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第二五九話、第二機動艦隊、新陣形


 マーシャル諸島。日本ではマーシャル群島とも呼ばれ、第一次世界大戦で、ドイツの保護領だったが、日本軍が占領したことにより、その後、日本の委任統治領となった。


 トラックなどがあるカロリン諸島の東に位置しており、かつては日本軍第四艦隊が防衛、警戒を担っていた。しかし、異世界帝国の侵攻により、マーシャル諸島は放棄された。


 かくて、日本軍が去り、異世界帝国が占領したわけだが、前線がその後、トラック、そしてマリアナ諸島へ移動したこともあって、思いの外、基地施設は拡大されなかった。


 しかしそれでも、1943年現在、ミリ、マロエラップ、クェゼリン、ウォッゼに飛行場があり、ミリを除く三つの環礁には、泊地が存在していた。


 攻略を命じられた第二機動艦隊は、これら異世界帝国の現地飛行場を空爆、無力化し、泊地に艦隊がいればこれを撃滅。上陸部隊を支援しつつ、敵太平洋艦隊が来れば、撃破することを任務としていた。


 さて、今回、第二機動艦隊は、新たな艦隊陣形で作戦に当たっていた。

 これまでは、前衛艦隊と空母艦隊の二つに分けて、敵正面に対して進撃していたが、マーシャル諸島攻略に向けての作戦研究会の際、第八航空戦隊司令官の山口多聞中将が提案したのだ。


「前衛と後衛に分けたところで、敵はまず空母を攻撃しようとするから、前衛の戦艦部隊は敵航空隊を誘引できるとは思えない。どうせ空母が狙われるのなら、いっそ航空戦隊の護衛に戦艦部隊を組み込んだほうがよい」


 居並ぶ各戦隊司令官や南雲、角田長官らの前で、山口は黒板に図を書いた。


 第二航空戦隊、四航戦、六航戦、八航戦を示す略号に、第三戦隊、第一・第四戦隊、第五戦隊と、こちらも戦隊略号を当てはめていく。さらに重巡や防空巡戦隊も二、四、六航戦に割り当て、最後に水雷・防空戦隊も、一個ずつ護衛につけた。


「以前は護衛艦の少なさから、空母艦隊はひとまとめに運用されていたが、これは敵の空襲でまとめて損害を受ける率が高い。第一次トラック沖海戦でも、フィリピン海海戦でも中部太平洋海戦でも、狙われた時に大きな被害を受けている」


 確かに、と各航空戦隊指揮官――かつての空母艦長らは頷いた。トラック沖海戦では、6隻の正規空母のうち、5隻が飛行甲板を叩かれ、フィリピン沖海戦では比較的軽微で済んだが、中部太平洋海戦中では9隻中、5隻が被弾し、一気に半減してしまった。


「第一、第四艦隊を全て使えるなら、一個航空戦隊にも充分な数の護衛がつけられる。この四つ――いや、八航戦は別行動なので、それを除く三つの航空戦隊をそれぞれ一個機動部隊として運用する。狙われても一回の攻撃で空母部隊半減、ないし全滅のリスクを避けられるだろう」


 そして――と、山口は続けた。


「攻撃についても、これまでは全航空隊を結集しての物量で叩く戦術を用いたが、中部太平洋海戦では、まず戦闘機部隊が突入し、敵戦闘機を撃滅したのち、攻撃隊を第二波として突っ込ませた」


 奇襲攻撃隊が対処しきれない敵に対して、まず制空権奪取のためにファイタースイープを仕掛ける。敵戦闘機が飛べなければ、攻撃隊の被害も対空砲火のみとなる。


「今後もこのように攻撃隊を複数回で分けるのであれば、四個航空戦隊を分散させて、敵艦隊に対して、各航空戦隊が立て続けに仕掛ける――つまり、航空隊による車懸がり戦法を用いて、敵に反撃の暇を与えず叩くほうがよいと、私は考える」


 この山口の提案に対して、前衛が空母部隊の護衛についたら、残敵掃討ないし追撃はどうするのか、という意見が上がった。


「残敵掃討の段階ならば、航空戦を制したということ。そこで各部隊から水上打撃部隊を集めて、追撃に当たればよかろう」


 山口は答えたが、内心その段階ならば、わざわざ水上艦に追撃させなくても、再度航空攻撃をかければ全滅させられるだろう、と思った。

 そこで角田中将は言った。


「我々も空母だからと何の遠慮もいらない。戦艦も空母もまとめて、敵艦隊の追撃に当たればよい」


 これには各航空戦隊司令官たちが目を見開いた。猛将角田、ここにあり。空母共々前に出ればよい。追撃する戦艦部隊のエアカバーもできるし、航空隊も早く母艦に回収してもらえて再出撃しやすくなる。


