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第三四〇話、第三次ハワイ沖海戦の報告


 帝都東京。千代田区霞が関にある海軍省内。海軍軍令部では、永野修身軍令部総長と、伊藤整一軍令部次長、そして第五部部長の土岐仁一中将がいた。


「今回は、我が海軍史上、最大の大海戦であったと言っても過言ではあるまい」


 永野総長は、まずそう口火を切った。


「日米連合艦隊は、異世界帝国太平洋の重要拠点、ハワイを奪回せしめ、強大な敵太平洋艦隊を再び、海の藻屑とした」

「非常に喜ばしいことです」


 土岐中将は丸眼鏡を軽く持ち上げつつ言った。


「結果として、勝利したわけですから」

「うむ。……しかし、犠牲もまた多かった」


 歴戦の提督である南雲忠一中将が戦死した。第一艦隊司令部も旗艦『播磨』もろとも失われた。

 伊藤中将が口を開いた。


「第二機動艦隊、特に第一艦隊の被害は甚大でした」


 第一艦隊の戦艦10隻のうち、撃沈されたのは旗艦である『播磨』のみに留まった。しかし、それは転移離脱による戦線離脱が可能だったからだ。


 第三戦隊『土佐』『天城』『紀伊』『尾張』は、その全艦が中破以上のダメージを受け、特に『天城』は浸水著しく、二度目のトラックへの転移後、浅瀬に座礁することで沈没を免れた。


 第一戦隊で『播磨』の僚艦を務めた『遠江』も大破。第四戦隊は『長門』『薩摩』『飛騨』が中破、『陸奥』が大破よりの中破と、無事な戦艦は1隻もなかった。


 戦艦の他では、空母『飛鷹』が沈没。『隼鷹』、『龍鳳』が中破。『雲龍』『海鷹』が被弾したものの、こちらは小破で収まっている。


 敵巡洋艦及び水雷戦隊と戦闘した第一艦隊の巡洋艦群は、重巡洋艦『六甲』が敵魚雷により爆沈。『蔵王』が大破し転移離脱を強いられ、『笠置』『最上』もまた中破した。軽巡洋艦では、第二十一戦隊の『浦野』が沈没、『高瀬』『渡良瀬』が中破、第一水雷戦隊旗艦『阿賀野』も転移離脱した。


 駆逐艦では、第二機動艦隊所属の『電』『五月雨』『夕立』『秋霜』『朝東風』『榧』『桑』『南風』が失われた。


「転移離脱できたお陰で、命拾いした艦も少なくありませんでした。それがなければ、沈没艦は、今の倍以上出ていたでしょう」


 大破、中破で離脱、後方の友軍のもとに合流できたことで生き延びた結果、沈没艦艇は戦艦1、空母1、重巡洋艦1、軽巡洋艦1、駆逐艦8と、大海戦とは思えない数に留まった。


「ただ先にも伊藤次長の仰った通り、第一艦隊の戦艦群は、ほぼスクラップ同然、とても戦えたものではありません」


 土岐は、かなり過激な物言いをした。実際のところ、マーシャル諸島攻略戦で損傷した戦艦が間もなく復帰する。今回、『敷島』と行動を共にした戦艦『肥前』『周防』も、本来は第一艦隊所属で、こちらは損害はなく使用可能である。なのでまったく使えないというわけではないが、ハワイ沖海戦に参加した第一艦隊戦艦は全艦しばらくドック入りが確実だった。

 永野総長が、土岐を見た。


「九頭島のドックの方のほうは?」

「まだ百パーセント復旧とは言い難いです。ですが、使えるところではドンドン放り込んでいいでしょう」


 ともあれ――伊藤は腕を組んだ。


「当面は第一機動艦隊の戦力を中心に、連合艦隊を維持していくしかありません」

「損害が極端だったよね」


 永野は小首を傾げた。

 第二機動艦隊を構成する第一、第四艦隊は、敵の目を引きつける陽動でもあり、決戦時は主力として行動。


 一方で、第一機動艦隊は、第二機動艦隊を始め、各部隊の援護と遊撃的ポジションの部隊として行動した。戦況を有利に運ぶため、かなり細かく移動を繰り返して、制空権確保に尽力したが、転移も少なくなく、移動記録をまとめる方も苦労させられたという。


