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第三〇〇話、異世界帝国航空隊の反撃


 ハワイ近海を飛ぶ偵察機が、にわかに忙しくなった。


 分散展開していた龍飛型哨戒空母『龍飛』『大間』『潮瀬』のそれぞれの偵察、哨戒機は、複数の海氷群から、異世界帝国軍艦載機が飛び立つのを確認した。


「擬装してやがった! 氷が割れて、敵機が飛び出した!」


 垂直離着陸できそうなスペースにばかり気をとられ、置けそうにないような地形に擬態していた異世界帝国軍。そんな鋭角的な地形に航空機が隠されているとは思わなかった偵察員は少なくなかった。


 一つの海氷群で、せいぜい数機、多くても十数機程度だろうと、高をくくっていたら、三桁には及ばないまでも、空母1隻分に相当する数十機が飛び出ち、普段から観測をしていた日本軍搭乗員らを焦らせた。


 狂ったように敵機出現の報告が打たれ、日本海軍、ついで米軍の通信班がそれらを受け取った。


 米第三艦隊旗艦『オーガスタ』。レイモンド・スプルーアンス大将は、通信参謀の報告にも動じなかった。


「日本軍との打ち合わせにあった海氷航空隊だな」


 日本海軍機動艦隊司令部との打ち合わせの場で、異世界帝国がハワイ近海に展開させた氷塊が、空母のように艦載機を放ってくる可能性が高いという話は出た。米海軍の幕僚団は、最初はそんな馬鹿な、と鼻で笑ったが、日本海軍はマーシャル諸島攻略の際、環礁に潜んでいた航空機に手痛い目にあったと告げた。


『空母や滑走路がなくても、飛ばしてくるくらいなら、敵はできる』


 第一機動艦隊司令長官の小沢提督の言に、米参謀たちは押し黙った。第二機動艦隊の航空部隊指揮官である角田提督もまた、その時の目はとても凄味があって、日本側が本気で海氷群に警戒していることを、スプルーアンスは感じ取った。


「オアフ島の航空基地は無力化されている。……まあ、別の機動部隊がいた、と同じ対応でよい」


 旗艦『オーガスタ』の艦橋で、スプルーアンスは参謀たちに告げた。


「日本軍が予め教えてくれたのだ。慌てることはない。ミッチャーに、艦隊防空シフトを敷かせろ」


 米艦隊は、すでに第一次攻撃隊で、約半数の艦載機を出している。残っている戦闘機は200機程度と、少々心許ない。


 だが日本軍との合同艦隊である。敵攻撃隊の半分は日本艦隊に向かうはずであり、実際に迎え撃つ数はそれよりも少ない。

 空母の飛行甲板に待機していたF6Fヘルキャット戦闘機が、次々に発艦を開始。飛来する敵攻撃隊に備えた。



  ・  ・  ・



 一方、連合艦隊旗艦、航空戦艦『敷島』では、山本五十六長官が中島情報参謀から、敵海氷航空隊が動き出した件を受け取った。


「角田君に、防空戦闘機隊を出させろ。いよいよ来るぞ」


 山口機動部隊が、敵艦隊後衛の空母群を叩いた。オアフ島の航空基地も叩いたから、制空権をほぼ手中に収めた――と、普通ならば優勢を噛み締めるところだが、敵の海氷航空隊の存在を予感していたから、連合艦隊司令部にも油断はない。


 角田第二機動艦隊空母群から、直掩の業風(ごうふう)戦闘機、零式艦上戦闘機五三型が発艦し、迎撃態勢を整える。


「おい、樋端君。『敷島』の積んでる例のアレも、準備しておくように。敵の海氷航空隊は、思ったより多いようだ」

「承知しました」


 樋端 久利雄航空参謀は頷いた。


 異世界帝国航空戦艦『プロトボロス』を改修した日本航空戦艦『敷島』である。その艦体中央より後ろの飛行甲板には、旗艦を守る直掩戦闘機隊が搭載されている。


 その名も試製烈風一一型。日本海軍期待の新鋭機、零戦の後継機である烈風艦上戦闘攻撃機の量産初期型である。


 ずんぐりした米艦上戦闘機と異なり、小型スマートな機体だ。2000馬力級エンジン『誉』を積んだ、三菱期待のこの機体は、米国製パーツによる稼働率の確保、魔技研の技術による小型高性能を盛り込まれた、零戦並みの運動性を持った高速戦闘機となっている。その速度は、米高速戦闘機コルセアにも劣らず、運動性ではその上を行く。日本海軍最強の戦闘機と、関係者が豪語する機体に仕上がっている。


