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第三〇六話、囮空母と奮戦する第二機動艦隊


 異世界帝国航空隊E群との交戦の末、航空隊G群、およそ400機が、第二機動艦隊に到達した。


 この時、甲型海氷空母の搭載機であった業風戦闘機は、燃料が不足し、弾薬をほぼ使い切ったため、後方の第一機動艦隊が残した乙型海氷空母へ、後退していた。


 第二機動艦隊の直掩隊もまた連戦に参加のため、機が不足していた。……第一機動艦隊が、戦闘機隊を残してくれていなければ。


 第一機動艦隊が、第二機動艦隊の援護に残した零戦五三型は123機。これらは、第二機動艦隊に襲い掛かる敵航空隊G群の前に立ち塞がる。


『敵航空機群、艦砲の有効射程範囲に入りました!』


 第二機動艦隊前衛、戦艦『播磨』。第一艦隊司令長官である南雲忠一中将は、号令を発した。


「敵の狙いを前衛に引きつける! 第一戦隊、一式対空障壁弾! 一斉射!」

「てぇー!」


 前衛の戦艦群、戦艦『播磨』『遠江』が46センチ三連装砲四基十二門を放った。

 第三戦隊の『土佐』『天城』『紀伊』『尾張』、第四戦隊『長門』『陸奥』『薩摩』『飛騨』も41センチ砲を発射。


 それらは敵編隊の前で、巨大な光の障壁を張った。ガラス窓に虫が激突して潰れるが如く、突然の光の壁の出現に回避しきれず、十数機のヴォンヴィクス戦闘機が激突した。


 戦艦級の巨大障壁を前に、異世界帝国機は、光に触れないように大きく迂回を強いられる。


 そうして集団が崩れたところに、直掩戦闘機隊が突っ込んだ。零戦五三型が被さるように飛び込んできて、12.7ミリと20ミリの銃弾で蜂の巣になったヴォンヴィクス、ミガが煙を吐いて落下していく。


 異世界帝国機も機銃や光弾で反撃。片翼をもがれてスピンするもの、コクピットごと胴体を破壊され、四散する零戦。激しい空中戦が展開される。


 しかし、数に任せて飛来する敵機の大群は、まるで押し寄せる水のようであり、素手で全てを受け止められないように、防空網をすり抜けていく。


「敵攻撃機、海氷戦隊に接近!」

「対空戦闘! 撃ち方始め!」


 前衛の空母群に、異世界帝国航空隊が迫り、護衛の戦艦、巡洋艦、駆逐艦から、いかにも守っています、とばかりに対空砲火が打ち上がる。


 高角砲から放たれる一式障壁弾による壁が、力士の張り手の如く、敵機を叩き潰す中、回避運動もなく、直進する甲型海氷空母に、迎撃を突破したヴォンヴィクス戦闘機が機銃と光弾砲の掃射を仕掛ける。


 海氷空母もまた、二十ミリ自動機銃にて反撃するが、この距離では双方攻撃が届く距離であり、自艦への損害も免れない。しかし、もとより氷もどきであるI素材の塊である甲型海氷空母である。敵の攻撃が集中するのは、被害担当艦としては本望だ。


「敵航空隊、海氷戦隊甲、ならびに乙に攻撃を集中!」


 見張り員の報告に、南雲は口を開く。


「300メートルの巨体だ。そりゃ目立つよなぁ……!」


 あくまで飛行甲板はあれど、空母としては飾りも同然の甲型海氷空母である。発着艦能力を喪失しようが、痛手はない。

 護衛というより、引き寄せられた敵機を撃墜する役割の戦艦、巡洋艦側としては、海氷空母が致命傷を負うことになっても、責任を持つ必要もなく、気は楽である。


「とはいえ、きちんと囮を生かして、これからも敵の攻撃を吸収してもらわねば困る。各艦は、自艦を守りつつ、敵機の撃退に全力を尽くせ」


 いくら囮空母とはいえ、それを守ってやられては本末転倒。あくまで戦力を残すための被害担当艦である。


「軽巡『渡良瀬』、取り舵。雷撃を回避した模様!」

「『海氷2』の左舷に水柱! 魚雷が命中!」


 見張り員の声が相次ぐ。高角砲、対空機銃の音があたり構わず木霊し、兵たちを混沌へと誘う。

 高柳参謀長が言った。


「しかし……制空隊が奮戦しているとはいえ、敵の攻撃も中々激しいですな。陣形もかなり乱れているように思います」

「回避運動しながらの戦闘だ。やむを得ない」

「対空砲火の密度のムラがあります。米海軍は、個艦での回避運動を取らないと聞きますが」

「正気を疑った」


 南雲は眉をひそめた。


「自分のところに魚雷がきても避けない、とは。駆逐艦なら真っ二つだぞ」


 日米合同の作戦とあって、互いの戦術や陣形交流をしたが、対空戦闘に関するシステムが日米でかなりの違いがあった。


 日本海軍は陣形を崩してでも回避を選択し、自艦の戦闘力を確保しようとする。それにより艦隊全体の対空砲火に隙間ができようともだ。日本は貧乏なので『やられてはいけない』という、強迫的なもったいない精神がなせる業かもしれない。しかし中には、逆に重要護衛対象を守るために、自ら盾になる機動をとることもある。


