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第三〇四話、日米防空戦闘


 異世界帝国攻撃隊B群は、日本海軍第二機動艦隊に迫っていた。


 主力戦闘機ヴォンヴィクスとミガ艦上攻撃機、282機は、70機前後のグループが固まって群を形成していた。


 これらに真っ先に切り込んだのは、甲型海氷空母群から発艦した業風(ごうふう)戦闘機隊300機だった。


 1隻あたり50機、6隻の海氷空母から計300機。本来は40機搭載を基本としていたのだが、今回のハワイ作戦において、想定定数を10機ほどオーバーして積み込んでいる。

 格納庫のない海氷空母の飛行甲板に駐機されていた業風(F6F)は、全てコア搭載型の無人機である。

 これらは戦場指揮官機である彩雲偵察機からの誘導を受けて、迎撃第一陣として、一番最初に投入された。


 ずんぐりした熊ん蜂のような業風は、600キロ超えのスピードで切り込み、編隊ごとに異世界帝国機に一撃離脱を仕掛けた。

 ヴォンヴィクス戦闘機が業風を迎撃するが、戦闘機でカバーできる以上の数がなだれ込んできたから、ひとたまりもなかった。


 何せ、迎撃側のほうが数が多かったのだ。B群が数の暴力で追い回されてしばし、異世界帝国の後続航空隊が、戦場に迫った。


 C群、およそ400機だ。

 しかし、短時間でB群を片付けた海氷空母群の業風隊は、さらにC群へと群がる。こちらもヴォンヴィクス戦闘機に加え、エントマ高速戦闘機が迎え撃つ間、ミガ攻撃機が、第二機動艦隊を目指した。


 が、ここで、第二機動艦隊の戦闘機隊が襲いかかった。

 第二航空戦隊の業風72機、四航戦、六航戦、十航戦の零戦五三型63機、計135機が、少数の戦闘機に守られた攻撃機150機に銃弾の嵐を見舞った。


 先陣を切った業風が12.7ミリ機銃の雨で、敵戦闘機を散らし、艦攻の編隊を崩させたところで、各空母9機ずつの編隊を組んだ零戦が、散開した敵機めがけて突っ込み、20ミリ、12.7ミリの機銃弾を叩き込んだ。


 必死に回避しようとするミガ攻撃機だが、零戦五三型の低速度での運動性の前には、食らいつかれたら最後、逃げ切れずに撃墜されていった。


 第二機動艦隊は、B群に引き続きC群を、艦隊にたどり着かせることなく、撃破に成功した。


 だが、続くE群250機が南寄りから、空域に到着する。


 迎撃でもっとも外縁を担当していたコア型無人の業風が、まず切り込んだ。しかし先の戦闘で編隊がかなりバラけており、また、被弾、損傷した機も少なくなかったため、前二波との戦いのような勢いはなくなりつつあった。


 外縁を突破した敵編隊に、第二機動艦隊制空隊が迎撃に当たる。こちらも前回より敵の戦闘機が多かったために、勢いを完全に止めるまでにはいかなかった。

 異世界帝国攻撃隊が、第二機動艦隊に迫る。



  ・  ・  ・



 日本機動艦隊が、敵攻撃隊を撃退していた頃、アメリカ海軍第三艦隊にも、異世界帝国攻撃隊が迫っていた。


 第三群、旗艦『レキシントンⅡ』に座乗する航空部隊指揮官であるマーク・ミッチャー中将は、司令長官であるスプルーアンスから、航空戦の指揮を一任されていた。


『敵攻撃隊、ピケットラインを通過。識別ゾーンより、撃滅ゾーンへ侵入!』


 艦隊前方に配置されたレーダーピケット艦による索敵で、敵攻撃隊の規模はおおよそ確認できていた。日本海軍の偵察部隊から逐次報告は入っていたが、合衆国海軍自前の警戒網からの報告は、それを裏付けるものであり、確信に変わる。


