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第二五四話、地中海艦隊先遣隊、到着す


 1943年、9月下旬。西インドのムンバイに、地中海から遠征してきた異世界帝国艦隊が順次入港した。


 セイロン島奪回のための戦力が集められていた。より南にコーチンという良港があるのだが、地理的にセイロン島に近く、日本軍の攻撃に晒されるため、北にあるムンバイを集結拠点として用いられているのだ。


 事実、9月初頭、日本軍第一機動艦隊がコーチン港を空襲し、避難、待機していた輸送船十数隻が撃沈されていた。


 ムンドゥス帝国地中海艦隊から派遣された先遣隊は、戦艦4隻、空母4隻、重巡洋艦6隻、軽巡洋艦5隻、駆逐艦25隻。その主力は元フランス艦であり、空母に異世界帝国艦、巡洋艦のおよそ半分が元イタリア艦という構成だ。


 フランス艦が多いのは、航続距離の問題で、イタリア艦は地中海を主に活動拠点としていために、軒並み航続距離が短かった。


 構成される戦艦4隻は、すべてフランス戦艦であり、『リシュリュー』『ジャンバール』『ダンケルク』『ストラスブール』と竣工が新しい艦ばかりだった。


 先遣隊旗艦は『リシュリュー』。基準排水量3万5560トン、全長247メートル。世界的に珍しい四連装砲を主砲に持ち、38センチ砲八門で武装する。フランス海軍では最新最強の戦艦だった。


 海軍軍縮失効以降、近代的な戦艦としてダンケルク級戦艦を建造したフランスだったが、ライバル関係にあるイタリア海軍が新鋭のヴィットリオ・ヴェネト級の建造を開始。ドイツもまたビスマルク級戦艦を作り始めたために、ダンケルク級の拡大発展型であるリシュリュー級を建造した。


 しかし、異世界帝国の出現とその攻撃により、フランス、イタリア両海軍と、イギリス地中海艦隊は壊滅し、そのほとんどが異世界人によって回収、再生された。

 ナチス・ドイツによって本国を失い、行き場をなくしつつあったフランス海軍の艦艇も、今や異世界帝国の艦として、その一翼を担っている。


 地中海艦隊分遣隊の指揮官であるカンケル中将は、インド方面軍のギャーウェイ大佐より、セイロン島とそこを拠点とする日本軍についての説明を受けた。


「セイロン島は、日本軍の制圧下にあります」


 ギャーウェイ大佐は浅黒い肌に白い口ひげの、どこか海賊船長じみた風貌の持ち主である。


「飛行場は、日本陸軍の航空隊が駐留しており、インド南部の飛行場を時折、空爆しています。現状、基地航空隊の支援は望めないものとご理解ください」


 インド方面軍の主力は、カルカッタの日本軍に集中している。インド南部への動員は非常に限られており、破壊された飛行場の修復や、航空隊の補充は遅々として進んでいないという。


「セイロン島には、日本軍の空母機動部隊がおります。空母の数は9隻。戦艦7隻が確認されており、巡洋艦も10隻以上いると思われます」

「それが、東洋艦隊を撃滅したのか」


 カンケル中将は自身の団子鼻の先に触れる。


「東洋艦隊がどう戦ったのか、わかっておらんのか? 日本軍に、それなりの損害を与えたのか?」

「不明です。なにぶん、セイロン島を攻撃され、その後、トリンコマリー軍港が空襲を受けた、という報告を最後に音信不通でしたから」


 何隻か生き残りがトリンコマリーに辿り着いたようだが、そこで日本軍の攻撃を受けてからは詳細不明。おそらく東洋艦隊は全滅したと思われる。


「コーチン港に辿り着いたのが、潜水艦がわずか4隻という始末ですから。相当ひどくやられたものです」


 ギャーウェイは首を横に振る。


「敵の通信傍受の結果、日本軍側には空母や戦艦が沈んだというものはありませんでした。最悪、ダメージは与えたにしても、撃沈した艦艇がなかったなどという可能性もあります」

「それはさすがにあり得ないのではないか?」


 カンケルは眉をひそめた。


「東洋艦隊の規模でありながら、一方的に叩かれるなど……あり得ないだろう?」

「しかし、状況はそうとしか思えないのが現状なのです」


 ギャーウェイやインド方面軍の言葉を借りるなら、セイロン島には、東洋艦隊を一蹴した強力な日本艦隊がいるということだ。

 カンケルは考える。


「では、我が先遣隊が、後続を待たずにセイロン島に挑めば――」

「劣勢は否めません」


 東洋艦隊自体の航空戦力が劣勢だったということもあり、カンケルの地中海艦隊分遣隊の空母航空隊は、まだ日本軍に対して健闘できる可能性を秘めているが、現状、リスクが大きいと見るべきだった。


「陸軍としては、海上輸送のため、制海権の確保を急いで欲しいと催促しているようだが――」

「無理をすれば各個撃破がオチかと」


 ギャーウェイは正直だった。


「後は、敵がここまで踏み込んでこないことを祈るくらいでしょうか」

「ちなみに、日本の機動部隊の所在は?」

「今朝の報告では、トリンコマリー軍港に空母8隻を確認しています。戦力があれば攻撃したいところですが。……逆に言えば、今日明日で、ムンバイ軍港に日本軍は現れないということですが――」


 遠くで遠雷のような音がした。カンケルとギャーウェイは、はたとなり目を合わせる。重々しい音が連続し、直後、空襲警報を告げるサイレンが軍港に鳴り響いた。


「報告! ムンバイ軍港に敵機襲来! 在泊艦艇が攻撃を受けました!」


 伝令の報せに、カンケルは目を剥く。


「空襲だというのか! 日本の空母はセイロン島ではなかったのか!」



  ・  ・  ・



 西インド、ムンバイ軍港を襲撃したのは、第七航空戦隊『海龍』『剣龍』『瑞龍』から発艦した攻撃隊だった。


 第一機動艦隊の主力である、第一航空戦隊、第三航空戦隊、第五航空戦隊はセイロン島はトリンコマリー軍港にいた。だが、一機艦には、航空戦隊は四つあるのだ。


 九九式戦闘爆撃機、二式艦上攻撃機で構成された航空隊は、遮蔽装置でレーダーの警戒網をすり抜け、地中海からやってきた異世界帝国艦隊に襲いかかった。

 二式艦攻隊を率いる内田少佐は、三空母の艦攻隊に突撃を命じた。


「目標は、敵空母! かかれ!」


 異世界帝国軍の中型高速空母が停泊している。空襲に備えて、魚雷を防ぐ防雷網が敷設してあったが、そもそも二式艦攻は、対艦誘導弾を抱えて飛んできており、魚雷対策は意味がない。


「少佐、敵直掩機!」

「構うな。戦爆隊がやってくれる!」


 軍港上空には、空襲を警戒していたか、異世界帝国の戦闘機が少数ながら飛行していた。しかし、対空誘導弾で武装した九九式戦爆が、それらを黙って見過ごすはずがなかった。


 案の定、敵機に向かって夏風1800馬力エンジンを唸らせた九九式戦爆がかっ飛んでいき、誘導弾と機銃で突っ掛かっていった。


 その間に、二式艦攻隊も、4隻の敵空母を発見すると、それぞれ攻撃を開始した。警戒して配置についていただろう艦艇側の対空砲が火を放った直後、飛来した対艦誘導弾が空母の艦体に突き刺さり、巨大な火柱を吹き上げさせた。

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