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復活の艦隊 異世界大戦1942  作者: 柊遊馬


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第三三八話、残る合体海氷の始末


 異世界帝国太平洋艦隊司令長官、ヴォルク・テシス大将の置き土産であるプネヴマ部隊による米上陸船団攻撃は、日本海軍第七航空戦隊の戦闘機隊の攻撃もあり、失敗に終わった。


 遮蔽による透明戦術に関しては、日本海軍に一日の長があり、異世界帝国の新鋭戦闘機シュピーラドの撃墜が戦局を分けたのである。


 夜となり、日米両軍は艦隊ごとに集結。今日一日の戦いにおける損害の確認と、補給、休養を行いつつ、作戦の次の段階に向けて移動を行った。

 つまり、ハワイ各島への上陸である。日米主力艦隊は、第七群と上陸船団を守りつつ、異世界帝国軍の夜間襲撃に備えていた。


 油断をするわけではないが、すでにハワイ各島の航空基地、そして主力艦隊を叩いたため、もはや異世界人の大規模攻撃はないと見られている。あるとすれば、例の奇襲を仕掛けた小規模航空攻撃か、潜水艦による襲撃くらいだろう。


 だがこの頃、日本海軍は、残存する敵合体海氷空母二つについて、それぞれ作戦を開始していた。

 昼間の大規模航空波状攻撃以来、艦載機を喪失したのか以後、動きがないこの二つだが、さすがに放置しておくのは気持ちが悪い。


 ハワイ諸島東に遊弋する海氷群に混じって存在する巨大合体海氷空母EとF。日本海軍は、二つの部隊を送り込んでいた。


 まず、合体海氷空母Eに向かったのは、特別潜水隊である。


 潜水母艦『あいおわ丸』と第七十一潜水隊の伊607、伊608、伊613である。

 七十一潜水隊は、軍令部第二部長、黒島 亀人少将発案の海氷潜水母艦案の試験部隊として、ハワイ近海の海氷群にダミー海氷と共に潜伏していた。


 そして、黒島部長の発案である新装備を載せた伊607、伊608潜水艦が、巨大合体海氷空母攻撃に姿を現したのである。


「目標、正面の異海氷空母!」

「攻撃準備、急げ!」


 この2隻は、魔技研が再生させたマ号潜水艦であり、607潜が、マ-7号潜、608潜が防護巡洋艦『高千穂』改装のマ-8号潜だった。


「さて、果たしてこいつがあのデカブツに通用するかな?」


 伊607潜艦長、久志田寅賢(ともより)中佐は、呟いた。


 外付けで取り付けられた新兵器――イ型光線砲。


 異世界帝国軍の新型重爆撃機が積んでいた光線兵器、それのレプリカである。黒島の思いつきである『小型の潜水艦に、光線兵器を搭載して、攻撃対象近くに浮上、発射する』を本気で実行するのである。


 当初は、開発中の小型潜水艦で運用するつもりだったのだが、まだ物ができておらず、ハワイ作戦に間に合わないので、すでにある潜水艦に装備して試してみることになったのだ。


 潜水艦で光線兵器を使うなら、魚雷を撃ったほうが早いのではないか、という意見もあったが、ハワイ作戦で、航空機を運用できそうな大型海氷を吹き飛ばすことを目的としたため、急遽改造され、実戦投入されたのである。


「伊613潜より、周囲に敵艦影なし」


 警戒、護衛の伊613潜からの報告。これで攻撃後の戦果確認の時間はあるな、と久志田は独りごちた。イ型光線砲は、ベースとなった異世界帝国重爆が積んでいた光線砲の時点で、チャージ不要のほぼ使い捨て兵器なので、発射までにさほど時間が掛からないのが長所と言える。


「イ型砲、発射準備よし!」

「よし。通信! 608潜に連絡! 我、射撃準備完了」


 久志田は、右手方向に浮かぶ僚艦、伊608潜を見やる。周囲は風が吹き、波音がうるさい。


「608潜より通信。準備完了、いつでもどうぞ、とのこと」

「了解。甲板展開要員、閃光防御! ――イ型光線砲、発射!」


 伊607、伊608、その艦首に載せたイ型光線砲が、巨大海氷空母に向けて闇夜を貫く閃光を発した。


 久志田は遮光ゴーグルで、眩い閃光が、巨大合体海氷空母に吸いこまれるのを見た。夜だと明る過ぎて、遠くからでも見えてしまう、と思う。

 二つの光は、巨大海氷に吸い込まれて、周囲を溶かしたかと思うと、次の瞬間巨大な火球を生み出した。

 あまりに大きな爆発だったので、一瞬、目標が跡形なく吹き飛んだかと錯覚した。


 しかし、よく見れば、異海氷空母は、健在だった。ただ破壊の衝撃で、氷山のような巨大な艦体が割れたらしく、三つになっていた。さらにそのうちの一つが、バランスを崩して倒壊した。