「CICへ。防空戦闘機隊を指向。撃滅ゾーンに入った敵から、アタックだ」


 ミッチャーの指示は、CIC――コンバット・インフォメーション・センター=艦艇戦闘情報処理センターに飛ぶ。


 情報処理、防空戦の指揮、その他統括活動が行われている部署だ。レーダーによって探知された目標の、敵味方の識別の他、味方戦闘機隊を無線電話による指示、誘導が実行される。


 刻々と移り変わる戦場。敵編隊の位置、速度、高度が逐一、艦隊に知らされ、空母を守る護衛艦が対空射撃の準備を進める。


 そして、いよいよ防空戦闘が開始された。11隻の空母から発艦したF6Fヘルキャット戦闘機が、各飛行隊ごとに、敵攻撃隊に攻撃を開始した。


 高速を活かしてのダイブアタック。優位な位置からの攻撃が、異世界帝国攻撃隊をバラけさせる。12.7ミリ機銃も猛射を受けて、爆発、あるいは煙を引いて墜落していく異世界帝国機。


 ヴォンヴィクス戦闘機がF6Fに挑み、ミガ艦上攻撃機がそれを迂回しつつ、アメリカ艦隊を目指そうとする。


 だが、その動きは常に捕捉されている。別のF6Fの編隊が、迂回した異世界帝国機の側面から襲いかかった。胴体に銃撃を受けて、煙を引くミガ攻撃機。当たり所が悪く爆散する機もよそに、さらに分散する異世界帝国機。


 しかしCICは、それを見逃さない。戦闘機隊を誘導し、艦隊に迫る敵を漏れなく撃墜していく。F6Fは一撃離脱を中心に仕掛け、敵戦闘機の巴戦にはあまり乗らなかった。遮二無二に艦隊を目指す敵を攻撃機編隊と判断すると、航空管制官はF6F編隊に後方から仕掛けさせ、あっという間に蹴散らさせた。


 CICからの誘導がはまり、敵攻撃隊A群は、撃滅ゾーンにてほぼ撃退され、残存機が這々の体で逃げていく。


 第一波の撃退に成功。しかし、追撃の余裕はない。敵D群、およそ450機が迫っていたからだ。


 すぐさま戦闘機隊は再集結を図り、次に備える。しかし今回は数が多い。第一波迎撃の段階で、返り討ちにあった機体や被弾、離脱した機体もある。


「防空警報シフト、イエローからレッドへ」


 対空脅威、迫る。防空戦闘機隊でも、おそらく全て防ぎ切れない。艦隊各群の対空陣形と、それに伴う発砲指示が飛ぶ。


「対空射撃・制限フリー」


 味方と識別した機体以外のすべての対空目標に対する発砲許可が下りる。着々と敵機襲来に備える中、撃滅ゾーンに侵入した敵D群に、防空戦闘機隊が順次仕掛けていく。


 第一波、第二波、第三波と、敵集団に一撃を与えて、その塊を崩していく。米戦闘機を迂回しようと機動する編隊に対して、機数が少なめの味方編隊を誘導、高空や側面、背後から一撃離脱をかけさせる。


 敵戦闘機はともかく、攻撃機乗りたちは、行く先々で、ネイビーブルーの熊ん蜂が待ち伏せしているように見え、生きた心地がしないだろう。


 米防空戦闘機隊は奮戦したが、やはり数の差で抑えきれず、異世界帝国機が戦艦部隊である第四群、そして第二群の最終交戦ゾーンに接近した。もうここまで来ると、味方戦闘機隊は追撃しない。


「各防空セクター。侵入機を捉え次第、対空射撃を開始せよ」


 アメリカ海軍の防空陣形において、射撃を担当するエリア――セクターはそれぞれ定められている。自分の受け持ち場以外の敵機に対しては、一切発砲しない。だから受け持ちセクターに入ったら、全力で火力を集中する。


 5インチ両用砲、40ミリ機関砲、20ミリ機銃が唸りを上げて、空へと伸びる。その対空射撃の密度は、おそらく地球の各海軍の中でも最高峰だろう。激しい弾幕が、突っ込んでくるミガ艦上攻撃機を絡め取り、海面へと誘う。炸裂する砲弾の煙が、空を、絵の具をぶちまけたキャンバスのような有様に変えた。

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