表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
343/1116

第三四三話、電撃師団(稲妻師団)とは何なのか?


 九頭島軍人街にある食事処『矢又』。その奥の座敷席に神明と富岡はいた。さらに向かいの席に、もう一人。


「出世したんだな、杉山。おめでとうと言っておく」

「ありがとう。しかし、もちっと感情込めて祝ってくれない?」


 陸軍技術少将、杉山達人は、皮肉げに口元を歪めた。陸軍魔研のボスが、わざわざ九頭島に出向いたので、そのついでに呼んだ神明である。


「そういえば、私と富岡も昨年十一月に昇級したんだがな。貴様から祝いの言葉を賜っていないな」

「……はいはい。おめでとう、神明ちゃん。――ご昇級おめでとうございます、富岡少将閣下」

「あ、うん……どうも」


 今回、杉山と初対面である富岡は面食らう。そして自分をこの場に誘った同期を睨んだ。今後の展望について忌憚なく話し合うつもりだったのに、何故、この場に陸軍の将軍がいるのか。

 神明は構わず、鍋をつつきながら杉山に言った。


「早速で悪いんだがな杉山。電撃師団の話をしてくれ」

「おう。海軍でもパクリ師団を作るんだって? 稲光とか、電光だったかな?」


 杉山のパクリ発言に、富岡は表情に不快感をにじませる。窃盗や金銭恐喝のことを指す表現だから、陸軍お得意の海軍への当たりだと感じたのだ。しかし、神明は平然と言った。


「稲妻師団だ」

「そうそれ。……話すのはいいけど、富岡少将閣下を前にする話題としてはどうなんだい、神明ちゃん」

「富岡は、南東方面艦隊の参謀長だ。がっちり、稲妻師団と関わりがある」

「なーるほど。では不詳、杉山達人、話させていただきます」


 少々芝居がかりながら頭を下げた後、杉山は話し始めた。


「海軍さんでは、どこまで知っているか知らないけど、陸軍は今、大陸決戦の戦力を注ぎ込んでいる。海軍さんがアメリカさんと上手くやってくれたおかげで、レンドリースの兵器や物資の補充もあって、何とか渡り合っている状況」

「……」

「インド洋の制海権がこちらにあるおかげで、敵さんはわざわざヨーロッパから、極東にまで陸路で物資を運んでいる。いい加減、補給線はノビノビだ。そこで、陸軍は考えた。インド方面から北上し、中国、ソ連ルートで極東に向かっている敵を孤立させてやろうってね」

「長い前置き」

「悪いね。お喋りが好きなんだ」


 杉山は、まったく悪びれなかった。


「で、より孤立する敵を増やそうと、中国方面の部隊は、わざと戦線を下げた。……いやわざとというか、ソ連側から敵の増援があって、ヘタに踏みとどまると逆包囲される恐れがあったからだ」

「ちょうどいいタイミングだった」

「そういうこと。……おっ、悪いね」


 杉山は、神明に酒を注がれて、一杯。


「で、ここで出てくるのは、対異世界帝国侵攻軍撃退用に編成された独立戦闘師団――」

「電撃師団」

「……そう、電撃師団。異世界人が用いる構造体X……海軍では何と呼んでいたかな?」

「E素材」

「そう、そのE素材でできた構造物を破壊し、敵を無力化させることに特化した戦術と装備を考案した」

「……」


 富岡が少し困った顔をしている。それに気づき、杉山ははたとなる。


「……分かり難かったですかね?」

「貴様が話を脱線させまくるからだ」


 神明は容赦なかった。


「そもそも前提が抜けているのだ。異世界人がE素材の構造物なしではこの星で生けていけないことは、今や陸海軍の将兵全員が知っている。ならば、その弱点を攻撃すればいい。……そこまではいい。では何故、電撃師団が必要なのか?」


 普通に攻撃して破壊できるなら、そんな仰々しい独立戦闘師団を作る必要はないのだ。


「敵も弱点を、きっちり守っているからだよ」


 杉山は神妙な調子で言った。


「防御障壁で、敵さんは弱点を守りだした。だからこちらが弱点だけ狙っても、攻撃が通らないということだな。大陸決戦が今もまだ続いているのも、それが原因。本当なら、もうとっくにこっちの大勝利で終わっていたはずだったんだ」


 陸軍は、E素材(陸軍公称『構造体X』)を破壊すれば、大陸決戦が有利に運び、敵をヨーロッパまで押し返すつもりだった。


 だが、戦いは一進一退。海軍がハワイ作戦で、アヴラタワーを破壊したのを難儀したように、陸軍もまた敵弱点をついた戦いを仕掛けたが、上手くいっていない。


 戦局が互角なのは、日本軍はアメリカの支援を受けられたが、異世界帝国は、戦線が伸びきった影響で、補給が遅れているせいだった。如何に優秀な異世界兵器も部品やエネルギー、物資が足りなければ動けない。


「そこで、防御障壁に守られた敵の弱点を破壊し、その戦域全体の敵を無力化させることに特化した部隊を編成した。それが電撃師団」


 そもそもドイツでは電撃戦が――などと杉山が語り出したので、神明はそれを無視して富岡に説明する。


「陸軍は、海軍が言うところのアヴラタワーだけを破壊する戦術・兵器を用いて、敵を無力化させる戦法を使うことにした。敵戦線の後方にあるアヴラタワーを一斉に破壊。するとどうなるか……」

「異世界人は死滅する。ゴーレムとかトカゲ人間は残るんだったか……?」

「残念ながら、陸軍ではタワーの他に戦車などにもE素材が積まれているので、割としぶとく異世界人は残っている。だが、戦域をカバーしていたアヴラタワーがなくなれば、遅かれ早かれ、異世界人は死ぬ」

「戦車の中は大丈夫と言わなかったか?」

「燃料が切れれば、E素材も効力を失うから、放置すればいずれ死ぬよ。陸軍は、中国に敵を引きつけている間、その後方にあるアヴラタワーを全部破壊して、戦域にいる異世界人に死刑宣告をするわけだ。あと数時間ないし半日で、お前たちは全滅する、と。後方のアヴラタワーを全部失えば、戦車が幾ら逃げようと、安全地帯にたどり着けない……。結果、全滅だ。異世界人がいなければ、ゴーレムもトカゲも雑魚だ」

「ほう……」

「海軍の稲妻師団がやろうとしていることもこれだ。ただ海軍は、兵がいないから、敵がいなくなってからも放置するが、陸軍は無人となった敵勢力圏に進撃し、これを制圧する」

「なるほど。……理解した」


 富岡は頷いた。対して杉山は落ち込む。


「僕、いた意味あるかなぁ……」

「安心しろ。技術屋。電撃師団が、如何に防御障壁を抜ける兵器を用いるか、語らせてやる。……得意だろう?」

「意地が悪いなあ、神明ちゃんは」

「それはお互い様だ」


 古い付き合いであるから軽口じみたやり取りとなる。富岡は顎に手を当てる。


「ハワイ作戦でも敵の防御障壁には手を焼いたと聞く。それを破れる新兵器には興味がある」

「新兵器……うーん、まあ新兵器ですかね……」


 杉山は少し躊躇うような顔になる。


「違うんですか? 杉山陸軍少将」

「階級は不要ですよ、富岡少将閣下」


 自分はしっかり敬称を使い、説得力がない。


「そうですねぇ……。じゃあ、防御障壁について、軽く話しましょうか。……富岡少将閣下、実は異世界人の使っている防御障壁、あれ人間、歩いて通過できるんですよ」

「なっ……!? そうなんですか?」


 杉山の思いもよらない発言に、富岡は吃驚するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