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第三七七話、我ら回収屋


 海戦が起きれば、大抵船が沈むものだ。特に制海権を獲得するため、敵国海軍を叩こうと決戦を企図すれば、まず沈没艦が出る。


 アラビア海における、日本海軍と異世界帝国大西洋艦隊の決戦では、異世界帝国側に多数の沈没艦が出た。


 その戦闘海域に、密かに忍び寄る者たちがいる。沈没艦をサルベージする日本海軍の回収専門艦隊だ。


「フネが沈みゃ、フネを拾う者ありってな」


 月山 幾三大佐は、大鯨型潜水回収母艦『大鯨』の艦長である。


 大鯨型は、先代――空母に改装された『龍鳳』――潜水母艦『大鯨』の名を受け継いだものの、まったく異なる艦である。


 異世界帝国の3万5000トン戦艦のヴラフォス級を母体に改造した艦であり、作りで言うなら早池峰型大型巡洋艦に近い。


 ただし、こちらは沈没艦を回収する部隊の旗艦を務めるべく改装されたので、より潜水艦としての機能が強化されている。


 全長230メートル、艦幅36メートルという堂々たる戦艦体型。しかし艦橋や艦上構造物は巡洋艦程度にコンパクト化され、機関もマ式に換装。物資、燃料搭載力が高く、回収装備の他、部隊の潜水艦への補給も可能だ。


 武装では34.3センチ砲は全部撤去され、代わりに高角砲と光弾砲を搭載。補給艦として機能している際の防空能力、そして潜水時の敵潜水艦迎撃用の対潜短魚雷を装備している。


 現在、『大鯨』を旗艦とする第一回収隊を中心に、第二、第三回収隊が、アラビア海の戦闘跡を捜索し、沈没艦の回収活動を行っていた。



●第一回収隊


 潜水回収母艦:「大鯨」

 潜回型(丁型)潜水艦:「伊361」「伊362」

 第六十六潜水隊:呂554、呂555、呂556、呂557、呂558、呂559


○第二回収隊


 潜回型(丁型)潜水艦:「伊363」「伊364」

 第六十七潜水隊:呂560、呂561、呂562、呂563、呂564、呂565


○第三回収隊


 潜回型(丁型)潜水艦:「伊365」「伊366」

 第六十八潜水隊:呂566、呂567、呂568、呂569、呂570、呂571



 かつてはマ号潜水艦が行っていた回収作業。開戦後、軍令部は、魔技研技術が海軍に普及する中、回収専門部隊を新設した。


 その本音は、高性能のマ号潜部隊を第一線任務に活用するため。しかし沈没艦サルベージも重要な任務故、回収作業に用いるための新型潜水艦を計画、建造したのだ。


 ベースとなったのは、輸送専門潜水艦構想。ドイツの潜水商船『ドイッチュラント』を参考にしたそれは、開戦前は一度は忘れられていたが、回収潜水艦の新造にあたり、輸送潜水艦としても活用できないか、と軍令部が提案し、改⑤計画に組み込まれた。


 潜輸大型、丁型、そして潜回型とも呼ばれる伊361型潜水艦が建造され、魔技研潜水艦の重力バラストにより構造が大幅に簡略化、ある程度の自動化も進められたこともあり、43年末までに8隻が就役した。


 そしてこれら回収型潜水艦部隊は、順次投入され、マーシャル諸島攻略、ハワイ作戦直後でも多数の沈没艦を回収した。


「そして、今回も大漁だぁな」


 月山艦長は、ほくそ笑むのである。


 異世界帝国大西洋艦隊の撃滅。聞いた話では、連合艦隊は大勝利。味方艦は損傷、大破した艦はあれど、転移離脱により沈没艦なしらしいが、対して敵はほぼ壊滅するほど徹底的に沈めたらしい。


「艦長、その大本営の発表、信用できますかね? あまりに都合がいいというか、過大戦果じゃありませんか?」


 谷邊航海長が言えば、月山はニヤリとした。


「勝ってる時の発表ってのは信じていいぞ。むしろ戦果を過小に発表しているのを疑ってもいい」


 そもそも、勝ってる時は機密に関わらなければ、そのまま流すものだ。嘘や過大戦果、過小損害を報告するのは、負けが込んでいる時なのだ。


 大陸での戦争の時、新聞社が過大な戦果発表をやらかし、陸軍が新聞社に注意を飛ばしたなんて話もある。やってもいないことを誇大に書くな、と。そういう情報の一人歩きを嫌って、軍が報道に口を出すようになったのは皮肉ではあるが。


