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第二九八話、日米空母航空隊、発艦せよ!


 偵察機からの通報が、ムンドゥス帝国旗艦『アルパガス』に来た。


『日本艦隊ならびに、アメリカ艦隊を発見!』


 前者は戦艦13、空母17、巡洋艦18、駆逐艦およそ30。後者は戦艦8、空母11ないし12。巡洋艦約20、駆逐艦60前後。


「かなりの大艦隊ですね」


 テルモン参謀長は言った。


「双方とも主力艦隊と見て間違いないでしょう」

「本当にそうだろうか」


 ヴォルク・テシス大将の言葉に、テルモンは眉をひそめる。


「そうでしょうか? 空母17隻は、マーシャル諸島での損失分を割り引いても多く思えますが」

「空母はな。しかし戦艦の数が些か少ない。日本軍なら、もう5、6隻は動員できたはずだが」

「本土の防衛か、あるいはセイロン島の守りではないでしょうか?」

「その可能性はあるな」


 テシスは認めた。


「しかし、この偵察機の報告、妙だと思わないか?」

「と、言いますと?」

「日本とアメリカ、双方の艦隊が近くに行動していたのはいい。しかし、敵も偵察機に覗かれていることを気づかないはずがない。敵にもレーダーはある。偵察機に通報される前に撃墜しようとするのが自然だ」


 で、あるならば。


「こちらの偵察機が、二つの艦隊の陣容を確認できるまで、無事でいられる確率はどれほどあると思うかね?」

「……わざと、陣容を見せた? しかし、何故?」

「こちらの目を引きつける囮、別動隊への注意を逸らすため」

「別動隊とは、例のオアフ島を攻撃した見えない航空隊の母艦ですか?」


 その可能性もある。その見えない航空隊は、オアフ島の南方から飛来したようで、テシスの主力艦隊を攻撃するにしても、しばし余裕があると思われた。


「どうも、攻撃を誘われていると思わないか?」


 空母機動部隊を発見したならば、制空権を確保し、以後の戦いを有利に運ぶため、こちらは航空攻撃を仕掛ける。逆の立場でも、空母部隊を見れば、真っ先に狙ってくるだろう。


 テルモン、そしてグレガー作戦参謀は渋い顔になった。敵空母は日米合わせて28隻。対して自軍空母は、正規空母7、小型空母15の22隻。敵の空母は大型ばかりではなく、ある程度は小型だろうが、それでも航空機の数は日米軍が有利だろう――と、彼らは考えている。


「やはり、警戒されているな」


 ようやくテシスは言った。こちらが海氷群に航空隊を潜ませて、波状攻撃を仕掛けてくると、日米軍は予想しているのだ。


 ――あるいは、正規空母群の中身を、敵は見抜いているのかもしれない。


 テシスは口の中でそれを飲み込むと、命令を発した。


「艦隊は、このまま巡航速度で前進せよ。攻撃隊はまだ出すな」


 空母を含む敵主力艦隊を前にして、攻撃隊を出さない。この命令は、通常の戦闘のセオリーを無視している。航空戦は、先手必勝、叩いた者勝ちな印象が強いが、敢えてテシスは、先手を手放した。


 参謀たちは何も言わなかった。テシスが攻撃を命じなかったのだから、『今』ではないのだ。


「ただし、直掩機の数を増やせ。敵がいつ襲来してもいいように」


 太平洋艦隊司令長官の命令を受けて、前衛戦艦艦隊に随行する軽空母戦隊から、ヴォンヴィクス戦闘機の追加が飛び上がる。さらに甲板には、いつでも発艦できるよう待機する戦闘機を並べられた。

 果たして、日米軍は、どこから動くか?



