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復活の艦隊 異世界大戦1942  作者: 柊遊馬


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第三七九話、猛将の帰還


 連合艦隊司令部が懸念していた通り、ムンドゥス帝国太平洋艦隊司令長官、ヴォルク・テシス大将は生きていた。


 彼は、第三次ハワイ沖海戦で、旗艦『アルパガス』が撃沈される寸前、その魔核と共に司令部ごと短距離転移で脱出した。


 ハワイ近海に大量に散布していた海氷群の一つを脱出地点としていたテシス大将は、艦載機を失い、退避する遮蔽装置搭載のプネヴマ部隊に拾われ、南へ。


 そのまま友軍テリトリーに辿り着き、帝国橋頭堡にして本拠地ティポタに戻った。しばしの休養の後、テシス大将は、地球征服軍長官であるサタナス元帥と面会したが、元帥閣下は皮肉っぽく言った。


「よくぞ、生きて帰ったテシス大将。悪運の強い男だ」

「『アルパガス』は試験艦でしたから」


 しれっと、テシスは答える。


「遮蔽技術とルクス三連砲の実戦データは、今後のため必ず持ち帰れるよう設計者が、転移装置を組み込んでいただけのこと。私はそのついでですよ」


 航空戦艦『プロトボロス』の際は、そういう機密回収用の保険がなかった。技術部門もその件を気にしており、『アルパガス』には魔核ごと転移脱出装置を組み込んでいたのだった。

 貴重な実戦データを修得できないのは、試験艦という立場もあって、戻ってこないのが一番困るのである。


「それが悪運の強さだと言うのだ、大将」

「まだ私の階級は大将でしたか?」


 テシスは表情一つ変えずに問うた。


「太平洋艦隊は壊滅しました。同艦隊司令長官の肩書きも消えて、中将、あるいは少将辺りに降格されたかと思いましたが」


「まだ太平洋艦隊は記録上、残っていて、まだその人事は更新も変更もされていない」


 サタナスは、とぼけた調子で告げる。


「つまり、君はまだ太平洋艦隊司令長官ということだよ、テシス大将」


 とはいっても、太平洋艦隊は壊滅し、司令長官という肩書きも、ほとんど名ばかりではあるが。


「君の生存は、皇帝陛下もお喜びだった。こんな地球などという辺境世界で、死なすには惜しい男だよ、君は」

「恐縮です。ですが、私は任務を果たせませんでした。処分は如何ようにも」

「ふん。皇帝陛下からの君への命令を伝える。日米軍に勝って雪辱を果たせ。……皇帝陛下は投入戦力について大盤振る舞いだ。君にも皇帝親衛隊の使用許可が出ている」


 テシスにとっては、皇帝親衛隊は古巣である。


「なるほど。陛下の命令でなければ本国から動くことがない親衛隊を、異世界に投じるとは、本気ですな」

「まあ、皇帝陛下自身が来られるわけではないから、どこまで本気と受け取っていいかわからんがな」


 サタナスは目を細くする。あの皇帝が本気と言えば、問答無用で戦地へとやってくる。まだ本国にいるとなれば、別件で忙しいのでなければ、彼が出陣するほどではないと考えているのかもしれない。


「まあ、そういうわけだから、征服軍長官の私でも皇帝親衛隊に命令はできん。今後は君の好きなようにやってくれ。……できれば、こちらと歩調を合わせてくれると、地球侵攻もやりやすくなるのだがね」

「はい。相談させていただきますよ、元帥閣下」


 かくて、ヴォルク・テシスは、皇帝親衛隊に復帰した。



  ・  ・  ・



 それから時間は進む。


 リーリース・テロス大将が率いるムンドゥス帝国大西洋艦隊が、インド洋に進出し、セイロン島を攻撃する。


 当然、日本海軍が出てくると考えたヴォルク・テシスは、皇帝親衛隊『紫星』艦隊の艦艇を動かし、南からインド洋に侵入した。


 そこで日本軍を観察する。テシスと戦い、打ち破った地球の軍隊。その兵器、戦術を見るのだ。……仮に、大西洋艦隊が勝つようなら、その程度の敵だったというだけである。


 結果は、転移で移動してきた日本海軍の主力艦隊が、大西洋艦隊の機先を制して続け圧倒した。


 日本軍の完勝であった。


 ムンドゥス帝国軍人としては、大西洋艦隊の壊滅は嘆くべきことだ。歴戦の将兵が失われたことは残念極まる。

 特にその力を発揮することなく、機体の着水を強いられたパイロットたちの大半が死亡したのはその極致と言える。


 転移によって逃げられ、攻撃目標を見失った攻撃隊は、母艦を日本軍によって軒並み沈められたことで、着艦収容がほぼ不能となっていた。


 そこで損傷護衛艦を、主力から分離し、パイロットたちの収容に当たったが、日本軍はこれら残存戦力を見逃さなかった。


 しかし日本軍は、海上に下りた無防備なパイロットを銃撃することはしなかった。ただ回収しようとしていた駆逐艦や巡洋艦を撃沈しただけだ。


 だがムンドゥス人にとって地球の環境は、宇宙空間に生身で放り出されるに等しい。たとえパイロットを撃たずとも、収容できなければ機体と心中するしかなかった。


 そんな中、司令部付き戦闘団の精鋭、第101戦闘隊を遮蔽装置搭載の空母『プネヴマⅡ』に収容できたのは、不幸中の幸いだった。


 戦況調査のため現地に潜伏していなければ、この邂逅(かいこう)はなかった。大西洋艦隊のトップエースであるエレミア・アグノス少佐以下、エリートパイロットたちはインドへの退避中だったが、大陸に辿り着けたか怪しいところであった。


 元よりエレミア少佐の腕前については目をつけていたこともあり、親衛隊に引き入れた。彼女とその精鋭戦闘機中隊は、使い道には困らない。テシスとしても、強力な駒を手に入れた。


 ともあれ、アラビア海での両軍の激突、その様子をテシスは近くから観察し、日本海軍の戦いぶりを知ることができた。


 そして確信する。

 ハワイで戦った時より戦術が洗練されており、次に戦う時、今よりさらに強くなっているに違いない、と。


 これで日本は、東洋艦隊、太平洋艦隊、大西洋艦隊の三つに勝利を収めたということになる。


 皇帝陛下が、大戦力を地球に派遣することを決め、地球征服軍の海上戦力は増強された。防衛艦隊である南海艦隊が増員されるのか、新たに三大艦隊を再建するのかは、サタナス長官の決めることではあるが、配備が進むまでは、地球人たちが海上を好き勝手するだろう。


 それまでは大西洋艦隊の残存戦力が、地中海なり大西洋で奮戦することになるだろうが、太平洋とインド洋北は日本海軍の庭になるだろうし、当の大西洋もアメリカ海軍が進出してくるだろうことは想像に難くない。


 その中で、紫星艦隊で何が出来るか。独立戦闘艦隊であるテシスの腕の見せ所である。


 もっとも、皇帝親衛隊自体はまだ先遣隊程度の戦力しか送られていないので、大きな作戦活動は取れない。しばらくは新兵器の試験や新戦術の検討、地球勢力への威力偵察を含めた観察が主になるだろう。


 ムンドゥス帝国の猛将は、機会を窺い、静かにその牙を研いでいる。

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