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第三二二話、テシス大将の策


 日本海軍の戦艦群の先頭から六隻が、砲を向けてきた。それらは何もない海上に砲弾を撃ち込んでいるように見える。


 ムンドゥス帝国太平洋艦隊旗艦『アルパガス』は、いまだ透明化効果の中にして、微妙に変針しながら、自軍戦艦群より前を航行していた。


『敵、六番艦に直撃』


 命中報告に、太平洋艦隊司令長官ヴォルク・テシス大将は、満足げな笑みを浮かべていた。


「ラッキーヒットこそなかったが、日本軍にとっては、障壁を抜けてくる攻撃は衝撃だろう」


 射線が通るなら、ほぼ命中する。『アルパガス』のルクス砲――40センチ連装ルクス三連砲は、本艦に試作搭載された新兵装である。


 連装なのか三連装なのま紛らわしいこの砲だが、砲門数で言えば連装砲なので、六基十二門が正しい。


 では、何が三連なのかと言えば、一つの砲門につき、一回の砲撃で光弾三発が連続発射されることを指している。


 この三連弾は、敵の使用する防御障壁を貫通させるために作り出された。

 基本、防御障壁と呼ばれるエネルギーの壁は、攻撃を防ぐ。その際、着弾カ所は、衝撃を吸収するのだが、ある程度のエネルギーを失う。


 衝撃の威力にもよるが、継続してダメージを受ければ、障壁を維持するエネルギーが失われていき、最後には消滅する。


 だがこの命中の瞬間――つまり衝撃を吸収し、そのエネルギーが消滅した瞬間、間髪を入れずに同じ場所に攻撃が命中したらどうなるのか?


 薄くなったエネルギー膜を周囲が埋めて補強する前に、攻撃が当たれば、さらに障壁は削られ、他は障壁が存在するのに、1秒にも満たない時間、そこに穴が空くのである。


 ルクス三連砲は、一発に見えて三発をコンマ単位のズレで放つ。一発目で障壁を弱め、二発目で穴を空け、三発目を目標にぶつける。


 それが、防御障壁を展開した日本戦艦にダメージを与えた『アルパガス』の主砲――ルクス三連砲である。


「しかし、さすがは戦艦だ。障壁を抜けても、簡単には致命傷にならなかったか」


 テシス大将は苦笑した。旗艦と思われる先頭の大型戦艦から後ろの艦へ順番に撃ち込んだ。だが目に見えて大きな損害を受けた艦は出なかったようである。


 一度に三発を撃っても、結局当たるのは最後の一発のみ。エネルギーの消費や連射率を勘案すれば、現在の技術力ではこの40センチ砲クラスが限界であった。その辺りは、数で補うしかない。


 太平洋艦隊旗艦『アルパガス』は、全長275メートル。全幅37メートル。基準排水量6万2000トンの新鋭試作戦艦である。


 40センチ連装ルクス三連砲を六基、艦首と艦両舷、艦尾に二基ずつ配置されている。側面を受けての砲撃で使用できる主砲は、艦首と艦尾二基ずつ、片舷一基の計五基十門であった。


『敵の砲撃、本艦に集中しつつあり!』

「障壁を抜ける攻撃を仕掛ける上に、彼らから姿が見えないのだ。慌てるのも無理はない」


 呟くようにテシスが言えば、テルモン参謀長は口を開いた。


「日本戦艦部隊にとって、本艦が最も厄介でしょうからね」

「こちらに注意が引かれているなら、結構。……敵の観測機が戻ってくる前に、もう一つ、仕掛けよう」


 テシスが見つめる空の先。戦艦部隊が載せてきた戦闘機部隊が、日本軍空母から飛んできた戦闘機と交戦を始めた。


 おそらく味方が敵弾着観測機を遠ざけていられる時間は、さほど残っていないだろう。それまでにもう一つ、片付けておく。



  ・  ・  ・



 日本軍第一艦隊と、異世界帝国主力艦隊は反航戦の形で砲撃を行っていた。

 南雲中将が直接率いる、第一戦隊と第三戦隊が、見えない謎の敵艦を砲撃。第四戦隊の『長門』『陸奥』『薩摩』『飛騨』は、敵戦艦部隊のオリクト級戦艦にそれぞれ41センチ砲弾を撃ち込んでいた。


