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第三二一話、姿なき敵


 アメリカ戦艦部隊の方で大きな爆発が三つ、ほぼ同時に起きた。

 これは、敵主力戦艦群と砲撃戦となって日本軍第一艦隊からでも観測できた。


 第一艦隊旗艦『播磨』から、南雲中将は渋い顔になった。


「敵は、中部太平洋海戦で使った熱線武器を用いたに違いない」


 敵戦艦から放たれた必殺の攻撃は、当時『武蔵』を大破させ、戦艦『安芸』『甲斐』を一撃で葬り去った。


 今の日本艦には、防御障壁が装備されているから、敵が発射の兆候を見せれば即時阻止できる。だが、そういった防御手段のない米艦隊では狙われたら終わりだろう。

 高柳参謀長は唸った。


「いきなり三つ……。三杯やられたとなると、アメリカも厳しいですな」

「うむ。しかし我々も余裕があるわけではない」


 南雲が見守る中、『播磨』の46センチ砲が火を噴く。ここにきて、彼が思い描いたものと異なる様相を呈している。


 第一。敵主力は、第一艦隊との同航戦に乗らなかった。丁字からの反航戦。敵はすれ違うほうを選択したらしい。正面から相手が倒れるまで撃ち合いをする、そのつもりは薄いようだった。


 第二。敵は戦艦に弾着観測機ではなく、戦闘機を載せてきた。日本側は、弾着観測機を飛ばし、魔力誘導による命中率向上を狙ったが、異世界帝国は、戦艦にも戦闘機を載せて、砲撃戦時の弾着観測を妨害することを選択した。


 制空権を奪われれば、観測機は飛べないから、戦闘機を載せてくるという判断。おかげで第一艦隊側の各戦艦観測機は、敵戦闘機のせいで観測のベストポジションから追い払われ、待避を余儀なくされた。


 ――潔し、というべきなのだろうか。


 後衛の空母から、戦闘機の応援を要請したが、敵を追い払うまでにしばし時間がかかりそうだ。

 第一艦隊戦艦群の周りに、敵砲弾が降り注ぐ。高々と噴き上がる水柱。しかし、命中弾はない。


 対して第一艦隊側の砲弾は、ぼちぼち命中しているものの、敵戦艦も砲撃の隙間を防御障壁で守っているようで、有効弾は与えられていない。


「これは長丁場になりそうですな」


 高柳は嘆息した。


「互いに防御障壁があっては、中々仕留められない」

「うまく敵の砲撃の瞬間に着弾すれば――」


 南雲が言いかけた時、それは起きた。


『敵四番艦に着弾! 艦中央に黒煙を確認!』


 見張り員の報告。その砲撃の瞬間に、障壁の隙間を衝いた命中弾があったようだ。艦内が一瞬沸きかけるが、すぐに別の知らせが舞い込む。


『敵一番艦の前方にて、発光!』

「ん?」


 南雲は訝る。高柳も眉をひそめた。


「例の熱線兵器ですか?」

「各艦に、防御障壁を即時展開。敵の熱線に備えよ」


 南雲の判断は早かった。マーシャル諸島攻略時においても、その判断で自身が率いる甲部隊は損害を逃れ、逆に乙、丙部隊はやられた。


 敵戦艦が装備する熱線兵器は、戦艦さえ轟沈させる威力があるが、防御障壁ならば一撃は確実に防げる。敵戦艦といえど、エネルギーの消耗の激しい熱線兵器は連射はできないから、一撃さえ凌げれば問題はない。


 ……はずだった。

 その瞬間、障壁に光がぶつかった。そして障壁を抜けて、敵弾が『播磨』に連続して着弾した。二回か、三回か。


「なっ、なにっ!?」


 7万トンを超える『播磨』の巨体が震えた。


『艦首、および艦尾に命中弾!』

「馬鹿な!? 防御障壁を抜けたというのか! ――艦長!?」

「障壁は間違いなく作動していました」


 播磨艦長の崎山少将の報告に、第一艦隊司令部は騒然となる。敵の光弾は防御を貫通したのだ。


「熱線兵器とは違う……。長官、敵の新兵器では!?」


 高柳は言う。南雲は空いた口を閉じた。


 防御を抜けてきたのは問題だが、例の熱線兵器であったなら、今頃『播磨』は大破ないし撃沈の憂き目にあっていた。だが幸いなことに、そこまで甚大な被害を受けたわけではない。


『「遠江」に着弾! 艦中央に被弾の模様!』


 今度は、『播磨』に続く二番艦の『遠江』に攻撃が当たったようだ。おそらく防御障壁は展開していただろう僚艦に。


「ただの砲撃ではないぞ。何の攻撃だ? 確認急げ!」


 怪しいのは、敵一番艦――A型とも甲型とも呼称されるオリクト級戦艦――その前に浮かぶ謎の発光。それが光った数秒後に、被害が出ている。


「あ、また――」


 オリクト級戦艦より数隻分離れたところで発光。そしてその数秒後――


『「土佐」被弾!』


 今度は『遠江』に後続する第三戦隊、その先頭艦である『土佐』に命中した。ここまで確実に当ててきているようで、命中率が凄まじく高い。


「一体何なのだ……」

『光弾を観測。敵は戦艦主砲級の威力を持った光弾兵器と思われます』


 あの謎の光は、この光弾に違いない。威力は、戦艦を一撃で轟沈させる威力ではないものの、恐るべき命中率を誇り、防御を抜けてくる効果があるようだった。


 日本海軍でも、巡洋艦級の光弾砲を開発したが、あれとも異なるようだ。問題は、それが戦艦主砲並みの威力があることだ。当たりどころによっては、一発で戦闘力や航行力を奪われる可能性があり、最悪沈没もあり得る。


「第一、第三戦隊は、あの謎の発光の位置から、そこに敵艦がいると想定。砲撃を集中せよ!」


 敵は他の戦艦と違い、まだ透明で姿を隠している――南雲はそう判断した。姿を隠しながら光弾を放ち、こちらを混乱させようというのだ。事実、混乱しかけている。謎の攻撃、正体の見えない敵。姿が見えないと言っても幽霊ではない。そこを攻撃すれば、何かに当たるはずだ。


『「天城」に命中弾! 二番砲塔が吹っ飛んだ模様!』


 敵は攻撃を続けている。その発光場所も観測されているはずだ


「敵が見えないという困難な状況であるが、見たところ、敵はフネだ。そしてそこにいる。山勘でもよい。砲弾を撃ちまくり、化けの皮を剥がしてやれ!」


 水雷屋としての闘志か、航空戦と打って変わって覇気に満ちた南雲である。


 被弾し、煙を引く『播磨』『遠江』以下、『土佐』『天城』『紀伊』『尾張』の主砲が、見えない、しかしいると思われる光弾兵器装備艦艇へと向けられる。


 弾着観測機が使えればよかったのだが、まだ上空には妨害の敵機がいて、上空からの光弾の発生座標の確認ができずにいた。


 だが待っていられない。その間にも、味方への被害が出ているのだから。

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