「おおっ!」


 歓声を上げる乗組員だが、久志田は口元を引き締めた。分断はしたが、その艦体はしぶとく浮いている。船を言うより氷山というべきか、安定性は高めのようだった。一つが倒れたのは、たまたまと見るべきかもしれない。


「……まあいい。どの道、敵が重爆を使うようなスペースはない。我々は後退しよう」


 イ型光線砲は、一発撃てば砲身交換をしないといけない、一発限りに近い兵器だ。もう一撃は現状不可能だった。


 やることはやったので、トドメが必要ならば他の部隊に任せよう。第七十一潜水隊は、合体海氷空母Eを大破させたのち、その場を離れた。



  ・  ・  ・



 同じ頃、合体海氷空母Fに、遮蔽装置で姿を隠した航空機が飛来した。

 その航空機は、特殊作戦用に作られた異形の汎用輸送機『虚空(こくう)』である。


 軍令部第五部の提出した特殊部隊構想において、特殊部隊を密かに敵地に侵入、もしくは回収する小型輸送機が計画された。


 それに従い、魔技研が中心となって開発されたそれは、マ式エンジンを複数搭載する機体であり、プロペラを持たない。


 異世界帝国との戦争が始まり、敵機の情報が集まるにつれ、その技術も応用された結果、マ式エンジンを三基積んだ三発輸送機が完成した。


 遮蔽装置により姿を消すと共に、新式の消音装置によって音を可能な限り出さない魔法効果も付与された特殊輸送機は『虚空』と名付けられ、少数生産されたのだった。

 密かに飛ぶ、というのが最大の特徴であるが、この機体にはもう一つ、重要な要素があった。

 それは、垂直離着陸能力だった。


 工作部隊を潜入させる以上、機体は滑走路のない場所へ降りる可能性が考えられたためだ。この機のコンセプトである、敵地潜入、そして『回収』のためには、特に降りられる機体であることが望まれたのだ。


 かくて、特殊輸送機『虚空』3機は、(うつつ)部隊を乗せて、異海氷空母Fの飛行甲板に滑り込んだ。

 いくら消音を目指したとはいえ、無音ではない。さすがに飛行甲板に出ていた異世界帝国兵には、何かが降りてきたような音を聞き取った。


 だが遮蔽装置によって見えないそれは、彼らを大いに困惑させた。そしてそうこうしているうちに、『虚空』の胴体から、特殊部隊員が飛び出て、甲板上で銃撃戦が展開された。


 もっとも、飛行甲板上に限れば、一方的な戦いだった。何故ならば、まさか白兵戦を仕掛けてくる敵など想定していなかった異世界帝国兵たちは、甲板作業に銃器を携帯していなかったからである。


 さらに、そもそも戦闘員たる歩兵が、警備担当のわずかな人数しかいなかったのも問題だった。武装していたのが警備兵と、数名の当直士官が拳銃程度ということもあり、現部隊によって、瞬く間に制圧されたのだった。

・海軍特殊汎用輸送機:虚空

乗員:2名(輸送兵員12名)

全長:13.5メートル

全幅:19.90メートル

自重:3200キログラム

発動機:武本『雷光』一二型 マ式1000馬力×3

速度:351キロメートル

航続距離:2200キロメートル

武装:7.7ミリ機銃×3

その他:日本海軍が、特殊部隊用に開発した小型輸送機。隠密での敵地潜入、部隊の降下、回収や輸送などで主に使用する。機体は、海軍が空挺作戦用に開発していた軍用グライダーである十六試特殊輸送機をベースに、魔技研技術を投じた輸送機として製作された。レシプロではなく魔力式発動機を備え、二基を主翼に、一基を減速、垂直離着陸用に用いる。遮蔽装置、軽微ながら防御障壁を備える。

(※十六試特殊輸送機(史実):軍用グライダーとして1942年2月に試作機が完成。機体は良好なるも、空挺作戦が落下傘による降下が主流となり、グライダー降下がお役御免となったため、実戦投入はされなかった)

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