「烈風がどこまでできるか……」


 山本は期待と不安の混じった表情を浮かべる。烈風が額面通りの性能を発揮できるかは、この初陣を乗り切らなくては判断が難しい。関係者や搭乗員たちは太鼓判を押しているが、実戦は今回が初だ。スペックはよくても、その性能が発揮できるか、戦場に適合しているかは別問題である。


『敵航空群は、およそ7つの集団に固まりつつあり。前衛2群、およそ500機! そこから数十分から1時間以内にさらに600から800機が、当海域到達の模様!』


 偵察機群からの位置、敵速度の通報から、割り出される敵航空隊の規模と到達予想。渡辺戦務参謀は襟元を引いた。


「哨戒空母部隊の事前報告より多いですなぁ」

「一機艦の予想に近いですね」


 樋端は淡々と言った。事前の偵察、観測活動により、連合艦隊司令部でも、敵海氷航空隊の規模は予想していた。これに対して、第一機動艦隊司令部では、少々過大ではないかと思える数字をぶつけてきた。


 例によって神明第一機動艦隊参謀長はこう言った。


『敵も人工霧でカモフラージュをかけているようなので、おそらく氷の山に見えて、艦載機を隠しているやつがありますよ』


 普段から観測しているからこそ、見慣れてしまって逆に見逃していることもある。実際に偵察機は、上空から見ているだけで、降りて確認するわけではない。そもそも海氷群が無数にあって、いちいち降りている余裕もない。


『――1時間より2時間の間に、敵五、六、七群到達の可能性大。こちらは各300程度』


 分析報告に、渡辺は思わず「あっ」と漏らした。海氷群を警戒するために、偵察機をバラ撒いていたことが、結果的に早期の発見に繋がった。しかし――


「2000機、超えましたな」


 草鹿参謀長は泰然とした表情のまま、言った。


 敵攻撃隊の数が、ざっくり計算で2000機に達した。オアフ島飛行場と、敵主力艦隊空母群を排除した上で、この数である。時間差があるので、一斉にこの数を相手にするわけではない。


 しかし連続攻撃に近く、戦闘機の迎撃だけでは、守りきれるか不安だった。さすがの山本も緊張を隠せない。


「これは、被害担当艦も充分に活用せねば、潜り抜けられんかもしれんな」


 第二機動艦隊――前衛グループに随伴させている代物が、早速活用される予感がしている山本である。用意しておいてよかった被害担当艦。


 ――それでも、艦隊に被害は出るだろうが。


 敵も囮に食いつくものばかりではない。数で押してくる以上、迎撃の隙間を抜けてきた敵機が、手近な艦を狙って攻撃することもある。空母ではなく、護衛艦を狙ってくる敵もいるだろう。


 艦隊決戦の前の、航空戦。早くも正念場か。


「長官! 緊急通信です!」


 中島情報参謀が声を上げた。


「『大間』偵察機より報告。海氷群の一部が集合、超巨大な海氷に合体しつつあり!」


 合体――!?

 連合艦隊司令部参謀たちが騒然とする。普段なら合体と言われてもピンとこないところだが、山本の脳裏には、一つのことが浮かんでいる。


 異世界帝国は、I素材を使った海氷飛行場、あるいは海氷空母を用意しているのではないか?

 その危惧が、どうやら現実のものになりつつあった。山本は軍帽を被り直す。


 間もなく、日米戦闘機による、敵大攻撃隊を迎え撃つ激闘の幕が上がる。

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