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第三一九話、艦隊、対峙す


 ムンドゥス帝国太平洋艦隊旗艦『アルパガス』。ヴォルク・テシス大将は、日本と米、双方の艦隊を視覚に捉えていた。


『潜水艦隊、雷撃を敢行するも、日本艦隊に命中弾なし。米艦隊、戦艦1隻に命中、戦列を離れ、駆逐艦4隻撃沈』


 潜ませていた潜水艦部隊による襲撃の結果報告を受け、テシスはニヤリとする。


「さすが日本海軍。対潜能力は、この世界でも随一のようだ」

「敵は、潜水艦用の誘導魚雷を使用している模様です。反撃が早いはずだ」


 テルモン参謀長が言えば、テシスは口を開いた。


「それと対魚雷用の防御砲弾だな。あれが潜水艦雷撃から艦を守っている。こちらが誘導魚雷を使おうとも、あれで防がれてはしょうがない」


 米軍は、及第点。しかし日本軍相手には残念としかいいようがない結果となった。


「敵駆逐艦の燃料を多少減らしたと思うことで納得しよう」


 燃料搭載量が少ない駆逐艦は、とかく戦闘となれば高速で走り回る。消費も増えれば、後々思わぬ足枷にもなり得るのだ。たとえば、敵から逃げる時や、逆に追撃しようとしている時など、で。


『本艦隊、日本艦隊までおよそ3万2000にまで接近』


 すでに戦艦部隊の主砲の最大射程内に、テシス大将の帝国艦隊は踏み込んでいる。遮蔽魔法により、姿を消したまま、艦隊は前進している。


『別動隊、米艦隊に、およそ3万の距離に到達!』

「長官、そろそろ、艦隊の遮蔽効果が切れます」


 グレガー作戦参謀が、腕時計を確認しながら告げた。

 ムンドゥス帝国太平洋艦隊の艦が姿を消しているのは、遮蔽と呼ばれる魔法効果であるが、プネヴマ部隊という、強力な魔術師が使っている遮蔽と違い、艦隊配備の量産型遮蔽は、時間制限があった。


「もう少し、距離を詰めて、驚かせてやりたかったのだがな。本艦『アルパガス』を除く、艦隊全艦に、遮蔽効果切れと共に戦闘行動に移るよう指令」


 旗艦『アルパガス』は、プネヴマ部隊と同様、遮蔽に余裕があるが、他はそうはいかない。ここで姿を現せば、すぐさま日米艦隊とも戦闘に突入することだろう。彼らもまた、艦隊決戦を求めて、ここまで来たのだから。



  ・  ・  ・



「――! 艦隊正面に、艦艇出現っ! あ、あれは、異世界帝国戦艦!」


 見張り員の報告が、第一艦隊旗艦『播磨』艦橋に響いた。南雲も素早く双眼鏡を覗き込む。

 姿を消していた敵艦隊は、魔法による透明化で、本当にここまでやってきたのだ。


「合戦準備! 敵戦艦部隊に砲撃戦を仕掛ける!」


 正面海域に次々と、異世界帝国艦艇が姿を現す。まるで転移しているように前から順番に現れ、それらが艦種ごとに隊列を組んで向かってくる。

 第一艦隊も、それを迎え撃つべく、旗艦『播磨』を先頭に単縦陣へと移行する。



●第一艦隊(第二機動艦隊・前衛艦隊)

