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第三九一話、ビスマルク諸島方面攻略計画


 内地、柱島泊地。連合艦隊の旗艦、航空戦艦『敷島』では、南東方面艦隊からの『む号作戦』の経過報告が入った。


「――東部ニューギニア島における異世界帝国の主要飛行場は、無力化に成功。後は、ビスマルク諸島の敵拠点を沈黙、ラバウルに前哨拠点を置ければ、む号作戦は完遂となります」


 草鹿 龍之介参謀長が読み上げれば、連合艦隊司令長官、山本五十六大将はコクリと頷いた。


「少々予定とは違ったが、順調であるならばよしとしよう」

「はい。ですが、まだ予断は許さない状況です」

「敵の増援艦隊だな」


 マヌス島・ロスネグロス島に進出してきた異世界帝国軍。トラック諸島を牽制するだろう前進拠点は、第二機動艦隊、第八艦隊により阻止された。


 揚陸地点を焼き払い、輸送艦隊を叩いたが、敵はすでに第二陣を増援に送り込んでいた。


「第一陣は葬ったが、果たして第二陣もロスネグロス島にやってくるだろうか」


 拠点化の準備段階だった第一陣輸送艦隊を失ったことで、敵の拠点化計画も大いに狂わされたことだろう。


 そのまま作戦を続けるのか、あるいは準備戦力を失ったことで、一度下がって態勢を整えるのか。その動向を、連合艦隊は注視していた。

 樋端 久利雄航空参謀が発言する。


「ニューギニア島を無力化したので、ビスマルク諸島の敵飛行場を即時、無力化に移るべきです」


 特に、日本海軍が拠点として狙うラバウルがあるニューブリテン島と、それに近いニューアイルランド島は、異世界帝国軍の飛行場があり、基地化も進んでいる。


 南東方面艦隊も、投入戦力の都合上、先日はニューギニア島に注力したが、射程のことを言えば、これらも叩くべき拠点であった。


「北上中の敵艦隊を攻撃しようとすれば、ニューブリテン島の航空部隊が支援するでしょうから、そうなる前に各個撃破しましょう」


 異世界帝国の第二陣艦隊は、50隻近い輸送船と、中型3隻を含む18隻の空母に戦艦6隻、護衛艦艇含めて100隻と大規模艦隊である。


 これにニューブリテン島のラバウルを中心とした複数の飛行場の航空隊が加われば、数の上で侮れない規模になる。


「うむ。南東方面艦隊、稲妻師団には引き続き、ニューブリテン島ならびにニューアイルランド島の敵拠点の無力化を命じよう」


 山本は言った。


「それはそれとして、問題は、敵の増援艦隊の対処だな」

「第二機動艦隊、第八艦隊は――」


 草鹿が、ニューギニア島含む南太平洋戦域の地図へ顔を向けた。


「ゼーアドラー湾夜戦の後、『日高見』まで後退し、補給中です。角田中将の第二機動艦隊は大きな被害はありませんが、遠藤中将の第八艦隊は、巡洋艦戦隊に少々被害が出ており、それらが修理のため離脱します」


