第二六一話、マーシャル諸島空襲
11月10日、日本海軍第二機動艦隊は、マーシャル諸島に襲いかかった。
第二機動艦隊は四つの機動部隊に分かれて、多数の環礁が存在する中、異世界帝国軍の拠点へ攻撃隊を放う。
旧日本軍の拠点を利用する異世界軍が展開しているのは、クェゼリン環礁、ウォッゼ環礁、マロエラップ環礁、ミレ環礁の四つだ。
第二機動艦隊甲部隊は、マーシャル諸島防衛の中心であるクェゼリン。乙部隊は、ウォッゼ、丙部隊は、マロエラップ。丁部隊はミレの飛行場を襲撃した。
ちなみに、それらの手前にはエニウェトク環礁があり、ここも異世界帝国によって制圧されていたが、ウェーク、トラックの航空隊がすでに空爆を繰り返しており、ここは部隊を上陸させ制圧を待つのみなので、機動艦隊は手を出さない。
潜水空母群である第八航空戦隊を擁する丁部隊は、奇襲によりミレ環礁の飛行場を撃破。丙部隊、六航戦もまたマロエラップに対して先手をとることができ、敵飛行場を無力化に成功した。
しかし、クェゼリン、ウォッゼ攻撃は、異世界帝国側のレーダーに捕捉され、迎撃機が上がってきた。
異世界帝国の主力戦闘機ヴォンヴィクスが、日本機動部隊攻撃隊に正面から向かってくる。
クェゼリン空襲に来たのは甲部隊、四航戦の航空隊だ。『赤城』『加賀』『瑞鳳』のうち、『赤城』『加賀』から発艦した80機は、まず流星艦上攻撃機が、翼下に懸架してきた空対空誘導弾を発射し先制した。
ヴォンヴィクス戦闘機は、交戦距離外から飛来した六十数発の誘導弾に、その半数が撃墜もしくは損傷し墜落した。
そして残る敵戦闘機に、制空隊である零戦五三型が果敢に突撃する。機銃が飛び交い、被弾、耐えられなかった機体が破片を撒き散らしながら落ちていく。光弾砲が瞬き、直撃を受けた日本機が銀翼を散らす。
制空隊が、異世界帝国機を引きつけている間に、高速を活かして流星艦攻が島の飛行場へと突っ込む。対空銃座が火線を打ち上げる中、流星は腹に抱えた対地誘導爆弾やロケット弾を滑走路や基地施設を爆撃する。
また一部の攻撃機部隊は、環礁内にあるE素材でできたアヴラタワーへ向かう。異世界人の、地球での活動に不可欠な塔の存在を排除するのだ。生存不可能な環境となれば、以後の抵抗も、島の占領もやりやすくなる。
加賀航空隊、艦攻隊の流星小隊が海面近くを飛行すれば、そうはさせじと敵戦闘機が飛んでくる。
「機長! 後方から敵機!」
「異世界人も、弱点がわかっているんだ!」
対艦用大型誘導弾を抱えた流星は、その高速を活かして目標に接近するが、敵ヴォンヴィクスのスピードのほうが速い。
と、後方の敵機が散開するように動いたかと思うと、次の瞬間爆散した。
制空隊だ。零戦五三型が、積んでいた空対空誘導弾を使って、厄介な追跡者を仕留めたのだ。
単座の戦闘機でも、敵機の追尾時など機体の正面に捉えているのなら誘導弾を誘導追尾させられる。
零戦が敵機を追い払ったところで、流星の小隊は、海面から突き出す黒い塔へ、必殺の大型誘導弾を投下した。
途端に機体が軽くなり、スピードを増す。その間、誘導手が目標へ突っ込むように誘導弾を制御する。
そしてアヴラタワーが3発の大型誘導弾を食らい、爆発、命中点より上の部分がバランスを崩して、海に崩れ落ちた。
「ようし、攻撃成功! 引き上げだ!」
目標を果たした流星小隊は、誉エンジンを全開にして離脱にかかる。
