第三四六話、第二機動艦隊と、次の攻撃目標
二つ目の機動艦隊、ではなく、日本海軍の第二機動艦隊は、奇襲攻撃色が強められた。
潜水型航空母艦を中心に、護衛艦全てが潜水型水上艦艇となっているのだ。その編成は以下の通り。
○第二機動艦隊:司令長官、角田覚治中将
第二戦隊(戦艦):「大和」「武蔵」「美濃」「和泉」
第八戦隊(戦艦):「常陸」「磐城」「近江」「駿河」
第七航空戦隊(空母):「大龍」「海龍」「剣龍」「瑞龍」
第八航空戦隊(空母):「加賀」「応龍」「蛟竜」「神龍」
第二十七戦隊(特殊巡洋艦):「球磨」「多摩」「阿武隈」
第二十九戦隊(特殊巡洋艦):「北上」「大井」「木曽」
付属:軽巡洋艦:「矢矧」
第七水雷戦隊:(軽巡洋艦)「水無瀬」「鹿島」
第七十一駆逐隊:「氷雨」「早雨」「白雨」「霧雨」
第七十二駆逐隊:「海霧」「山霧」「谷霧」「大霧」
第七十三駆逐隊:「黒潮」「早潮」「漣」「朧」
第七十四駆逐隊:「山雲」「巻雲」「霰」「夕暮」
第八水雷戦隊:「川内」「神通」
第七十六駆逐隊:「吹雪」「白雪」「初雪」
第七十七駆逐隊:「磯波」「浦波」「敷波」「綾波」
第七十八駆逐隊:「天霧」「朝霧」「夕霧」「狭霧」
第七十九駆逐隊:「初春」「子日」「春雨」「涼風」
第十七潜水戦隊:補給・潜水母艦3:『ばーじにあ丸』『あいおわ丸』『迅鯨』
・第七十潜水隊 :伊600(特マ潜水艦)、伊611、伊612
・第七十一潜水隊:伊607、伊608、伊613
・第七十二潜水隊:伊609、伊610、伊614
第一機動艦隊を外れた第二戦隊が、第二機動艦隊に配備された。
浮上時の空母部隊の護衛の他、前方に進出しての浮上襲撃、悪天候による艦載機運用困難時の打撃戦力としての活躍が見込まれる。
また航空戦艦『プロトボロス』との砲撃戦で大破、撃沈された常陸型、近江型戦艦が、潜水型水上戦艦として大改修、復活を遂げて第二機動艦隊の配属となった。
マ式機関に換装し、潜水可能な艦として改修された『常陸』『磐城』『近江』『駿河』は、主砲を38センチ砲から41センチ連装砲に換えて、改長門型並みの攻撃力を獲得した。
そして肝心の空母であるが、七航戦、八航戦の潜水型航空母艦6隻に加えて、マーシャル諸島攻略戦で撃沈された『大龍』『加賀』を潜水型航空母艦へと改装の上、第二機動艦隊に配備した。
『大龍』は、元レキシントン級大型空母であり、大鳳に似た外観を手に入れていたが、甲板の装甲なども大鳳型に準じたものへと改装され、改大鳳型と呼んでもよさそうな性能を得た。
歴戦の空母『加賀』も、今回の復活で、潜水型航空母艦に改装された。機関の換装で30ノットほどに速力がアップ。格納庫の形も大きく見直された。
なお、『大龍』と『加賀』は、魔力展開式斜め飛行甲板を装備。これは魔力によって斜め方向に飛行甲板を展開させることができる代物で、いわゆる水上機の魔力式フロート同様、必要な時のみ展開する。
もっとも、潜水型航空母艦の運用上、アングルドデッキは活用する自体があるのかは疑問ではあるが、ないよりマシ。装備試験という題目で取り付けられた。
ともあれ、この2隻は、日本海軍初のアングルドデッキ型空母となった。
そしてこれら空母部隊の護衛部隊は、第七、第八水雷戦隊。潜水艦としての行動はもちろん、潜水水雷戦術による奇襲攻撃を敵艦隊に仕掛ける。
さらに多数の誘導弾を装備する特殊巡洋艦『球磨』『多摩』『北上』『大井』『木曽』『阿武隈』が編成されたが、これは遠距離からの誘導弾攻撃で、対地攻撃任務を担う。……つまり、次に投入される作戦を見据えての配置とも言える。
艦隊編成上、単艦なのが、阿賀野型軽巡洋艦改『矢矧』である。
これは阿賀野型の三番艦として建造されたが、海軍は、魔技研技術を建造中の艦にも投入した。その中で、幾度も改設計を加えられたのが、この『矢矧』であり、姉妹艦である『阿賀野』『能代』とも、だいぶ異なる性質の艦に建造された。
基準排水量6651トン、全長174メートル、全幅15.2メートル。マ式機関12万馬力、最大速力38ノットと阿賀野型より出力アップと速力アップを果たす。
武装は15.2センチ連装光弾砲三基六門。8センチ光弾砲四門、61センチ四連装誘導魚雷発射管、六連装誘導弾発射管を備える。
水上機は、無人誘導小型偵察機を搭載。高速の偵察巡洋艦として活用ができるが、最大の特徴は、浦賀型と同じ転移中継装置を装備していることである。装置を作動させれば、転移連絡網の転移地点として、他の艦艇の導けるのである。
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「次の攻撃目標は、ニューギニアになると思う」
山本五十六大将は、連合艦隊旗艦『敷島』の長官公室で告げた。向かい合うのは、第二機動艦隊の司令長官の角田覚治中将と、同機動艦隊航空部隊司令官である山口多聞中将である。
「ハワイから一月も経っていないんだけどね。まあ、誰が言うでもなく、次に海軍が攻めるなら、そこだよねという雰囲気はある」
機密だ、諜報だ、などと言うまでもなく、誰もが噂をしている。
「現在、各部隊、練成の途上で、すぐにどうこうというわけではないが、噂だけ広がって宙ぶらりんだと、君たちもやりづらいだろうと思って、先に知らせておく」
「はい」
山口は頷いた。山本が合図すると、中島情報参謀が、角田と山口に資料を渡した。山本も自分用の資料を同じように開く。
「まだ仮案でね。この通りに行くとも限らない。刻々と変わる状況、敵の増援や配置によっては、投入戦力は増えたり減ったりするかもしれない」
基本は、稲妻師団による、パプアニューギニアのアヴラタワーならびにE素材構造物を破壊作戦。
角田が資料に目を通して、顔を上げる。
「我々は後詰め、ということですか」
「まあ、仕上げとか、保険とも言う。第二機動艦隊には、南東方面艦隊共々、稲妻師団を支援し、その作戦のための足となる。何もかも上手くいけば、君たちは警戒以外にやることはなくなるだろうけど」
山本の目が真剣みを帯びた。
「世の中、早々都合よく行くとは限らない。奇襲が駄目なら強襲するしかなくなる。そうなった時、君たち第二機動艦隊は、敵さんに砲弾や爆弾を敵にたらふく食わせてやるというわけだ」
そこで山本は表情を緩めた。
「我々、連合艦隊はともかく、海軍省や軍令部としては、弾薬の在庫が厳しいから、しばらく動かないでほしい、と思っているだろうけどね」
燃料はある。アメリカからレンドリースで入ってくる共通の武装はいい。しかし誘導弾など、そちらの方は、残念ながら日本独自に生産するしかない。
「必要ならば、やるだけです」
角田はきっぱりと言った。山口も同意の頷きを返した。それにしても、と山本は思う。――よくもまあ、こんな攻撃的な布陣になったものだ。