 若干の戦力低下。夜戦で、砲弾を撃ち合った重巡洋艦戦隊に損傷が出たが、幸い、沈没艦はない。


 というより、転移離脱装置が各艦に装備された今、轟沈か転移装置の故障を除けば、ほぼ全艦に生還の可能性があるため、自沈もなければ撃沈件数は少なくなるだろう。


「まあ、第八艦隊は、本来の任務通り、日高見飛行場の護衛と支援に就かせればよかろう」


 山本は言ったが、小首を傾げる。


「第二機動艦隊だけでは、不足かな?」

「南東方面艦隊の航空隊がありますから」


 草鹿は指揮棒を伸ばし、地図上のニューギニア島北方から、ニューブリテン島近辺を往復させた。


「歴戦の角田中将、山口中将の二航艦ならば、敵輸送艦隊とその護衛を撃滅できると信じます」

「そうだな」


 山本が首肯したところで、この確認作業は終わった。以後、む号作戦の進行と、トラックにて準備中のラバウル攻略部隊についての話をした。



  ・  ・  ・



 会議の後、樋端が自室に戻ろうとすると、従兵がやってきた。


「参謀、軍令部から源田中佐がいらっしゃっています」


 源田――特に約束はしていないが、訪ねてきたからには会おうと樋端は了承した。


「樋端さん、お忙しいところすみません」

「忙しさなら君も相当だと思うよ、源田」


 源田 実中佐。海兵52期。軍令部第一部第一課員。かつて機動部隊時代の第一航空艦隊で、航空参謀を務めた男であり、戦闘機乗りにして根っからの航空屋である。樋端の1期下となる。


「それで、今日はどうしたんだ? む号作戦の進捗確認か?」


 軍令部第一部といえば作戦担当である。当然、む号作戦にもかかわっているので、源田はそれを聞きにきてもおかしくはない。


「いえ、大まかなところは、軍令部にも報告が来ているので。細かな点で確認したいことと、ちょっとした相談がありまして」


 ふーん、と樋端は、淡々とした表情を崩さず、目で頷いた。


「稲妻師団が、ニューギニア島の敵飛行場を無力化させたと聞いています。……ちなみに、その飛行場がどうなっているか、樋端さんはご存じですか?」

「無人になっている。これは太平洋方面で陸軍の増援を受けられないから、占領したくても占領できない」


 海軍の陸戦隊とて限られている。開戦から海軍の死者も多く、人員補充に苦労していた。昨今は自動化が進み、人員不足を補っているが、こと陸戦要員においては、陸軍の歩兵に持っていかれてしまうため、海軍側も増員できずにいた。


「そうです。無人で放置されることになると思います。敢えて守備隊を置かずにいることで、基地の取り合い、人員配備や補給などの業務も行われず消耗が抑えられる……」

「消耗できるほど贅沢なことはできないからね」


 特に人的資源については、と樋端は思う。艦艇は沈んでも再生できるが、人命はそうはいかない。戦前のもったいない精神、艦隊保全主義も、今では艦艇より人員優先に変化していた。


「それでですね、最近進められている空地分離方式について――」


 航空隊と、地上の基地および艦隊の指揮権を分けようという話である。これまでは基地ないし艦隊と航空隊はセット運用されていて、航空隊の指揮官は、空母の艦長だったり基地司令だったりした。


 が、ここで航空隊は艦隊司令長官なり航空戦隊司令官なりが預かり、空母艦長や基地司令とは別個で動かそうということになった。


 空母機動艦隊では、統一指揮のためすでに空地分離に近い運用がされているが、ここにきて海軍は、それを正規のものとして改正しようとしていた。


 地上の基地航空隊においても、源田が進めた第一航空艦隊でも、その下準備が進められていた。


 航空隊と、補給や整備ほか支援担当部隊を分けることにより、航空隊の移動の際、基地要員を一緒に別の基地へ移動させる必要がなくなる。航空隊は飛行機で直接、現地へ移動するので、迅速な展開や作戦に対応できるのである。


 前者が甲航空隊。後者が乙航空隊と呼ばれ、基本後者は、自前の航空隊を持たず、各飛行場に配置され、いつ航空隊が飛んできても対応できるようにするのである。


「で、その空地分離方式を考えた時、思ったわけです。甲航空隊だけでなく、乙航空隊の方も迅速に動かせないかな、と」


 源田は控えめな調子で言ったが、樋端は宙を見上げた。


「それは本末転倒ではないだろうか、源田」


 そもそもセット運用すると迅速な航空隊の展開の足枷になるから、分けようというのが空地分離方式ではないのか。


「と、これは君が言い出したことなのだから、何か気づいたことがあるのだろう。話を聞こうじゃないか」

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