炎上するクェゼリンの飛行場。しかし複数の飛行場に機動艦隊が分散したせいか、思ったより被害を与えられていないようだった。
地上で撃破した敵機も少なくないが、復旧に全力を尽くせば、半日もかからず稼働できそうではある。
加賀航空隊の棚橋少佐は、何とも複雑な表情を浮かべる。
「本当なら、もっと攻撃機を集中できれば、一撃で叩けたのだが……」
しかし、複数の飛行場がマーシャル諸島で分散している地理的状況上、一つに集中している間に、他の環礁の飛行場から反撃されたり、守りを固められる。奇襲できるなら、分散でもいいから叩くに越したことはないが、戦果も不充分となるだろう予想はされていた。
「アヴラタワーが叩ければ、あとはやりやすくからよかったものの……。そうでなかったら中途半端な攻撃で、反撃されただろうな」
飛行場への攻撃も物足りず、泊地への攻撃はほとんど行われていない。戦艦や空母などはいなかったし、彩雲偵察機が執拗に確認して、有力な敵艦が存在しないのはわかっていたが……。
「すっきりしないな」
任務を終えた、『加賀』『赤城』航空隊はクェゼリン環礁より引き上げる。
そして、ウォッゼを攻撃した二航戦もまた同様に母艦へと帰還をしている。
第二機動艦隊の攻撃隊搭乗員たちからすれば、目的である各アヴラタワーを破壊し、飛行場を痛打し、一応の制空権の獲得に成功したが、やり残し感が拭えなかった。
・ ・ ・
攻撃隊の戦果が充分ではないだろうことは、機動艦隊司令部も予想していた。
だから、各部隊はアヴラタワーと飛行場を重視して、それ以外の目標は後回しにした。基本的には、アヴラタワーを破壊すれば、異世界人の戦力はガタ落ちするので、他が残っていようが、その抵抗勢力は微細となるはずだ。
しかし、第二機動艦隊は、たった一度の空襲で終わらせるつもりはなかった。必要であれば、航空隊による反復攻撃をかける予定であり、占領部隊が上陸する時の支援のため、甲・乙・丙部隊に配置された戦艦、重巡洋艦が艦砲射撃を仕掛ける算段となっていた。
かくて、上陸部隊に先んじて、甲部隊はクェゼリン環礁、乙部隊はウォッゼ環礁、丙部隊はマロエラップ環礁へそれぞれ向かっていた。
潜水水上部隊である丁部隊は、戦艦や巡洋艦が配備されていないため、ミレ飛行場の沈黙後は、敵太平洋艦隊進出に対する警戒部隊として東海域を哨戒する。
第二機動艦隊乙部隊、第四艦隊司令長官である角田覚治中将は、空母『大鳳』にいてウォッゼ環礁へと突き進んでいた。
「また、流氷か……」
マーシャル諸島の至るところに流れ着いている氷のようなそれを双眼鏡で見やる。第四艦隊参謀長である古村啓蔵少将は、同じく双眼鏡を覗き込む。
「随分と広い範囲に点在しているものです。偵察機の報告では、氷に見えて氷ではなかったとか」
「見た目は完全に流氷なんだがなぁ……」
角田は双眼鏡を下ろした。
「いま見えているものには、敵らしいものはいなさそうだが」
多数の氷の塊が漂っているが、軍艦を隠せそうなほど大きなものは見当たらない。古村は頷いた。
「はい。ですが連合艦隊司令部からは、流氷もどきを囮に、敵が潜んでいるかもしれないので注意するよう警告がきておりました」
「確かに。潜水艦が待ち伏せでもしていたら厄介だ。対潜警戒を厳とせよ」
「はっ!」
乙部隊は警戒の駆逐艦隊の後を、第三戦隊の戦艦4隻、そして二航戦の空母群が続く。対潜索敵と、流氷もどきを電探と見張り員が監視し、敵襲に備える。制空権を奪取したが、マーシャル諸島は未だ敵地である。




