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第三九〇話、稲妻師団、降下


 ロスネグロス島の揚陸地点ならびに基地施設を、日本海軍は艦砲射撃で粉砕した。


 角田艦隊、そして遠藤艦隊は、湾の内外にいた異世界帝国艦隊を撃滅させると、転移離脱によって、巨大海氷飛行場『日高見』のもとまで後退した。


 第一陣は壊滅させたが、敵は第二陣を、ロスネグロス島またはマヌス島に送り込みつつある。しかし、それが来るまで数日の余裕があるため、その間に物資、燃料の補給を済ませるのである。


 さて、ゼーアドラー湾夜戦と呼ばれる戦いが行われた頃、南東方面艦隊より出撃した稲妻師団が、それぞれの作戦ポイントに向かっていた。


 稲妻師団は、アヴラタワー――異世界人にとって生命線であるE素材でできた構造物を破壊して、その戦域内の敵を無力化させることに特化した部隊である。


 師団と名はついているが、実際のところはそれほど規模が大きいわけではない。陸軍はともかく、海軍の陸戦隊にそれほど余裕はないのだ。


 あくまで防諜上の呼称であり、敵に通信などが傍受された際に、規模を師団と誤認させる効果を期待されての呼称だ。


 その兵科も、分類するなら空挺部隊と言ったほうがいいだろう。遮蔽装置付き特殊輸送機『虚空(こくう)』に乗った陸戦隊が、敵地に隠密効果するのだ。


 これら稲妻師団は、ポートモレスビー、フィンシーハーウェンの大規模拠点の無力化に主力を送り込みつつ、グサップ、セーダー、ベナベナ、ガロカ、チリチリ、ナザブ、ラエ、ブナ、ドボデュラ、ラビといった送り狼作戦でタワーを破壊した飛行場の状況確認のための斥候部隊を派遣した。



  ・  ・  ・



「……これは、第十一航空艦隊の連中も相当暴れ回ったもんだ」


 稲妻師団、ベナベナ飛行場派遣部隊長の梨川中尉は、ジャングルの中の補給路上で破壊された異世界帝国車両の山を見やり呟いた。


 E素材ことアヴラタワーを失い、異世界人は、後方へ退避しようとしたのだろう。動力がある限り機能するE素材付き車両で、別のアヴラタワー圏内への退却を夢見たが、その道中を南東方面艦隊の陸上攻撃隊は見逃さなかった。


 一式陸攻隊は、地上車両を破壊し、彼らの足を奪った。たとえ個人の兵隊が延命装置を持っていたとしても、数日以内に全滅であろう。ニューギニアの過酷なジャングルで、餓死するが如く絶命するのだ。


「どうだ?」

「飛行場に敵の姿はありません」


 梨川の確認に、隊員は答えた。


「ゴーレムがありましたが、トカゲ兵もいません。周りがジャングルなんで、いそうではあるんですが」


 敵歩兵とその警備員はいない。防御障壁に守られたアヴラタワーが突破されると、異世界人は実に脆い。


「基地内はくまなく捜索しろ。どこかに予備のE素材があって、耐久している異世界人がいるかもしれない」


 普通に考えれば、予備とか用意しておくものだ。

 正直、タワーが破壊されたらそれでほぼ無力化させられるのだから、異世界人たちも対策くらいしていておかしくないはずだが。


「連中は俺たち地球人を舐めくさっているのかもしれんな」

「はい?」


 梨川隊長の呟きに、下士官の軍曹は首を捻った。


「独り言だ」


 行け、と隊長は告げると、自身も飛行場敷地内を歩く。夜の闇に包まれ、施設は綺麗に残っているのに、人の気配だけがない。

 明かりは点灯しておらず、死んだように沈黙している。


 普通、敵の基地を攻撃するとなれば、基地守備隊の即席陣地などで迎撃され、激しい銃撃戦が繰り広げられるものだ。


 場合によっては砲兵なども呼んで、有力施設や滑走路めがけて砲弾を叩き込んでいたかもしれない。


 だが現実は、元から異世界人などいなかったように、建物と設備だけが残っている。


「こういう楽な戦いができるといいんだが……」


 そもそも自分たちはここにきて一発も銃弾を発射していない。南東方面艦隊が、敵攻撃隊が飛行場に下りるタイミングで奇襲をかけて、アヴラタワーを破壊したしたために、彼ら稲妻師団戦闘員は、戦わずして敵地にいるのだ。


 虚空輸送機で施設から離れた場所に下りた後、敵の警戒を掻い潜って、アヴラタワーまで近づき、障壁内で爆弾なり砲弾などを叩き込む。

 陸軍でも使っている魔法式収納鞄を携帯し、いざという時は軽戦闘車両などを持ち込んで暴れ回るという運用も考えていた稲妻師団であるが、敵がいないのではその必要もない。


 降下、浸透してアヴラタワーを破壊するとなると、さすがに隠密行動とはいえ、犠牲者は出ていたかもしれない。


「隊長」


 随伴する通信兵が無線機を出した。


「発電所に向かった樋向軍曹からです。電源を落とすとのこと」

「ああ、やってくれ」


 念のため、施設の発電を止める。E素材が動くためにはエネルギー供給が必要であり、それを断てば、今だ施設のどこかに敵が隠れていても、やがて死を迎えるだろう。


「これで抵抗がなければ、完全に敵はいないことになる」

「いても、困りますが」


 通信兵が苦笑した。


「こっちは人数いないので」

「そうだな」


 梨川もつられて笑った。ポートモレスビー他、稼働している飛行場へ向かった主力はともかく、送り狼作戦でアヴラタワーを叩いた場所は、残敵がいないのかの確認のために送られた。その兵力は小隊規模でしかない。


 ざっと30人程度だ。これでもしまともな守備隊が残っていたら、遠巻きの偵察くらいが精々だろう。


 やがて、徹底した施設の捜索と、動力を落とされても出てこない敵に、飛行場は完全に無力化したと判定された。


 ベナベナ飛行場、無力化。そしてそれは稲妻師団が送られた各飛行場も同様だった。一部、生き残りが抵抗したが、それも少人数であり制圧された。



  ・  ・  ・



 主力が向かったポートモレスビー、フィンシーハーウェンにおける稲妻師団の隠密奇襲は成功した。


 虚空輸送機によって空輸された空挺隊は、これら施設に残っていたアヴラタワーに徒歩で接近。防御障壁を超えて近づき、敵の警備に気づかれる前に爆弾を仕掛けて爆破した。


 帰りも含めて、やはりというべきか一部で交戦はあったものの、全体で見れば死者3名、負傷10名程度の損害で、二つの飛行場と基地は沈黙。港内の輸送船や魚雷艇が海へと逃走、ミルン湾の基地へ移動したが、南東方面艦隊の一式陸上攻撃隊部隊がこれを叩き、壊滅させた。


 東部ニューギニアの異世界帝国拠点は、施設はあれど人員がいないために非稼働状態となり、人員の補充、再度E素材で環境を整えない限りは、戦力外となったのである。

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