 第二機動艦隊は被害担当艦の海氷空母を前衛にしていたこともあり、攻撃が集中。艦隊決戦でも正面からの砲撃戦を展開したので、今回の損傷艦の大半を出す結果となった。


 第一機動艦隊や潜水遊撃艦隊、その他艦艇は、まとまった攻撃を受けなかった結果、軽微な損傷に留まった。


「半分でも艦隊が残っているのは幸いです」


 土岐は言った。


「第二だけでなく、第一機動艦隊までやられていたら、いくらハワイを奪回しても、こちらとしては大損ですから」


 米海軍の被害も大きいが、それに付き合った日本海軍としても、今後が危ぶまれるほどの消耗は避けたいのが本音である。


「米軍も被害が大きかったみたいだね」


 永野が伊藤へと視線を向けた。


「戦艦3隻、軽空母3隻を失ったようです。巡洋艦以下の艦艇も少なからず。損傷、修理が必要な艦もその倍以上は」


 旧式戦艦3隻を除く8隻中、3隻が、熱線砲の直撃で轟沈された。空母も正規空母こそ沈没を免れたが6隻中3隻が戦闘不能。軽空母は5隻中3隻を失った。

 稼働戦艦も旧式を入れて6、7隻。空母は正規3、軽空母2と半分以下である。


「すぐに異世界帝国がハワイに攻めてくるとは思えないけど、アメリカさんも大変だね」

「しかし、米軍の艦艇の復旧速度はかなりのものですから、損傷した正規空母3隻も、早々に復帰するのではないでしょうか」


 伊藤が把握しているところでは、これら空母群は爆撃による飛行甲板や格納庫までの損害らしく、航行にさほど影響はないという。サンディエゴに戻り、早々に修理に取りかかるのではないだろうか。


「失われた人命だけは、どうにもならないんだけどね……。いくら無人コアや自動操作が増えたと言ってもね」


 永野の言葉に、土岐は反論が出かかるが、何とか抑えた。確かに連合艦隊は被害は出たが、自動化や無人コアの影響で、戦死者はこれまでの海戦に比べるとかなり減少している。


 しかし、少ないというだけであって、まったく出なかったというわけではない。南雲忠一中将以下、歴戦の海軍軍人、古参、新参含めてそれなりの戦死者を出したのだ。……もっともこればかりは、どうしようもないことではあるが。


「それで、土岐君。沈没艦の処遇だけど……」

「はい、すでに回収部隊が、今回のハワイ沖海戦で沈んだ艦艇をサルベージしています。……敵に使われた『黒鷹』『紅鷹』も、もちろん奪回しました」


 マーシャル諸島攻略で撃沈された空母。異世界帝国軍は、日本海軍の空母を自軍戦力に取り込んでいた。


「後は、今回新たに撃沈した敵艦艇も、可能な限り回収しています。こちらとしては、第一艦隊を単艦で翻弄した例の防御障壁を貫通する砲を持った新鋭戦艦は、必ず確保しておきたいものです」


 防御障壁を抜いてくる敵の新兵器。その解析と利用は、今後の戦いでも重要になるだろう。


「うん、まあ……人員の問題は自動化で解決しつつあるけど、すぐには再生もできないとは思う」


 海戦での損傷、修理が必要な艦も多いからドックが埋まる。物事には優先順位というものがあるのだ。


「あと、くれぐれも――」

「ご安心ください、総長。米軍の沈没艦にはを出さないよう、現場には命じてあります」


 ハワイ近海ということもあり、米軍が自軍沈没艦を調べる可能性は高い。アメリカの同胞の眠るそれらを、持ち去ることは、さすがに憚られる。

 異世界帝国に再利用されなければ、自軍沈没艦の扱いは、アメリカ軍に任せるべきだろう。

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