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第三〇二話、肉薄する米攻撃隊


 ハワイ近海で、様々な航空隊が、それぞれの攻撃目標に向かって進撃していた。


 まず最初に戦闘に突入したのは、ムンドゥス帝国太平洋艦隊主力へ向かっていたアメリカ海軍第三艦隊航空隊だった。


 後衛空母群の空母戦力が壊滅した異世界帝国艦隊だったが、前衛である主力艦隊には、軽空母が6隻あって、その全戦闘機が発艦した。


 また、艦隊後方、海氷泊地からもヴォンヴィクス、エントマ戦闘機が飛来し、艦隊防空を担った。


 先陣切って突っ込むF6Fヘルキャット。ブローニング12.7ミリ機銃が、小刻みな金属音を響かせて、異世界帝国機を貫けば、敵機もまた負けじと12.7ミリ弾や航空機用光弾砲を見舞った。


 グラマン鉄工所とも呼ばれる重厚な米機は、機銃弾の数発には耐えたが、光弾砲の直撃までは耐えられず、翼を吹き飛ばされて錐揉みするもの、胴体が爆発四散するものなど相次いだ。


 これら戦闘機が血路を開いている間、艦上爆撃機SB2Cヘルダイバー、雷撃機TBFアヴァンジャーが、異世界帝国艦隊に迫った。


 前衛として緩やかな降下で接近するのはヘルダイバー。SBDドーントレスの後継であるこの艦上爆撃機は、一回りも大きく、1900馬力エンジンを積んだパワフルな急降下爆撃機だ。速度も増したが、操縦性が悪く、新鋭機ながらパイロットからの評判はよろしくない。


 何より、このご時世、異世界帝国相手に急降下爆撃は取らない。敵艦の真上近くに移動するまでに、敵の正確無比な光弾砲によって撃墜されてしまうからだ。


 今ヘルダイバーが携行しているのは5インチFFAR――前方発射型航空機用ロケット弾だった。日本海軍のマ式のような誘導装置はないが、射程は約1600メートルほどある。


 つまるところ、少しでも敵艦から離れた位置から攻撃を済ませたいわけだが、ぶっちゃけ1600メートル程度では、誤差みたいなものだ。


 異世界帝国戦艦や空母へ向かう攻撃隊だが、巡洋艦や駆逐艦といった護衛艦の対空射撃も激しい。光弾が瞬くたびに、一撃で機体を破砕され、四散するヘルダイバー。数に物を言わせて、異世界帝国艦隊へと突き進む。


 一方で、TBFアヴェンジャー雷撃機は、高度を海面近くにまで低くし、魚雷の投下位置まで移動する。


 こちらも重量機であり、最高時速は436キロメートル。前の機体であるデバステイターがあまりに低性能だったために、あらゆる面でアヴェンジャーのほうが優れているが、やはり異世界帝国の光弾砲の迎撃の前には無力だ。


 しかし、艦上爆撃機隊が先行している分、対空砲火は少なめだ。だがわずかでも光弾砲が分化されてしまうと、恐るべきロシアンルーレットの始まりである。低空飛行、そしてコースを維持するため、急激な回避機動が取りにくい鈍重な雷撃機。艦艇側からでも、弾道が直進するならば当てやすい標的となる。


 瞬けば一撃で、アヴェンジャーは機首からバラバラに破壊され、海面に激突する。狙われたらほぼ終わりだが、アヴェンジャー隊は、ヘルダイバーよりも遠方から攻撃を見舞うことができた。


 懸架するMk13魚雷は、6300ヤード――つまり、5761メートルの射程があったから、艦爆隊より踏み込むことはないのだ。


 光が走るたびに、合衆国のパイロットたちの命が機体もろとも奪われていく。日本に比べて、パイロット資格者が多く、その補充も優れているアメリカ海軍だが、それでも艦爆、艦攻乗りたちの死亡率は高かった。


