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第三八八話、ゼーアドラー湾夜戦2


 異世界帝国軍のウメルス中将をして、軽巡洋艦と見た日本軍巡洋艦は、重巡洋艦だった。いや正しくは重巡3、軽巡1である。またも異世界帝国側は1隻、艦種誤認していたのだ。


 第十九戦隊の『九重』『那須』と第十七戦隊の『三隈』、そして第四水雷戦隊旗艦の『仁淀』である。


 米重巡洋艦『ヒューストン』『シカゴ』を改装したのが、九重型重巡洋艦『九重』『那須』である。


 55口径20.3センチ三連装砲三基九門は、魔技研技術の自動砲に改装された結果、1分間に8発の発射速度を獲得している。これは開戦前の日本海軍重巡洋艦の主力兵装だった20.3センチ砲2号砲の倍の投弾量に達する。


 そして最上型重巡洋艦『三隈』は、20.3センチ連装砲を主砲とするが、改装前より一基減った四基八門となっていた。しかしこちらも自動砲に換装した上の減少なので、火力自体は、むしろ上がっている。


 最後の『仁淀』だが、元イギリス重巡洋艦『エクセター』である。しかしこちらは軽巡主砲の15.5センチ三連装砲三基九門にサイズダウンし、水雷戦隊旗艦として『軽巡洋艦』という扱いになっている。日本海軍の青葉型に近い艦容となっているため、異世界帝国軍側で重巡洋艦扱いとなったのかもしれない。


 3隻の日本重巡洋艦と1隻の軽巡洋艦は、異世界帝国重巡洋艦に対して砲戦を続ける。手数の多さで、隻数をカバーするかのように。


 異世界帝国軍側の駆逐艦10隻が突撃を開始するが、そこで日本海軍のもう1隊が、砲門を開いた。


 第二十五戦隊『鳴瀬』『新田』『神流』『静間』が、主砲の15.2センチ連装自動砲による速射弾幕を展開し、敵駆逐艦を片っ端から狙い撃ちにし始めたのだ。


 オランダ、『デ・ロイテル』:「鳴瀬」、オーストラリア、『パース』:「新田」、イギリス『エメラルド』:「神流」、『エンタープライズ』:「静間」の四隻は、全長170メートル前後で大きさが近く、改装によって15.2センチ連装砲四基八門に合わせられ、同一戦隊を編成している。もっとも蘭豪軽巡洋艦のほうが若干軽量ではあるが。


 1分間12発の軽巡砲の猛撃に、異世界帝国軍駆逐艦は次々に被弾、大破し、船足が止まっていく。


 異世界帝国側の突撃を阻止する形になったところで、ようやく第82戦闘部隊のウメルス中将の部隊が、日本艦隊を捕捉した。


 巡洋艦の砲戦を頼りに、主砲の34.3センチ連装砲が、北上してくる重巡洋艦隊に狙いを定める。


 と、その時だった。


『レーダーに反応! 敵重巡戦隊の前に、岩礁出現!』


 旗艦『ギュプソス』のウメルス中将は目を剥いた。


「はっ? 岩礁だと?」


 近くに小島もあるから、岩礁もあるかもしれない。小さいから近くでなければ見つけられなかったか。


『い、いえ、レーダー室より訂正。岩礁ではありません! これはフネ……!? 戦艦と思わしき物体、その数4!』

「見張り員! 目視確認急げ!」


 この闇の中、肉眼で果たして観測できるのか。ウメルスは猛烈に嫌な予感がした。戦艦級、それが4つ――確認できていない日本戦艦4隻ではないか。



  ・  ・  ・



 ウメルス中将の予想は当たっていた。


 潜水行動で、第十九戦隊の重巡の前をずっと潜って進んでいた戦艦『摂津』『河内』、大型巡洋艦『戸隠』『五竜』が浮上したのだ。


「目標、敵戦艦。測距でき次第、撃ち方始め」


 第八艦隊司令長官、遠藤 喜一中将はいつものように淡々と命じた。


 英クイーン・エリザベス級戦艦を回収、大改装して復活させたのが新・摂津型戦艦である。


 基準排水量3万6500トン。全長195メートルから218メートルに延長。主砲は41センチ砲に換装、それに合わせて船体強度も向上している。機関をマ式に変更され、出力16万馬力、29.3ノットの速力を発揮する。