 一方で、米海軍は陣形を維持し、一斉回頭はすれど、単独では絶対に陣形を崩さない。そうすることで対空砲火の密度を維持するのだ。

 考え方の差、違いである。


「敵機、一部が後衛へ向かいつつあり!」

「なにっ! 制空隊は何をやっている!?」


 攻撃を引きつけるのが前衛部隊だ。後衛部隊には、装甲の弱い空母の他、連合艦隊旗艦である『敷島』がある。山本長官の旗艦にも敵機が迫る。



  ・  ・  ・



 戦闘機を避けていたら、一部の異世界帝国の航空機が、後衛部隊のほうへ流れた。前衛艦隊へ取り付けずにいたら、後ろに別の空母機動部隊がいた。


 ならばそれを攻撃しよう――という流れだ。直掩機が前衛に集中していたのも、彼らを後衛攻撃へと駆り立てた。中型、小型の空母だろうが、攻撃対象には違いない。


 しかし、大型戦艦に守られた中型空母群の上空には、最強の戦闘機が待ち構えていた。

 異世界パイロットたちにとっては初めて見る日本軍の新型機だ。


 烈風艦上戦闘攻撃機――それが、異世界帝国機に対して、風のように切り込んだ。


「かかれ! 旗艦と空母をやらせるな!」


『敷島』戦闘機隊、第一中隊第二小隊長である鳥井 武志中尉は、列機を率いて、異世界帝国の戦闘機へダイブする。


 烈風への機種転換を命じられ、第一機動艦隊、三航戦の空母『翠鷹(すいよう)』から、そのまま『敷島』に配属されて、ハワイ近海の空にいる。


 照準に敵を捉え、射撃。烈風の両翼の20ミリ口径の光弾砲4門が光を放つ。かつてのションベン弾と言われた零戦の20ミリ機銃とは違い、狙ったところに吸い込まれる光弾は、あっさりと敵戦闘機を撃ち抜き、爆散させた。


 このスピードも凄まじい。爆発四散した敵機は、あっという間に後ろに流れていった。時速700キロに近かったのではないか、と鳥井は思う。突っ込みの速度の速さは、もはや零戦とは別物だ。仮に武器が光弾砲ではなく、20ミリや12.7ミリ機銃だったなら、このスピードのすれ違いざまに当てられたか、少し自信がなかった。


 降下から一転、上昇しつつ旋回。すると烈風の主翼の形状が大きくなり、速度と引き換えに小回りの効く旋回を行う。最高速度は上がっているのに、この小回りは零戦五三型にも劣らない。


「やっぱりこいつは、凄い機体だ……!」


 強い抵抗を感じさせない、素直にパイロットの動きに従う機体だ。鳥井は、次の敵機を視界に収めると、瞬く間にその後方に回り込む。照準の中の敵機の姿勢で、未来位置を予測し、そこに光弾を撃ち込む。敵攻撃機は真っ二つになって、それぞれ墜落した。


 第二機動艦隊後衛部隊に迫る敵機は、27機の試製烈風を中心とした制空隊により蹴散らされるのである。

・試製烈風艦上戦闘機

乗員:1名

全長:9.38メートル

全幅:12.22メートル

自重:1930キログラム

発動機:中島『誉』二二型、空冷2000馬力

速度:689キロメートル

航続距離:1960キロメートル

武装:20ミリ光弾砲×4 ロケット弾×6もしくは、小型誘導弾×4

その他:一七試艦上戦闘機として設計された戦闘機。当初は零戦の後継機として開発されていたが、魔技研の技術を投入し、戦闘爆撃機としても運用できるようになった。高速性能と格闘戦能力の両立のため、魔力で主翼の形状が変更される可変翼を採用。高速時は小さく、低・中速度では主翼を大型化することで高い運動性を発揮した。武装は20ミリ機銃と光弾砲の混成が予定されたが、対地・対艦掃射能力を高めるため、光弾砲4門を主翼に装備した(可変翼と光弾砲の装備の影響で、陸軍の新鋭戦闘機に見られる主翼にマ式エンジンを載せる形式は採られなかった)。防御面では魔法防弾の他、戦闘機用の低硬度防御壁シールドを展開可能。

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