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復活の艦隊 異世界大戦1942  作者: 柊遊馬


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第三三五話、旗艦同士の激突の結果


 崎山釈夫(しゃかお)少将は、航空戦艦『敷島』の艦長である。


 海軍兵学校42期。海大には行っていないが、潮っ気の強い水雷屋であり、複数の駆逐艦長を務め、軽巡洋艦『阿武隈』、重巡洋艦『三隈』艦長として乗り継いだ折り、異世界帝国との戦いを迎えた。


 当時、崎山大佐の指揮する『三隈』は、第一次トラック沖海戦で、僚艦『最上』と接触事故を起こした直後に狙われ、撃沈された。この時、崎山大佐は負傷し、しばらくは内地で静養していたが、のちに修理改装の終えた『霧島』の艦長となり、ついに連合艦隊旗艦である『敷島』の艦長となったのである。


 かつて僚艦に追突された艦の艦長だった崎山が、まさか敵艦に自ら当たりに行くような羽目になるとは、当然思っていなかった。


 生粋の水雷屋で、常に海にいてフネの操艦には自信があった。連合艦隊旗艦の艦長など、責任重大過ぎるが、大砲屋でも航空屋でもない自分が選ばれたのは、あくまで操艦の腕で選ばれたのだと思っていた。


 要するに、山本長官を危険な目にあわせるなよ、という海軍からのお達しなのだろう、と。


 それがまさか、敵大戦艦と正面からぶつかる――崎山はかつての駆逐艦長だった頃の荒々しい雰囲気を思い出していた。


 それと比べれば『敷島』は桁違いの排水量を誇る重量艦だが、舵の利きは、開戦頃の重巡や軽巡並みとは言わないが、それなりに動きが早かった。


 これは開戦後の日本海軍艦艇の多くが施された魔技研の水抵抗軽減効果によるものが大きい。若干の速度アップと共に、挙動にも影響を与えるこの技術は、魔技研のそれとしては地味ではあるが、今回のわざと敵艦と衝突して防御障壁を削る策の実行を、大いに助けた。


 わざとぶつけようとしたのは敵――『アルパガス』も同じだったようだ。その艦長エフスラもまた、『敷島』に自艦を接触させて、その懐に飛び込む機動をするつもりだったが、『敷島』の予想より機敏な反応と、崎山の操艦能力を見誤り、逆に突っ込まれてしまった。


 双方の防御障壁同士がぶつかる。エフスラの予想では、『敷島』の艦首に突っ込む角度で当たり、その針路を押し上げるつもりだったが、逆に『敷島』が『アルパガス』の艦首に食い込んできた。


 頭突きをしようとしたら、逆に下に入り込まれて顎を吹っ飛ばされるような感じか。


 障壁同士の衝突に、巨艦は揺れる。『敷島』が押し、『アルパガス』が押し込まれる。障壁耐久度がゴリゴリ削られる。それだけ速度を出しての激突だ。並みの障壁ならば、崩壊して直接体当たりになっていたかもしれない。


 航空戦艦『敷島』。その艦橋。連合艦隊司令部が、対衝撃姿勢を取りつつ見守る中、その時がきた。


「障壁、耐久限界!」

「転移離脱!」


 崎山が叫んだ。敵艦の強力な障壁を削るとは言ったが、自艦の守りを失って旗艦を危険にさらしてはならない。

 旗艦同士の衝突。しかし次の瞬間、『敷島』の姿は、音もなく消えるのだった。



  ・  ・  ・



 想定外の位置への体当たり。これにはヴォルク・テシス大将は、相手の操艦に感心するしかなかった。


 多少予定は変わるが、一応、密着には成功した。いくら障壁があるとはいえ、この衝突である。相当のエネルギーを消耗したはずだ。


 この状況では、さすがに障壁があるからと言って、日本海軍も旗艦への誤射を避けるために発砲を控えざるを得ない。


 だが一方で、敵旗艦の艦首主砲が『アルパガス』に向いたままという危険な状態であるため、ルクス三連砲で、『敷島』の艦首砲だけは先手を破壊しておかねばならない。


 この密着状態では、さすがに46センチ砲の直撃は、障壁なしで受ければ危険だ。

 障壁と障壁がぶつかった振動が『アルパガス』を揺さぶっている。この揺れが収まった時、主砲を――


『敵旗艦、き、消えていきます!?』


 観測員の報告が、司令塔に響いた。エフスラ艦長も、ムンドゥス帝国太平洋艦隊司令部の参謀たちも驚愕する。


「き、消えた!?」

「まさか、日本海軍も遮蔽装置を……!?」


 姿を消す魔法効果装置。この『アルパガス』にも装備された技術であるが。


 ――日本軍の見えない空母群も、この技術を使っていたのだな。


 そう刹那の間に思ったテシスだったが、すぐに違うと脳が判断した。


 ――この状況で、遮蔽装置を使う意味があるのか? 見えなくなったとて、そこにいることには変わらない。砲弾が素通りするわけではないのだ。


 ここで姿を消したのは、肉薄してからのルクス三連砲の狙いを外して、少しでも被弾確率を下げる魂胆か?


 ――いや、最初から姿を消せるなら、体当たりする前に透明になれば、こちらの照準を狂わせることができたはずだ。何故、体当たりした?


 体当たりする必要があったのだ。日本軍の、あの旗艦は、突進してくる『アルパガス』に対してあそこまで接近したなら、当たらなければいけなかったのだ。


 何のため――? 『アルパガス』の障壁を削るため。強力な障壁強度を誇る『アルパガス』は、日本海軍の集中攻撃を受けてもまだまだ余裕があった。


 まったく余裕の『アルパガス』に対して、日本海軍としては防御障壁を消滅させなければ攻撃が当たらない。

 だから、大質量の物体による衝突――旗艦が障壁をぶつけてくることで『アルパガス』の防御を崩しにかかった。


 こちらとしては、障壁をロストしたとしても、敵旗艦に張り付いていれば、砲撃されない。

 だがそれは、張り付いていれば、の話だ。もし敵旗艦が、透明になったのではなく、消えたのだとすれば。


「そういうことか……!」


『敷島』は遮蔽装置を使ったのではない。転移したのだ。


 そしてその直後に起こることは――


『多数の飛翔爆弾、接近!』


 レーダー手が叫ぶ。『アルパガス』の近くに敵旗艦『敷島』がいないのなら、当然、日本軍は攻撃してくる。

 この半包囲に近い状態で。


 旗艦同士の衝突で『アルパガス』が防御障壁をすり減らした状態で。


「見事だ……! 日本海軍!」


 そして敵司令長官、ヤマモト イソロク!



  ・  ・  ・



「目標、敵透明戦艦! 撃ち方はじめ!」


 連合艦隊旗艦『敷島』の転移の瞬間、比較的近くにいた戦艦『肥前』『周防』、そして遠巻きにいた『長門』や『金剛』ら戦艦戦隊は、一斉に砲撃を開始した。


 また巡洋艦や水雷戦隊の駆逐艦もまた、残存する誘導魚雷を発射。遠距離から飛来した『大和』以下第二戦隊の対艦誘導弾も、『アルパガス』に殺到。圧倒的な火力の嵐が、異世界帝国太平洋艦隊旗艦に降り注ぎ、炸裂した。

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