「少なくとも、ワシントンの発表よりは信じていい」


 月山が冗談めかせば、艦橋要員たちが苦笑した。敗戦続きだった頃の米国の発表は、それはそれは酷い嘘、戦果誇張をやりまくっていた。


「まあ、オレたち回収屋は、沈んだフネを拾うのが仕事だ。戦果についてオレたちにだけは嘘は言わないさ」


 沈んだ味方艦は、必ず本土へ連れ帰る。沈んだ敵艦も、海軍の戦力に取り込む。そのため、大体の沈没場所は知らされるのだ。回収部隊に、嘘をついては仕事にならないのである。


「しかし、戦場が広い」


 初日の夜戦から、翌日の戦闘で、それなりに移動しているため、まとめて沈んでいる場所もあれば、艦隊からの脱落などで、1隻だけポツンと沈んでいる場合もある。さらに回収できる艦の数も多い。


 だから、動ける三つの回収隊全てが投入されているのだ。


「戦艦、空母、重巡軽巡どれも30隻以上ですよね。そんなに回収しても、連合艦隊じゃ使い切れませんよ」


 航海長が言えば、月山は真面目な顔になる。


「敵に回収されないってだけでも、やる価値はあるのさ」


 実際、敵の回収部隊かはわからないが、こちらの回収作業中に敵潜水艦が接近する事態がしばしば発生している。


 だから各回収隊には、インド洋で沈めまくり鹵獲、自動化改修した呂号潜水艦からなる潜水隊が、索敵と護衛のために組み込まれている。


「艦長、呂559より魔力通信。識別にない潜水艦の接近を確認。敵と認証、攻撃す」

「噂をすれば影がさす、ってな。敵さんの回収部隊か」

「意外と早いですな」

「そりゃ、オレたちがいつもさっさと回収しちまうから、敵さんもその前に回収しちまおうって判断なんだろうさ」


 こちらの潜水艦は誘導魚雷を装備しているから、海中でも敵の潜水艦を捕捉して攻撃ができる。敵に同様の兵器がなければ、こちらの一方的な戦い方ができるが……。


 歴戦の月山からすると、毎度遭遇する度に緊張するのである。敵に潜水艦用誘導魚雷が装備されたら……と。


 これまでは大丈夫だった。しかし、だから今回も大丈夫という保証はないのである。


 その時、通信兵が振り返った。


「艦長、第二回収隊、呂562が被弾信号を出しました!」

「!」


 艦橋要員たちの間に、緊張が走る。とうとう、敵が誘導魚雷を使ってきたのだ。海中目標への攻撃が可能となれば、これまでのようにはいかない。


「艦長から、総員。誘導魚雷搭載型の敵潜水艦との遭遇を警戒。護衛部隊が警戒しているが、回収作業は迅速に進めよ」


 そして月山は、伝令を呼ぶ。


「司令を起こしてくれ。面倒なことになるかもしれん」


 緊張感が高まる。各潜水隊は任務を遂行。その後、警戒通り、異世界帝国の潜水艦と八度の接触があり、うち5隻を撃沈。

 回収隊は、任務を完了し、アラビア海から撤収した。

・大鯨型潜水回収母艦『大鯨』

基準排水量:2万5100トン

全長:230メートル

全幅:31.2メートル

出力:マ式12万馬力

速力:30ノット

兵装:40口径12.7センチ連装高角砲×10 8センチ光弾対空砲×12

   四連装対艦誘導弾発射管×2 53センチ三連装魚雷発射管×4

   対潜短魚雷発射機×2  誘導機雷×20

航空兵装:カタパルト×2 艦載機×12 艦載艇×12

姉妹艦:(二番艦以降、建造中)

その他:異世界帝国のヴラフォス級戦艦の艦体をベースに、日本海軍が改造した沈没艦回収母艦。他の潜水艦への補給が可能な潜水母艦としても運用できるが、自艦も潜水機能を持ち、魔技研開発の異空間収納庫と同回収装備により、沈没艦艇を回収する能力を有する。武装は、戦艦時代の主砲は撤去されたが高角砲を複数搭載し、対空能力が強化されている。

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