「どうでしょうか、南雲さん?」


 第一艦隊司令長官である南雲に、角田が意見を求めれば、南雲は僅かに考えて、頷いた。


「いいのではないか。角田君がそういうのであれば」


 一応、機動艦隊司令長官ではあるものの、空母機動艦隊の直接の指揮官ではない南雲である。元々、空母部隊運用に関しては、参謀たちの意見を尊重してきた彼だ。直接、空母部隊を率いる角田がやるというのなら、やるのである。


 さらに今回、その航空戦隊を分散させ、それぞれ機動部隊とする編成は、マーシャル諸島攻略においてもちょうどよい、と考えられ採用された。


 何せ攻撃目標が最低、四カ所。索敵の状況によってはさらに増える可能性があるとはいえ、環礁一つ一つにおける敵飛行場の戦力は、複数航空戦隊で同時に攻めなければならないほどの規模はない。どうせ過剰戦力だから目標を分散することになるのなら、最初からそのように分ければよい、ということになった。


 かくて、第二機動艦隊は、甲、乙、丙、丁部隊の四つの部隊に分かれて、マーシャル諸島を目指した。


 甲部隊は、第二機動艦隊司令長官兼、第一艦隊司令長官の南雲忠一中将率いる、第一戦隊『播磨』『遠江』、さらに『長門』以下第四戦隊、合計、戦艦6隻に、第四航空戦隊『赤城』『加賀』『瑞鳳』を中心戦力とする。


 乙部隊は、第四艦隊司令長官の角田覚治中将が指揮する空母『大鳳』『大龍』『蒼龍』『飛龍』の四空母に、第三戦隊『土佐』『天城』『紀伊』『尾張』の四戦艦が配備されている。


 甲と乙で、それぞれ艦隊司令長官を分けたのは、戦闘でどちらかが戦闘不能になった場合に備えてである。


 丙部隊は、六航戦『瑞鷹』『黒鷹』『紅鷹』の三空母に、第五戦隊『肥前』『相模』『周防』『越後』の標準型戦艦四隻が主軸となる。


 丁部隊は、他と毛色が異なり、潜水可能艦中心の部隊であり、山口多聞中将の八航戦『応龍』『蛟竜』『神龍』の他は、潜水水雷戦隊である第八水雷戦隊がつくのみである。


 これら新生機動艦隊は、内地よりマリアナを経由し、目的地を目指す。

 そんな中、第二機動艦隊旗艦である戦艦『播磨』に、前線の情報が届けられた。



  ・  ・  ・



「……なに、流氷?」


 いまいち理解ができず南雲が聞き返せば、第一艦隊参謀長である高柳儀八少将が答えた。


「そのようです。……どういうことなのか皆目見当もつきませんが」


 第一次トラック沖海戦の際、『大和』艦長だった高柳は、温厚そうな顔を僅かばかりしかめた。


「トラックやウェークから飛び立った彩雲偵察機によれば、マーシャル諸島の至る所に流氷群が流れついているとのことで」

「こんな赤道に近い、中部太平洋に流氷など……信じられん」


 季節でもないし、ここまで溶けずに流れてくるなどあり得ない。異常気象……では済まない。天変地異の前触れか。


「異世界帝国軍の、何かの策でしょうか?」

「うむ、わからん。もしや異世界人の魔法とかいうものやもしれん」


 日本にも魔技研があって、能力者もいる。超常の現象を生み出すことができる能力者もいるらしいから、そういった魔法を、異世界人が用いている可能性もなくはない。


「普通なら、溶けているはずだ。溶けない氷など、よっぽどの寒冷地方でもない限りあり得ない」

「我々がマーシャル諸島の攻略を目指していると敵は勘づき、防衛態勢を強化している……と見るべきでしょうか」


 異常な事態に、参謀長もキレがない。それは他の参謀たちも同様だ。日本海軍を探しても、この事態を想定できたものなどいないだろう。しかしいない、わからない、で無策で行くわけにもいかないのだ。


 誰なら、これを読める?――南雲は考える。

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