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第三三六話、アルパガス、撃沈


 航空戦艦『敷島』と、異世界帝国軍戦艦『アルパガス』の衝突前。


 第一機動艦隊、第二戦隊の旗艦『大和』は、敵太平洋艦隊主力を撃滅し、旗艦の援護に向かおうとしていた。


 しかし、『敷島』にいる神明少将からの念話交信を受け取った正木初子大尉は、艦長の森下大佐にその旨を知らせた。


「対艦誘導弾攻撃か……」


 へぇ、と神明と同期の森下は少し考え、第二戦隊司令官の宇垣纏中将に上申した。


「要するに、息継ぎの暇を与えず、連続攻撃を仕掛けろ、というところだと思います」


 森下は、神明の意図をそう告げた。『大和』の46センチ砲は強力ではあるが、一斉射ごとにおよそ40秒ほどの装填、照準時間が掛かる。それならば弾数は限られているが、矢継ぎ早に発射可能な対艦誘導弾を、連続使用しようということである。

 宇垣は頷いた。


「よし、それでいこう。長官が身を危険に晒して削った敵の障壁だ。ここで削りきって仕留める!」


 第二戦隊は、敵艦隊の残存巡洋艦や駆逐艦は、他部隊に任せて、旗艦同士の決闘の場へと舵を向けた。

 すでに弾着観測兼誘導機は、敵艦隊撃滅のために発進しており、これらによる目標への誘導の準備も整う。


『『敷島』! 敵戦艦と接触!』


 見張り員の絶叫にも似た報告。防御障壁がなかった頃、この手の衝突は大惨事で、巨艦ともなれば艦首が抉れ、沈没してしまうのも珍しくない。

 宇垣は、静かに、しかし確固たる口調で告げた。


「対艦誘導弾、全艦、撃ち方はじめ!」


 戦艦『大和』、僚艦『武蔵』、『美濃』『和泉』の煙突から、煙が噴き出し、大型対艦誘導弾が順次発射させる。


 第二戦隊の戦艦4隻は、マ式機関を持ち、潜水行動が可能である。そのため、それまで必要だった排煙のための煙突が必要なくなった。


 日本海軍――というより魔技研は、『大和』を改装時、この不要になった煙突に、対艦誘導弾の垂直発射管を搭載した。それは僚艦となる『武蔵』『美濃』『和泉』も同様であり、海軍の特殊巡洋艦に匹敵する対艦誘導弾搭載艦となっていた。


『大和』『武蔵』は、十二連装、『美濃』『和泉』は八連装の、大型誘導弾を連続発射した。これらは誘導機によって、目標へ導かれる。


 長駆飛翔した対艦誘導弾は、『敷島』が転移離脱し、『アルパガス』のみが残ったところを襲いかかった。


 合計40発。それが『敷島』が消えた直後、一艦だけ残される形になった『アルパガス』に殺到した。わずかに残っていた防御障壁は、それがトドメとなった。


 数秒単位の時間差による連続攻撃は、戦艦同士の衝突でエネルギーを削られた防御障壁にとって、トドメとなった。


『アルパガス』の防御障壁が割れた直後、周囲の味方戦艦群が発砲した砲弾が次々と周りに降り注ぎ、無数の水柱と共に、命中砲弾によるバッと広がった黒煙が、いくつも艦上に上がった。


 直撃弾が、『アルパガス』の艦上構造物を抉り、高角砲や機銃群を破砕する。連続した爆発が起きて、巨艦の全容を水柱と煙の中へと誘う。


 第四、第五戦隊の戦艦5隻は、41センチ連装砲をこれでもかといういうくらい撃ち込み、第七戦隊の金剛型戦艦4隻もまた35.6センチ砲弾を叩き込む。


 圧倒的なまでの集中砲火。能力者たちの制御により命中精度が飛躍的に向上した日本海軍の戦艦による艦砲射撃は、『アルパガス』を叩き、破壊していく。


 さらに健在の巡洋艦、駆逐艦からの雷撃も、敵旗艦に吸い込まれ、海面下へと艦体を引きずり込む。


 第一艦隊戦艦群に大打撃を与えた異世界帝国軍、太平洋艦隊旗艦『アルパガス』は、一際巨大な爆炎を上げて、海底へと没し去ったのだった。



  ・  ・  ・



 敵旗艦に正面から衝突し、防御障壁を削った『敷島』は、予定通り、転移連絡網を応用した離脱を行い、艦隊後方の転移巡洋艦『鳴門(なると)』の傍に、転移した。

 そしてさほど時間を置くことなく、『敵大型戦艦、撃沈』の報告が入った。


「やってくれたか」


 連合艦隊司令長官、山本五十六大将は、ホッと息をついた。やったぞ、と渡辺戦務参謀ら参謀たちが喜びの声を上げる中、草鹿龍之介参謀長は、山本の隣に立った。


「やりましたね」

「うむ。これでハワイ方面における敵主力艦隊はほぼ撃滅した」


 一部、ハワイ東に存在する合体海氷空母や、ハワイ主要八島の航空基地撃滅の確認もあるが、それさえ済めば、米海兵隊によるハワイ上陸が行われることになっている。


「大きな犠牲を払いましたね」

「ああ。……南雲君や、第一艦隊の将兵たち」


 第一艦隊旗艦『播磨』は沈み、所属戦艦群も、第三戦隊が戦線離脱を余儀なくされ、残っている艦も被害が少なからず出ている。


 敵巡洋艦、駆逐艦と交戦したこちらの巡洋艦や水雷戦隊の被害については把握していないものの、あの乱戦で損害なしはあり得ないだろう。

 間もなく、日が沈もうとしている。熱闘の一日だった。間もなく夜が訪れる――


「長官、米第7群からの緊急電です!」


 連合艦隊司令部付き通信長が駆け込んできた。


「我、敵艦載機の攻撃を受く。救援求む!」



  ・  ・  ・



 アメリカ海軍第三艦隊、第七群。

 ハワイを奪回する海兵隊を満載した輸送船団と、それを護衛する部隊から構成される。


 戦艦『コロラド』『ニューメキシコ』『アイダホ』の旧式戦艦群と、ジープ空母と呼ばれる護衛空母11隻、他、巡洋艦、護衛駆逐艦から編成されている第七群は、戦場の後方にいて、安全が確保されるまで待機していた。


 主力艦隊同士の決戦時や、敵航空兵力との戦いの際も参加することなく、自部隊の対空・対潜警戒を実施していた。


 このまま何事もなく、海兵隊の上陸まで、特に出番もなく終わるかと思われたが、ムンドゥス帝国テシス大将は、作戦リーブラを発令していた。


 伏せていたプネヴマ部隊――遮蔽装置搭載軽空母2隻を投入。その艦載機を米上陸部隊を乗せた輸送船団撃滅に派遣していたのだ。


 たとえ決戦に敗れようとも、日米軍のハワイ攻略作戦を中止に追いやる。保険でもあった策が、米軍を襲った。


 第七群の護衛空母も、上空援護機のほか、追加の戦闘機を発艦させて敵機を迎え撃つが、果たして、艦載機搭載数の少ないカサブランカ級の戦闘機隊でこの危機を凌ぎ切ることができるのだろうか。

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