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第三二七話、切り札の投入


 第一機動艦隊、旗艦『伊勢』に、秋田大尉が転移してきた。小沢司令長官と神明ら参謀たちの前に来た秋田は、第一艦隊が壊滅的被害を受けたことを告げた。


「――で、それを引き起こしている敵は遮蔽に隠れていて、有効な対処がとれません。なので神明さ――参謀長のお知恵を拝借したく、山本長官より『敷島』に来るようにと、ご命令でございます」


 胡散臭いものを見る目になる小沢。軍人にしては軽すぎる性格の秋田は、多くの将官たちから眉をひそめられる。要するに弛んでいるのではないか、と小言を食らうタイプなのである。

 しかし神明は、そのことには触れない。


「長官、山本長官よりお呼びがかかっているようなので、行って参ります」

「うむ。……何とかなりそうか?」

「人魂云々が気になりますが、まずは状況を確認してきます。では――」


 敬礼する神明に小沢、そして参謀たちもつられたように敬礼で返した。秋田の転移魔法で、神明は、連合艦隊旗艦『敷島』の司令塔に移動する。背筋を伸ばし、敬礼。


「神明、来ました」

「おう」


 山本は答えた。草鹿参謀長や連合艦隊司令部の参謀たちが頷く。


「状況は軽く聞いた通りだが、あまりよろしくない」


 第四戦隊を攻撃していた透明艦は、その所在が完全にわからなくなったらしい。直掩機や水上偵察機が、空から捜索しているが、発見には至らない。


「逃げた、と思うか?」

「いいえ、我々が敵太平洋艦隊の残存艦を追撃している限り、敵は攻撃に最適な位置へと移動していると思われます」


 さながら狙撃手のように。


「ちなみに、人魂というのは?」


 神明が尋ねると、樋端航空参謀が答えた。


「敵を捜索している偵察機のそばに、突然現れて襲いかかってきます。これも遮蔽のような透明化で普段姿を消して飛んでいると思われます」

「攻撃方法は?」


 体当たりか? それとも光線や銃撃などをしてくるのか。


「光弾を撃ってきます」


 弾速が早く、後ろに付かれて狙われたら回避は困難だという。


「戦闘機で撃墜をしようと指示したのですが、零戦も試製烈風も、追尾したら見失ってしまいまして」

「なるほど。……敵は単機だな」


 ボソリという神明に、草鹿参謀長は首を傾けた。



「確かか?」

「人魂が自身を弾として体当たりしてこないところからして、航空機でしょうな。有人か無人かはわかりませんが、おそらく予備はないでしょう」

「単機と断定する理由は?」

「自機が見えないのです。他に同じように遮蔽に隠れている友軍機がいても回避できない」


 遮蔽装備付きの航空機を集団運用している日本海軍であるが、攻撃時は基本的に遮蔽は解除する。味方機との衝突を避けるためだ。移動時の遮蔽についても、後方など敵からは見えず、後続する味方からしか見えない部分だけ遮蔽を解除して飛んでいる。


 便利ではあるが、味方にとっては不便なのがこの遮蔽装備である。

 同じ理由で、敵航空機に遮蔽を装備したとしても、僚機との衝突の可能性を考えれば、空中戦の場で使用は困難だ。たとえ専用の索敵装備があったとしても、目視確認できないと危ない。


「とりあえず、敵の人魂型航空機が出没する近くに、例の遮蔽艦が潜んでいる」

「そこに砲弾を撃ち込みますか?」


 渡辺戦務参謀が冗談めかした。


「範囲が広すぎる。敵航空機は、こちらからの目くら撃ちで遮蔽艦に被害が出るのを警戒して、ある程度、距離をとって周回しているだろう」

「見つけ出せますか?」


 樋端がじっと、神明を見た。その神明は海図台上の、遮蔽艦の発光の推定位置、予想針路、撃墜された偵察機、人魂の飛行ルートなどが書き込まれた図を眺める。


「被害を度外視していいなら、簡単だ。推定位置に超低空で航空機の編隊を飛ばす。そのどこかに遮蔽艦がいるから敵の所在が明らかになるという寸法だ。人魂型航空機も、単機では全部を撃墜する時間はないだろう」


 おおっ、と参謀たちは声を上げたが、神明は冷めた目で彼らを見た。


「その代わり、その航空隊は壊滅的ダメージを受ける。最悪、全滅もあり得る」

「あ……」


 遮蔽艦の方も、黙って衝突はされたくないだろう。対空砲なり、防御障壁を展開し、正体露見と引き換えに、航空隊はやられる。


 航空機ではなく、艦艇を戦隊単位で突っ込ませる手は……おそらくその前に光弾で、やられる。位置を把握するために払う犠牲は、航空隊の比ではない。


 誘導弾や無人コア戦闘機を使う手ならば人命の浪費は避けられる。――しかし、弾がもったいない。

 使うにしても、最低限の消費に留めたい。


「とりあえず、確証はないですが、一つ案が浮かんだので試したいことがあるのですが――」


 神明は、おそらく理解されないだろうが一応、かいつまんで説明した。



  ・  ・  ・



 第一機動艦隊第二艦隊、第二戦隊旗艦『大和』。

 秋田の転移で『大和』にやってきた神明。戦隊司令官の宇垣 纏中将は驚いた。


「何をしにきた、神明? 貴様は『伊勢』ではなかったのか?」

「第一艦隊の仇討ちの命令を受けまして、折り入ってご相談があります」


 神明は、宇垣に、ある搭乗員を借りたいと切り出した。


「須賀大尉を?」


 大和航空隊、戦闘機隊隊長である須賀 義二郎。魔技研に属したこともあるが、今では数えるほどしか残っていない開戦時の南雲機動部隊所属の戦闘機パイロットだ。


「恐ろしく勘のよい、死なない搭乗員が必要なんですよ」

「う、む……。よくわからんが、要請は理解した。しかし今、我が第二戦隊は、逃走する敵太平洋艦隊主力を追尾のため、潜水行動中だ。一式水戦は出せんぞ」


 海に潜って移動している『大和』以下、第二戦隊である。海中では艦載機は発進できない。さらに敵を奇襲しようと航行している中、浮上してその意図をフイにすることはできない。


「ええ、なので、須賀大尉を秋田が転移で『敷島』に移動させます」


 神明は淡々と告げた。


「『敷島』にも機体はありますから」


 海軍期待の新鋭機。零戦の後継機である、試製烈風艦上戦闘攻撃機。

 ハワイ作戦で投入された試製烈風を唯一、運用する航空戦艦、それが『敷島』である。


 おそらく、いや確実に、須賀は烈風に乗るのは初めてだろうが、数々の新型機を乗りこなしてきた彼なら、飛ばすことくらいはできるだろう。

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