第三二〇話、米戦艦群、砲撃開始
日本海軍第一艦隊が、異世界帝国艦隊と砲戦を開始する直前、米第三艦隊も、敵別動艦隊との戦闘準備に入っていた。
●アメリカ海軍第三艦隊・第四群+増援
戦艦:『ニュージャージー』『サウスダコタ』『インディアナ』『ワシントン』
:『バーモント』『ノースダコタ』『ネブラスカ』
重巡洋艦:『ミネアポリス』『クインシー』『ヴィンセンス』『ウィチタ』
:『ボルチモア』『ボストン』『キャンベラ』
軽巡洋艦:『ブルックリン』『ナッシュビル』『セントルイス』
:『クリーブランド』『モントピリア』『デンバー』
駆逐艦:23
戦闘前の敵潜水艦部隊の襲撃により、戦艦『オレゴン』が被雷により速度低下、脱落し、駆逐艦4隻が撃沈された。残る戦艦は7隻。
巡洋艦は、第一群からボルチモア級重巡洋艦が3隻、第二群からクリーブランド級軽巡洋艦3隻が加わり、第四群のものと合わせて重巡洋艦7、軽巡洋艦6の計13隻となった。
駆逐艦は第四群固有のものが8隻に減っていたが、残る三つの群から5隻ずつ、計15隻が臨時編成され、合計23隻となっていた。
第四群旗艦の戦艦『ニュージャージー』。太平洋艦隊戦艦戦隊司令官、ウィリス・A・リー中将は、第二次ハワイ沖海戦の雪辱の機会を待っていた。
敵守備艦隊の旧式戦艦戦隊を相手に手間取った挙げ句、駆けつけた敵太平洋艦隊主力、その大兵力を前に、撤退を強いられたあの日。味方の損害なく、無事に艦隊を帰投させたものの、本国の一部からは撤退判断が早かったのではないか、と非難もされた。
そんな声に対して、司令長官であるニミッツ大将は、彼我の戦力差を見抜き、即時撤退を判断したリーの決断を褒めた。
当時、大西洋艦隊からの借り物も多かった中、感情的に走らず、合理的な判断を下したことを、高く評価されたのだ。
ただ、リーとて好きで撤退したわけではないのが本音であり、できることならば、異世界帝国艦隊を自らの戦艦部隊で打ち破りたいと思っていた。
第三艦隊戦艦部隊は、透明の衣から抜け出て姿を現した異世界帝国艦隊へと舳先を向ける。
「敵戦艦は6隻! Bタイプバトルシップの模様」
見張り員の識別結果に、リーは眉間に皺を寄せた。
「また、Bタイプか」
第二次ハワイ沖海戦の際、敵の守備隊と遭遇したが、その時の相手が、13.5インチ――34.3センチ連装砲六基搭載の格下、ヴラフォス級戦艦であった。砲撃戦に乗るフリをして逃げに徹していたため、砲撃が当たらず、イライラさせられた。
「さすがに前とは違うと思いたいが、この艦隊を早々に撃破して、主力と戦っている日本軍を支援してやれねばな」
あちらは、45センチ砲搭載戦艦のハリマ型2隻を含む10隻の戦艦を主力としているが、数の上では敵主力がやや多い。早々と合流したほうが、味方の損害少なく勝つことができるだろう。
そう考えると、この異世界帝国旧式戦艦群は、合衆国戦艦群の足止めを図り、日本軍と合流させないように動く可能性が高いと思った。
「戦いの主導権はこちらにある! 戦艦戦隊は面舵を取りつつ、日本艦隊側へ機動。敵が合流を阻止する意図の部隊ならば、付き合わざるを得ない!」
逃げ回られて、追い掛けると敵の思う壺。ならば敵に追い掛けさせる。速度面では互角ならば、逃げたり回避運動を取れば、その分、米艦隊から引き離される。そうさせないためには、敵の追跡は単調な動きになるだろう。
「敵戦艦は3隻ずつの横陣を二列で形成しつつ、本艦隊に直進しつつあり!」
先頭に3隻、その後ろ、陰に隠れるように残り3隻がついてくる陣形だ。敵が単横陣を作りがちな組織であるから、つい横陣と報告されたが、三列の縦陣と見ることもできた。
「敵がこちらを追尾しようとするなら、陣形は、自ずと単縦の同航戦となるだろう。『ニュージャージー』と『サウスダコタ』は、向かって右の先頭艦を狙え。『インディアナ』『ワシントン』は、中央列、『バーモント』『ノースダコタ』『ネブラスカ』は残る列の先頭だ」
7隻の戦艦に攻撃目標を割り振る。アメリカ戦艦戦隊の主砲が一斉に左へと回頭。アイオワ級戦艦2番艦『ニュージャージー』は、Mk.7 50口径16インチ(40.6センチ)三連装砲を、敵ヴラフォス級戦艦、その先頭艦に向けた。
アメリカ海軍戦艦の中で、最新のアイオワ級の持つ主砲は、口径が大きい分、他の米戦艦主砲に比べて一段攻撃力に優れる。唯一、最高速度での主砲発射の際にやや安定性と命中精度を欠く欠点もあるが、他の戦艦の速度である27、28ノットに合わせている分には問題はない。
『敵戦艦より、航空機が射出――戦闘機の模様!」
新たな報告。どうやら敵は弾着観測機を飛ばされた時にそれを妨害するために、戦闘機を用意していたようだ。空母がないので、その数はたかが知れているが、戦闘機が相手となれば軽武装の観測機など一溜まりもない。
「構うな。レーダー射撃で対応する」
レーダーで位置を掴み、射撃に活用するので観測機はなくても問題ない。
「目標捕捉、射撃準備完了!」
「撃て!」
戦艦『ニュージャージー』の三基九門の主砲が火を噴いた。雷鳴の如き轟き。そして後続する『サウスダコタ』『インディアナ』が45口径40.6センチ三連装砲を発射した。
7隻の戦艦が放った砲弾は、列先頭のヴラフォス級戦艦に集中する。水柱が連続してそそり立ち、さながら夾叉したようにも見えた。
「敵、先頭艦、一斉回頭! 取り舵……同航戦に移る模様!」
報告を受けたリーは頷いた。思った通りである。だが――
「敵後続艦、発光!」
見張り員からもたらされたそれは、戦艦クルーたちを困惑させた。
「発光――!?」
前にいた敵戦艦3隻が動いたために、後ろの戦艦の甲板が光っているのが見えた。そして次の瞬間、その光が、米戦艦戦隊の列に割って入った!
「っ!?」
言葉にならなかった。敵戦艦3隻から放たれた熱線は、単縦陣の2、4、6番目を進む戦艦に直撃した。
装甲を溶かし、その艦体を抉るような熱線は、瞬く間に破裂するかのような大爆発となった。
『ニュージャージー』の後ろを行っていた『サウスダコタ』が熱線に押されたようにズレ、中央から後部が吹っ飛んだ。飛び散る破片と炎、凄まじい爆炎はさながら火山の噴火のようだった。
しかし、『サウスダコタ』はまだマシだった。4番艦に位置していた『ワシントン』、6番艦の『ノースダコタ』は爆発と共にその姿が見えなくなり、一瞬で轟沈してしまったのだから。