 死神の鎌の如く、一撃で死をもたらす光弾砲をかいぐぐっても、高角砲や対空機銃が激しくお出迎えをし、犠牲者を増やす。


 だがそれでも彼らは、突き進んだ。ヘルキャット戦闘機隊が、敵戦闘機を押さえ込んでいるおかげで、彼らは対空砲火だけを気にするだけで済んだからだ。


 もしここで、戦闘機にまで迎撃されていたなら、米海軍攻撃隊は、艦隊に近づくこともままなからかったかもしれない。


 そうならなかったのは、やや遅れて突っ込んできた日本海軍第二機動艦隊の攻撃隊が、異世界帝国艦隊に迫ったからだった。


 米戦闘機と戦っていた異世界帝国戦闘機隊も、続く日本海軍攻撃隊を素通りさせるわけにはいかなかったのだ。


 ヴォンヴィクス、エントマが向かってくる中、日本版ヘルキャット――業風戦闘機と、零戦五三型が迎え撃つ。


 業風72機、零戦五三型107機が、敵戦闘機を押さえている間、60機あまりの流星艦上攻撃機隊は、目標を残存する6隻の軽空母に定める。


 米軍は正規空母群を狙っていたようだが、第二機動艦隊から飛び立った日本の流星隊は、最初から、攻撃目標を残存する軽空母としていた。


 敵艦隊からの光弾砲や高角砲に注意しながら、流星隊は10キロ以上離れた場所から、対艦誘導弾を発射した。

 皮肉なことに、流星艦攻隊は、攻撃を受けなかった。肉薄した米海軍航空隊が、対空砲火を一手に引き受ける格好になったからだ。


 米航空隊は、決死の攻撃で、巡洋艦や駆逐艦に被弾、雷撃による撃沈を見舞う。5インチロケット弾、Mk13魚雷を撃ち込めば、日本海軍航空隊の誘導弾もまた、6隻の軽空母に向かった。


 飛翔する小型物体に気づき、グラウクス級軽空母の対空機銃が火を噴くが遅い。軽防御の装甲を1000キロ誘導弾が貫き、派手に爆発、異世界帝国軽空母は爆沈した。


 攻撃隊に同行した彩雲偵察機が、目標としていた敵空母の全滅を確認したことで、第二機動艦隊攻撃隊は、戦場を離脱した。


 残っている敵戦闘機も、母艦がなければ離脱するか、海に着水するしかない。わざわざ追いすがることもなく、業風、零戦隊は、流星艦攻を守りつつ、帰投する。


 この頃になると、米第三艦隊航空隊もまた、攻撃を終えて離脱をした。

 しかし、こちらは目を覆いたくなるほどの大きな被害を受けていた。392機いた攻撃隊は、その半分程度にまで、数を減らしていたのだった。



  ・  ・  ・



 日本、そして米軍機は去った。

 ムンドゥス帝国艦隊旗艦『アルパガス』では、司令長官、ヴォルク・テシス大将が、今回の防空戦闘によって生じた自軍の損害報告を受けていた。


「――被害は、軽空母6隻、駆逐艦3隻撃沈。巡洋艦3隻が損傷乃至大破、駆逐艦2隻が損傷、航行不能であります」

「戦艦の損害は?」

「3隻が、ロケット弾攻撃により、対空銃座などの上部構造物損傷。1隻が魚雷を1本を受けましたが、航行に支障なし。被弾した戦艦も、軽微な損害にて艦隊決戦に影響はほぼありません」

「ご苦労。まあ、こんなものだろう」


 テシス大将は余裕だった。艦隊の制空を担っていた空母がこれで全滅した。しかし、艦隊後方に控える巨大海氷空母によって、エアカバーが可能なのでそこまで深刻ではない。


「やはり、日本海軍は侮れない。米軍は兵器が日本ほど追いついていないために、大きな損害を出したように思える」

「攻撃に向かってきた機体の半数以上を撃ち落としました」


 テルモン参謀長は、口元に笑みを浮かべた。


「我が方の対空砲火を前に、旧来の急降下爆撃や雷撃では、自殺行為に等しい」

「……その答えとして、敵は飛翔爆弾を遠方から撃ち込む方法をとってきた」

「厄介なのは日本海軍の航空隊です。しかし――」


 参謀長は眼鏡を押し上げた。


「海氷空母群の攻撃隊が、間もなく敵機動部隊に突き刺さります。果たして何隻生き残ることができるでしょうか」

「戦果を期待する、というところだな」


 テシスは獰猛な笑みを浮かべた。

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