  ・  ・  ・



 アメリカ海軍第三艦隊、旗艦『オーガスタ』。スプルーアンス大将は、日本軍からの連絡で、オアフ島の航空基地を無力化されたことを知らされた。

 別動の空母機動部隊が、ハワイ奇襲に成功したのだ。


「よし、これでオアフ島からの襲撃の可能性は消えた。正面の敵艦隊に対して、攻撃を開始する。ミッチャー中将に連絡。航空戦の指揮を任せる!」


 スプルーアンスの命令は、第三群の空母『レキシントンⅡ』に乗るマーク・ミッチャーに伝わる。


「ただちに、敵艦隊へ攻撃隊を発艦させる! 目標は、敵主力空母群!」


 第三群の空母『レキシントンⅡ』『エンタープライズⅡ』、そして軽空母『ラングレーⅡ』の飛行甲板に、ネイビーブルーの航空機群が並ぶ。


 その陣容は、主力艦上戦闘機F6Fヘルキャット、昨年11月に配備の始まった新型艦上爆撃機SB2Cヘルダイバー、主力雷撃機であるTBFアヴァンジャーである。轟々と2000馬力級エンジンを唸らせ、米海軍の誇る猛禽たちが発艦する。


 第三群に遅れまいと、第一群の『エセックス』『ヨークタウンⅡ』、『ベローウッド』『モントレー』、そして第二群の『イントレピッド』『スプリングフィールド』、『カウペンス』『プリンストン』からも航空機が飛び立った。


 100機前後の艦載機を搭載するエセックス級空母5隻、80機を搭載する『スプリングフィールド』、そして40機前後搭載のインディペンデンス級軽空母5隻から放たれた第一次攻撃隊は392機。

 それらはハワイ奪回のため、その障害となる異世界帝国艦隊へ向けて東進した。



  ・  ・  ・



 一方、日本海軍の前衛、第二機動艦隊でも、航空隊の発艦準備が進められていた。

 第二航空戦隊旗艦、『大鳳』。空母部隊指揮官の角田覚治中将は吼えた。


「アメリカさんと同時攻撃を仕掛ける! 敵の目をこちらに引きつけるのだ!」


 二航戦の空母『大鳳』『黒龍』『鎧龍』『嵐龍』の四装甲空母の飛行甲板には、濃緑色で塗られたズングリした熊ん蜂を思わす戦闘機が並ぶ。


 米海軍の主力艦上戦闘機F6Fヘルキャット――日本海軍採用名『業風(ごうふう)』である。


 この聞きなれない言葉は、悪業のはげしい力を風にたとえた語、という意味だが、もう一つ、地獄に吹く大暴風という意味がある。


 要するに、アメリカでの名前がヘルキャットと聞いて、地獄猫を連想した日本海軍関係者が、地獄と関連する、それでいて艦上戦闘機の命名条件である風がついた言葉として選んだというわけだ。もっとも、本国でのヘルキャットとは、性悪女、意地の悪い女という意味合いが強いが、それはまた別の話。


 業風戦闘機のエンジン、プラット&ホイットニーR-2800、通称ダブルワスプが力強く唸る。誰が表現したか知らないが、さながら力士を戦闘機にしたような重量感が光る業風が、『大鳳』、そして英装甲空母イラストリアス級改装の『黒龍』『鎧龍』『嵐龍』の装甲甲板のマ式レールカタパルトから打ち出される。


 艦載機搭載数が少ない装甲空母群だが、F6F(業風)の大胆な折り畳み機構は、その搭載数の底上げに貢献し、晴れて二航戦に搭載された。


 第二機動艦隊の他の空母『飛龍』『雲龍』、『瑞鷹』『海鷹』、『飛鷹』『隼鷹』からは、零戦五三型と、流星艦上攻撃機のコンビが発艦。


 二航戦の業風隊と合流。さらにアメリカ海軍空母航空隊と足並みを揃えて、敵艦隊攻撃へと向かう。


 なお、アメリカ軍は、敵正規空母群を攻撃する気満々だったが、角田艦隊の航空隊は、前衛戦艦群の小型空母群を目標としていた。


 何故ならば、すでに敵正規空母群には、別の手が迫っていたからである。

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