 第一戦隊(戦艦):「播磨」「遠江」

 第三戦隊(戦艦):「土佐」「天城」「紀伊」「尾張」

 第四戦隊(戦艦):「長門」「陸奥」「薩摩」「飛騨」


 第十三戦隊(重巡洋艦):「阿蘇」「笠置」「身延」

 第十二戦隊(重巡洋艦):「吾妻」「六甲」「蔵王」「磐梯」

 第十七戦隊(重巡洋艦):「最上」

 第二十一戦隊(軽巡洋艦):「高瀬」「渡良瀬」「浦野」


第一水雷戦隊:(軽巡洋艦)「阿賀野」

 第六駆逐隊  :「響」「雷」「電」

 第二十一駆逐隊:「初霜」「若葉」

 第二十四駆逐隊:「海風」「五月雨」「山風」

 第二十七駆逐隊:「時雨」「夕立」


第三水雷戦隊:(軽巡洋艦)「揖斐」

 第十一駆逐隊 :「朝霜」「秋霜」「早霜」「清霜」

 第十五駆逐隊 :「初秋」「早春」

 第十九駆逐隊 :「霜風」「朝東風」

 第四十四駆逐隊:「樫」「榧」



「敵戦艦は、甲型が先頭!」


 40.6センチ砲を搭載する異世界帝国の主力戦艦である。旗艦級戦艦のような43センチや45センチ砲を積んでいる型ではない。

 見張り員に続き、電測室からの報告が上がる。


「敵戦艦は11! 巡洋艦20、駆逐艦およそ30の模様」

「戦艦11?」

「確か、敵戦艦は18隻だったはず」


 高柳参謀長は唸った。南雲は視線を米艦隊のある北寄りに向ける。


「あれか。……残りは、米艦隊に向かったか」


 北に、もう一群艦隊が現れる。遮蔽から、異世界帝国艦隊の残りが出てきたようだ。


「米第三艦隊より入電。敵戦艦6、巡洋艦十数隻、駆逐艦30を捕捉。我、これを迎え撃つ」


 米艦隊もまた、自分たちの正面に現れた敵に対処するようだ。敵もちょうど戦力を二分した。


 隻数でいえば、第一艦隊が対峙している敵戦艦は1隻分多いが、『播磨』『遠江』に対抗できる46センチ砲搭載艦はいない。


 他、『土佐』からの8隻は41センチ砲を装備し、敵甲型戦艦――オリクト級と互角以上に渡り合える。

 しかも敵には、34.3センチ砲の乙型戦艦が半数を占めているから、アメリカの新戦艦群が対峙しているのが、それとなる。


 アメリカ海軍8隻の戦艦のうち、6隻が40.6センチ砲、2隻が38.1センチ砲なので、火力の面では乙型を凌駕している。まともに戦えば、米艦隊が、敵戦艦を圧倒し、余裕があれば、第一艦隊を援護してくれるだろう。

 結果、敵は各個撃破されるのだ。


 気掛かりは、やはり敵の巡洋艦と駆逐艦の数の差。第一艦隊側は重巡洋艦8、軽巡洋艦5、駆逐艦20と劣勢である。


「敵戦艦、単縦陣にて接近中!」


 単縦……? 訝る南雲。高柳は頭を傾けた。


「珍しいですな。これまでの敵戦艦は横陣で向かってきましたが」

「ここにきて、地球の流儀に染まったのかもしれないな。第一、第三、第四戦隊、面舵!」


 南雲は命じた。敵艦隊に対して、丁字戦法が仕掛けられるよう戦艦群を機動させる。おそらく敵は変針し、同航戦に乗ってくるだろう。そこで戦艦同士の撃ち合いだ。


 敵巡洋艦と駆逐艦に対しては、こちらの巡洋艦と水雷戦隊も迎撃する形で応戦。誘導魚雷や誘導弾による遠距離からの攻撃で、敵を脱落ないし戦闘力を奪うことになるだろう。


 中部太平洋海戦では、第二艦隊司令長官として艦隊を突撃させた南雲である。今回は、主力戦艦部隊である第一艦隊を率いた大海戦である。あの戦いの再来を誓い、双眸を輝かせる。


「目標、敵先頭艦!」


 戦艦『播磨』の46センチ三連装砲が、左舷に指向、砲身を持ち上げる。距離2万8000。観測機はすでに射出済。それぞれ弾着観測位置につく。


「砲撃準備よし!」

「撃ち方はじめっ!」


 播磨型戦艦の主砲が黒煙を噴き上げて咆哮する。後続戦艦も次々に主砲を発砲した。

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