 対する異世界帝国側は、いまだ透明の衣に隠れる『アルパガス』は第三戦隊に対して光弾砲撃を行い、後続のオリクト級戦艦7隻もまた、三戦隊の先頭『土佐』から『天城』『紀伊』『尾張』、『長門』『陸奥』『薩摩』へと40.6センチ砲を放っていた。


 オリクト級の後ろには、ウラヴォス級戦艦4隻が続くが、これらはまだ砲火を開かず、不気味に沈黙を守っていた。

 第一艦隊第一戦隊、旗艦『播磨』では、南雲が違和感に苛まれていた。


「何故、敵は、一戦隊を砲撃してこない?」


 最初に謎の新兵器からの攻撃で、一撃は被弾したものの、戦闘・航行とも支障なく健在だ。今も、謎艦への砲撃を続行しているのだが、異世界帝国の主力戦艦部隊は、播磨級の二隻を無視し、三番艦に位置する『土佐』から後ろの艦を狙っているのだ。


「こちらが46センチ砲を搭載する大戦艦であることは、敵も想定しているはずだが……」


 40センチ砲級の敵主力戦艦――オリクト級にとって、46センチ砲搭載の播磨級は、無視していられる相手ではない。その攻撃力は、かの装甲を容易く砕き、一発でも致命傷になりかねない。


 それとも、オリクト級の主砲では播磨級の装甲を抜けないからと、初めから諦めているのだろうか? しかし、脅威を野放しにしておくのはどうなのか? こちらがまだ姿の見えない敵艦に掛かっている間に攻撃を集中させ、少しでもダメージを与えるのがセオリーではないのか?


 ――まあいい。敵が狙ってこないなら、こちらも攻撃に集中できる。


「……しかし、中々敵も捕まりませんな」


 高柳参謀長は眉間に皺を寄せている。


「せめて、空から観測機が使えれば……」


 後衛の第二機動艦隊の空母群から制空戦闘機隊が駆けつけ、異世界帝国の戦闘機と交戦している。零戦五三型と、ヴォンヴィクス戦闘機によるドッグファイトが展開され、被弾し煙を吐きながら、墜落していく機もちらほら見えた。


「もう少しの辛抱だ。観測機が戻れば、透明の敵も、発砲光で位置確認がしやすくなるはずだ」


 南雲は押し殺した声を出した。内心では、早く防御障壁を貫通する武器を持つ敵艦を片付けたい。


『艦橋へ緊急! 敵後方の乙型戦艦上にて、熱線兵器の発射兆候あり!』


 見張り員の切羽詰まった声が司令塔に響いた。見えない敵艦と、砲撃するオリクト級に隠れ、沈黙していたウラヴォス級戦艦が、例の必殺兵器の発射態勢に入っていたのだ。


 反航戦で、列の後ろの方にいて見にくい位置にいて、何もしてこなかった故に、注意が疎かになった。もし弾着観測機があったなら、もう少し早く気づき、通報していたかもしれない。


「砲撃中止。防御障壁、展開、急げ!」


 狙われていなかったが故に、防御より攻撃を優先しているところを狙ったのか。南雲の焦りをよそに、ウラヴォス級戦艦4隻のうち先頭を行く艦から、熱線砲が放たれた。


 その一撃は、『播磨』に直撃――する手前で緊急展開した防御障壁が間に合い、弾いた。


 危機一髪であった。

 だが、先頭艦からの熱線砲に続き、二番艦が、熱線砲を発射した。

・アルパガス級試験戦艦:『アルパガス』

基準排水量:6万2000トン

全長:275メートル

全幅:37メートル

出力:25万馬力

速力:30.1ノット

兵装:50口径40.6センチ連装ルクス三連砲×6 13センチ高角砲×12

   8センチ光弾砲×30

航空兵装:カタパルト×2 艦載機×6

姉妹艦:――

その他:ムンドゥス帝国の試験戦艦。防御シールド(障壁)装備艦艇に対する新兵器、ルクス三連砲を搭載。16インチ光弾を一回に三連続で放つことで、敵障壁の弱体、貫通、直撃へと導く。戦艦主砲級の光弾を発射する手前、高出力ジェネレーターを装備し、攻撃はもちろん、防御に回せば、強力な防御障壁を展開可能。また試作の遮蔽装置を搭載し、姿を消すことも可能。目視はおろか、レーダーなど索敵から逃れる。なお、遮蔽中に防御障壁を使うと艦は見えないが防御膜が見えてしまうため、位置が特定される(故に同時使用はされない)。

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