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第二六六話、高空からの光


 ハワイとマーシャル諸島の間、ハワイ寄りにジョンストン島がある。


 異世界帝国の飛行場があり、そこからオルキ重爆撃機の後継機である新型、パライナ重爆撃機が飛び立った。


 もっとも、このパライナ重爆は標準仕様ではなく、とある兵器を積んだ改造試験機ではあったが。


 出撃したパライナ重爆撃機は合計6機。2機ずつの編隊を組み、攻撃を受けているというクェゼリン、ウォッゼ、マロエラップを目指していた。


 途中、山口多聞中将の丁部隊に発見されたのだが、これらは早々に潜行したため、重爆撃機側は気づかなかった。山口の想像通り、マーシャル諸島の広い範囲で漂っている流氷もどきのせいで、判別する時間がなかったのだ。


 そのまま、重爆撃機はそれぞれの『攻撃目標』を目指して飛行を続けた。

 ウォッゼ環礁近くにいる第二機動艦隊乙部隊でも、接近する高高度の2機を捉えた。


「たった2機……?」


 古村参謀長は首を捻った。


「偵察でしょうか」

「面白くない。戦が終わりそうな時にやってくる重爆にはいい思い出がない」


 角田は口をへの字に曲げた。フィリピン海海戦でも、中部太平洋海戦でも、やってきた重爆撃機部隊は、だいたい日本海軍空母部隊にとって厄介事を運んでくる。


「青電を出して、撃墜せよ!」


 こういう重爆撃機対策に、高高度迎撃機を配備しているのだ。

 命令を受け、空母『大龍』と『飛龍』から3機ずつ、魔式エンジン搭載戦闘機である青電が発艦を始める。


 これらはレシプロ機を遥かに凌駕する速度で、上昇し高度1万を目指す。青電には対重爆用の重火力がある。到達したら、間違いなく撃墜できるだろう……乙部隊司令部はそう思った。

 だが、それより早く光が瞬いた。



  ・  ・  ・



 第二機動艦隊甲部隊は、クェゼリンにいた。

 こちらも偵察機が、遥か高空を飛ぶ敵重爆の機影を報告した。


 旗艦『播磨』。甲部隊の損害の大きさと、上陸船団の残存を確かめ、マーシャル諸島攻略作戦を中止するべきではないか、と傾いていた南雲忠一中将だったが、敵重爆の出現に疲れた表情を見せた。


「わずか2機か。……しかし、偵察機と油断して、誘導爆弾でも落とされてはたまらない。迎撃機を……いや」

「『瑞鳳』がやられておりますれば」


 高柳参謀長が気を遣うように言った。

 第四航空戦隊では、軽空母である『瑞鳳』が、戦闘機を多く搭載し、高高度迎撃機の青電も積んでいた。しかし、先の空襲で爆弾を食らって中破した同空母は、現在戦力外である。


「『播磨』の対空誘導弾を使おう。ただし、それまでに敵がこちらに攻撃をしてくるかもしれないから、全艦に障壁展開だけはさせておくように」


 中部太平洋海戦では、重爆撃機が誘導爆弾を落とし、それで第三艦隊が空母5隻を叩かれる損害を受けた。今回はたった2機だから、攻撃されてもそこまで酷いことにはならないだろうが、前例があるだけに油断できない。


 あれ以来、日本海軍艦艇には順次、防御障壁発生装置が装備されている。異世界帝国の決戦兵器に対する防御装備として、標準装備となったのだ。

 その時、通信長が駆け込んできた。


「長官! 丙部隊より入電です!」

「何事か!?」


 第二機動艦隊丙部隊は、マロエラップ攻撃に向かっている部隊である。


「飛来した敵重爆撃機からの光線兵器を受け、六航戦の空母『黒鷹』『紅鷹』、轟沈しました!」

「何だとっ!?」


 司令部に衝撃が走った。


『黒鷹』は、戦艦『石見』とロシア海軍ボロジノ級戦艦の合成空母、『紅鷹』はドイツ帝国海軍巡洋戦艦『モルトケ』の改装空母である。魔技研が製造し、第一次トラック沖海戦で戦力が必要だった連合艦隊に加わり、活動してきた歴戦の航空母艦である。

 それが、重爆撃機からの光線兵器により轟沈とは――?


 もしや、中部太平洋海戦で、戦艦『武蔵』を大破させ、戦艦『安芸』『甲斐』を撃沈した敵戦艦の熱光線ではないか。


「上空で発光!」


 見張り員が叫んだ。その瞬間、戦艦『播磨』の周りを薄い光の防御膜が発生し、その外で目が眩むほどの発光が迸った。


「なっ!?」

「うおっ!?」


 艦橋にいた者、その光を目撃した者は誰彼問わず、自身の目を庇い、怯んだ。

 やられた――南雲も身構えたが、光は消えた。防御障壁が、『播磨』を覆い、光から守ったのだ。


「今のが、六航戦をやった兵器か……!?」


 障壁を展開させていなかったら、今の攻撃で、『播磨』も大破、最悪轟沈もあり得た。


「艦長、対空誘導弾を発射! これ以上、敵重爆に撃たせてはならん!」


 1万メートルの高高度。青電が出せない以上、誘導弾なり何なりで反撃しなければ、敵に一方的に攻撃され続ける。

 防御障壁もエネルギーの消費で破られるから、一撃を防いだからと決して安心してはいけない。



  ・  ・  ・



 その光は、『大鳳』の僚艦として、左舷側を併走していた大型空母『大龍』の飛行甲板を艦首から艦尾まで溝を刻んだかと思うと、火山が一気に噴火するが如く、大爆発を起こさせた。


 乙部隊旗艦『大鳳』の艦橋で、角田覚治中将は、一撃で吹き飛ばされた旧『レキシントン』――『大龍』の最期に顔を引きつらせた。


 敵重爆撃機から飛んできた光。それは大型艦すら轟沈せしめる超兵器だった。敵は高度1万メートルから、大物――つまり大型空母を狙った。


『大鳳』と『大龍』、大きさも艦容も似ている二隻。『大龍』が狙われたのは、やや大きく、そして敵により近い位置にいたからだ。

 位置が入れ替わっていれば、狙われていたのは『大鳳』だったかもしれない。


「敵重爆、旋回中! 引き上げていきます!」


 見張り員の報告に、司令部はざわめく。

 逃げる? この状況で?――不思議に思う幕僚たちの中、角田は空を見上げた。


「そうだ、青電。『大龍』をやった敵機に食らいつけ……!」


 高度1万まで上りつつある高高度魔式迎撃機が6機、敵重爆撃機を追う。うち3機は、今しがた撃沈された『大龍』の艦載機だ。


 戦闘機搭乗員たちは、母艦の仇とばかりに新型――パライナ重爆撃機に襲いかかるのだった。

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