 一番艦『摂津』、二番艦『河内』。その後ろを『戸隠』『五竜』が続く。こちらは30.5センチ三連装砲を、敵戦艦三番艦に向ける。


 敵はヴラフォス級戦艦。主砲は34.3センチ砲であり、摂津型では余裕だが、戸隠型は攻撃力で劣勢だ。

 しかしそれは通常の安全距離内を考慮しての砲戦の場合の話。すでにその安全装甲距離内に踏み込んだ近接戦。先手必勝のインレンジだ。


 日本重巡に狙いをつけていたヴラフォス級戦艦は、新たに現れた戦艦、大巡に一歩も二歩も出遅れた。


 闇夜を貫く重砲音が轟いた。41センチ砲弾というハンマーが、重々しくヴラフォス級の垂直装甲305ミリを容易く貫いた。


 摂津型の41センチ砲は、近代化改装後の長門型主砲の改良型。砲撃での射程や威力では同等であり、2万メートルの時点で454ミリの垂直装甲を貫通する。


 艦上で爆発が起こり、命中を確認した戦艦『摂津』では、乗員たちが歓声を上げた。しかし遠藤は表情を変えず言った。


「まだ敵艦は沈んでいない。迅速かつ、的確に、砲撃を続行せよ」


 口には出さないが、当たり所がよくないと装甲を貫通しても沈まないものだ、と自嘲したくなった。


 当たった瞬間、そのまま弾薬庫なりを誘爆させて轟沈してくれたら、と期待していた遠藤である。


 なにぶん4対3とはいえ、後ろの大型巡洋艦2隻の主砲は、敵装甲の前には難儀するだろうから、早々に『摂津』『河内』で数を減らしておきたかったのだ。


 敵戦艦は変針して、日本戦艦に対して同航戦の構えを取る。敵もやる気だ。近距離砲戦である。対41センチ砲装甲の摂津型といえど、当たり所によっては危ない距離だ。


 もっとも――


「艦長、防御障壁を使用。砲撃時の切り替えを行い、被弾の低下に努めよ」

「了解です」


 摂津型は、昨年のセイロン島攻略作戦直前に撃沈、回収された英戦艦を素材としている。その後の、九頭島海戦で撃沈した航空戦艦『プロトボロス』が使用していた新式防御障壁を解析、量産したものを、摂津型は載せて就役している。


 新式をさらに改良したこの型は、防御範囲を限定しつつ、主砲発射の影響範囲の障壁だけを解除できる。


 つまり、ある程度障壁を展開したまま砲撃ができることを意味しているのだ。もちろん、砲撃のタイミングで隙間を抜けてきたものは防げないが……。


 しかし、効果は絶大だった。日本側の砲撃は、次々と敵戦艦に突き刺さる一方、その敵の34.3センチ砲弾は障壁に阻まれる。


「敵、二番艦、爆沈!」


 報告を受けるまでもなく、深夜に突如火山が噴火したような火柱が上がった。二番艦の『河内』が敵戦艦の弾薬庫を吹き飛ばしたようだ。


 こちらの装甲はズバズバ抜けているはずだから、当たりを引くのを待つだけなのである。


「敵一番艦、速度低下しつつあり!」


 さすがに41センチ砲弾によって艦体へのダメージも大きいのだろう。大爆発が起こらないだけで、艦上構造物はもちろん、甲板より下も被害が拡大していたに違いない。


「敵巡洋艦ならびに駆逐艦が、右舷より追い上げつつあり!」


 敵戦艦部隊の護衛についていた小型艦が、突撃を敢行してきたのだ。


 こちらは護衛艦はなしだ――遠藤が視線を鋭くさせた時、向かってくる敵巡洋艦――メテオーラ級軽巡に、側面から対艦誘導弾が突き刺さった。


『第十九戦隊より、誘導弾による援護!』


 敵重巡洋艦戦隊と殴り合っていた『九重』『那須』が、四連装対艦誘導弾を使用したのだ。米重巡洋艦『ヒューストン』『シカゴ』を改装したこの重巡洋艦は魚雷を装備していない代わりに、対艦誘導弾発射管で武装している。戦艦戦隊の護衛艦がいないので、援護射撃をしたのだ。


「巡洋艦部隊はどうなっているかな」


 援護ができるということは、ある程度優勢に進めているのでは、と遠藤は思った。


 その想像は当たり、この時点で、異世界帝国軍の巡洋艦は、重巡2隻が大破、沈没。残る2隻と砲戦は継続しているが、駆逐艦が第二十五戦隊の『鳴瀬』以下軽巡4隻の猛撃で撃退されていたのだった。


 そして四水戦の第四、第十八駆逐隊が、『摂津』以下、戦艦戦隊に迫る敵駆逐艦へ突撃を開始した。


 戦況は第八艦隊、優勢である。

・摂津型戦艦:『摂津』

基準排水量:3万6500トン

全長:218メートル

全幅:31.7メートル

出力:マ式機関16万馬力

速力:29.3ノット

兵装:45口径41センチ連装砲×4  三連装イ型光線砲×2 

   40口径12.7センチ連装高角砲×8  40ミリ光弾砲×16 

   20ミリ連装機銃×12  八連装対艦誘導弾発射管(煙突)×1

   誘導機雷×20 対潜短魚雷投下機×2

航空兵装:カタパルト×1 水上偵察機×1

姉妹艦:『河内』(レゾリューション)

その他:イギリス海軍のクイーン・エリザベス級戦艦『ウォースパイト』をサルベージし、改修したもの。潜水機能を持たせ、武装を含めて性能はリヴェンジ級改装の近江型に似たものとなっている。標的艦として使われていた『摂津』から名前を受け継いだ。

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