレターから軍艦を盗んだと聞けば、捜索に出てくるだろう。そして蘭印、フィリピン方面。こいつらもフィリピンの完全制圧より、我々を優先してくるだろうな」

「こちらの航空戦力は、鰤谷丸のみ、ですか」


 神は唸る。


 戦闘機と艦爆を30機ほど搭載している特務艦がある。昨夜の戦いでは、敵機を地上で叩けた上に、防空設備もほとんど復旧していなかったので、被弾はあれど、全機無事に帰還したと報告を受けている。


「小型とはいえ、空母が残っていれば……」


 特設空母の『翔竜』のことを言っているのだろう。米軍の援護に、そちらに振り向けたために、第九艦隊本隊にはいない。


「一応、本艦は水戦を積んでいる」

「水戦?」

「水上戦闘機だ」

「ゲタ履き機ですか」


 神は半信半疑の顔をしている。フロートがついた戦闘機は、海面に離着水できるため、航空基地や空母がない戦場でも重宝はされる。……されるのだが、そのフロートが足枷となって、純粋な陸上戦闘機には速度性能などに劣ってしまう。


「なに、飛行している時はフロートはないから、陸上機や艦上機と変わらん」


 魔技研の開発した魔法技術採用機は、水戦のデメリットを解消済みである。


「しかし、数が不足していることには変わらないな」


 神明は顔を上げた。


「搭乗員を呼び戻そう。今は1機でも多いほうがいいだろう」



  ・  ・  ・



 鹵獲重巡洋艦『エクセター』の艦橋にいた須賀は、突然の来訪者に驚いた。


「え、誰?」

「自分、魔技研の秋田いいます」


 訛りが少々きついその男は、海軍中尉だった。年は二十代半ばと思われるが、何とも奇妙な雰囲気があった。


「ちょいと失礼しますよ」


 秋田と名乗った男は、ポケットから紙切れを一枚出すと、唐突に床に貼った。何をしているのかと思う須賀だが、宇良二等兵曹らは何も言わずに見守っているので、それに倣う。


 すると、ボン、と紙切れから煙が出たかと思うと、中から海軍軍服の女少尉が出てきた。


「あ、須賀中尉ですか? 清水少尉です。引き継ぎに参りました!」


 清水と名乗った女少尉。――えっと、今いきなり現れた?


「ちょっと色々突っ込みたいところだけど……。これ何?」

「ああ、転移のお札言いますぅ」


 秋田は床に貼った紙切れ――札を剥がした。


「転移?」

「このお札と、組になっているお札の間で、てれぽーてーしょん、言いますか、まあ、要するに瞬間移動できます」

「はあ……」

「それでですね!」


 清水が、須賀の前にきて、魔核を指し示した。


「私が交代要員として送られました。須賀中尉に代わり、以後、私がこの艦を操艦します!」

「交代要員なんかいたのか……」

「はい、一応。と言っても、私はあまり上手く操艦ができないので、この艦は、前を行く戦艦に曳航してもらう形になりますが。……それでですね、中尉にはこれから『妙義』に戻ってもらいます。水戦の搭乗員としての待機命令が出ています」


 要するに、敵の空襲に備えて、須賀は戦闘機に乗れ――ということである。秋田は須賀に近づくと、その軍服に件のお札をパンと貼り付けた。


「それじゃ、引き継ぎも終わったようなんで、須賀中尉には『妙義』に行ってもらいます。大丈夫、船は停めんでも行けますんで。それではー、行ってらっしゃい!」


 次の瞬間、須賀は『エクセター』の艦橋から、知らない室内にまばたきの間に移動させられていた。


「あ、ようこそ、『妙義』へ」


 少女と言える若い下士官が、須賀に敬礼した。


「竹屋です。水偵誘導員をやっています! よろしくお願いいたします!」


 須賀が答礼すると、若い二等兵曹はさっそく準備するように言った。飛行服に着替えて、戦闘機に乗れ、という。


「いきなりだな」


 状況から見て、戦闘機乗りがいたほうがいいのは理解できるが。魔技研の魔法で、艦から艦へ移動させられたことも含めて、須賀は困惑を隠せなかった。


「ちなみに、ここは空母じゃないだろう? 俺が乗るのはなんだ?」


 巡洋艦や戦艦と来れば、水上偵察機が相場であるが、須賀は戦闘機乗りである。交代要員の清水は、『水戦』と言っていたが。


「一式水上戦闘攻撃機ですよ。どうぞこちらへ、説明いたします」


 竹屋二等兵曹は、朗らかに答えた。

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