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第二九四話、即応する異世界帝国太平洋艦隊


 日付は少し巻き戻る。


 米艦隊、ミッドウェー海域より移動を開始――ムンドゥス帝国軍の長距離偵察機は、アメリカ海軍が、大規模な船団と共にハワイ方面へ移動を始めたのを掴んだ。


 その報を受けた時、帝国太平洋艦隊司令長官ヴォルク・テシス大将は、艦隊を真珠湾より出港させた。


「よろしいのですか、長官。まだ米軍しか動いておりませんが?」


 テルモン参謀長は疑問を口にした。

 情報部によると、米軍と同盟を組む日本海軍の主力艦隊は、いまだ本国にいることになっている。米海軍単独では、ハワイに展開するムンドゥス帝国太平洋艦隊に打ち勝つ可能性は低く、日本海軍と足並みを揃えて進軍してくると見られていた。

 だから、日本軍が内地にいるのに米軍が動くのは、牽制か、囮行動ではないかと思われたのだ。

 しかし、テシス大将はそうは見ていない。


「参謀長。ここ最近、日本海軍は、艦艇移動に新方式を取り入れたと思われる」

「新方式……?」

「君も報告は見ただろう? 日本海軍の通信に不可解な偽電が見られる、と――」

「艦艇や戦隊名が、本来いないはずの場所から発せられているというアレですか」


 テルモンは眼鏡を上げる。

 日本海軍は、艦隊や艦艇の位置を偽装するためか、たとえば先日まで呉にいた空母戦隊が、翌日にマリアナやウェークにいるような発信を行っていた。情報部も、即日に移動が不可能な距離からの通信を偽物と判断したが、日本海軍は知ってか知らずか、その手の発信を繰り返していた。


「狙いとしては、その部隊の位置をわからなくするため、複数カ所で、あたかも存在するように見せかけているのではないかと」


 帝国が通信を傍受していると知って、日本軍は下手な擬装を試みているのだろうと、情報部は判断している。しかし、昨日はフィリピン、今日はマーシャル諸島などと、頻繁に所在が変わるため、そのうち実際の移動を見逃すのではないか、と危惧もあった。


「それが通信偽装ではなく、本当に移動しているとしたらどうだ?」

「まさか」


 ヴォルク・テシスの言葉に、テルモンは眉をひそめる。


「あり得ません。飛行機ではないのですから、そんなに早く移動など物理的に無理です」

「敵が転移移動をしているとしたら、どうかな?」

「転移……? いや、それこそ『まさか』ですよ」


 地球人に転移技術があるなど、テルモンは信じられない。異世界転移をなし得るムンドゥス帝国でさえ、転移ゲートを通過する形で行っている。艦艇、航空機単独での転移技術は持っていない。


「日本人が、転移ゲートを作ったとでも仰るのですか?」

「証拠はない。だが、何らかの転移技術を用いていると思われる」


 テシスは視線を動かした。


「マーシャル諸島で撃沈し、回収した日本軍の艦艇に、こちらで解析中の装備がいくつかあるだろう? その中に、転移装置が含まれている可能性がある」


 もちろん確証はない。だがテシスは『ある』ものとして解釈し、ここ最近の日本軍の不可解な通信と移動を推測した。


「おそらく、米軍がこちらの庭に飛び込む頃には、日本艦隊も現れるはずだ。だからこそ、艦隊を、今、真珠湾から出すのだ。……こうしている間にも、すでに日本軍の姿なき空母機動部隊が、我が艦隊を狙っているかもしれない。これ以上、港に留まっているほうが危険なのだよ、参謀長」


 ヴォルク・テシスの判断は、今の時点ではどれも確証がなかった。彼の勘ではないか、とテルモンは思う。しかし、こういう戦場を嗅ぎ分ける勘について、この歴戦の猛将の右に出るものはいない。


「対日米軍、迎撃作戦を開始する。各部隊、それぞれの配置と役割を確認。その時が来るまで、隠蔽、待機せよ」


 日本軍の襲撃を受けた後遺症で、真珠湾の港湾施設の復旧は半々というところである。しかし艦艇に至っては、沈没した艦艇以外は戦闘可能状態で復旧が済んでいた。


 かくて、ムンドゥス帝国太平洋艦隊は、真珠湾を出港。比較的近い、海氷泊地に移動し、米艦隊、そして日本海軍の攻撃に備えた。


 そして、1月24日。

 靄が強く漂う海氷泊地の中、異世界帝国太平洋艦隊の旗艦『アルパガス』司令塔にて、テシス大将のもとに、一つの報告が入る。


「ジョンストン島がやられたか」

「同島からは、レーダーが未確認の大型機数機を捕捉、日本軍と思われる、というのを最後に音信途絶しました」

「……」

「おそらく、マーシャル諸島から飛来したと思われます。四発機と思われる大型機とのことだったので、二式大艇と呼ばれる飛行艇部隊だと思われます」


 ジョンストン島は飛行場が叩かれて以来、小さな監視施設だけ作り、他は再建されていない。そこより、真珠湾の復旧が急がれたからでもある。


「監視の目を潰そうということは、その近くを通ろうということだろう。あるいは、陽動か」


 テシスの呟きに、グレガー作戦参謀は口を開いた。


「ミッドウェー方面だけではなく、ジョンストン島方面からも、敵が来ていると?」

「そう見えるな。こちらの目を潰したということは、そういうことだろうな」


 ただ、本当に二方向からの攻撃か、あるいはこちらの戦力を分散させる陽動かは、現時点では判断が難しい。


「新型重爆を、ジョンストン方面へ偵察に回せ」

「新型ですか……?」


 テルモン参謀長が怪訝な顔になる。オルキ重爆撃機の後継機であり、まだ数は少ないが、使い捨ての光線兵器を搭載でき、また防御障壁付きでありその戦力は、ハワイの防衛戦力としても頼りになると思われている。しかし、繰り返すが、数が少ない。それを偵察機に使うのは、些かもったいない。


「本命にしろ、陽動にしろ、日本軍にとっては探られたくないはずだ。こちらが偵察機を飛ばせば、必ず撃墜しようとする。簡単に落とされない障壁付きで偵察する」


 戦いを制するのは、正確な情報である。


「ハワイの各航空隊に伝達。直援機の数を増やし、敵の襲来に備えよ。すでに敵の空母機動部隊が、懐に入り込んでいる可能性がある。いつ襲撃されてもおかしくないぞ」


 テシスの命令は発せられた。

 ハワイ・オアフ島の各飛行場への警戒レベルが引き上げられる。日本軍がジョンストン島方面から進撃を臭わせている時点で、ハワイ空襲は不可避――と、テシスは判断した。


 そして、その読みは当たっていた。

 日本軍の二つの機動艦隊とは別に、潜水遊撃部隊が別行動しており、オアフ島の南側より、出撃の時を待っていたのだ



○潜水遊撃部隊:山口多聞中将


・空母:

 第七航空戦隊:「海龍」「剣龍」「瑞龍」

 第八航空戦隊:「応龍」「蛟竜」「神龍」


第八水雷戦隊:「川内」「神通」

 第七十六駆逐隊:「吹雪」「白雪」「初雪」「磯波」

 第七十七駆逐隊:「浦波」「敷波」「綾波」

 第七十八駆逐隊:「天霧」「朝霧」「夕霧」「狭霧」

 第七十九駆逐隊:「初春」「子日」「春雨」「涼風」


第十七潜水戦隊:補給・潜水母艦1:『あいおわ丸』

 ・第七十一潜水隊:伊607、伊608、伊613

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