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復活の艦隊 異世界大戦1942  作者: 柊遊馬


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第二五二話、転移実験の到達点


 連合艦隊旗艦『播磨』の長官公室。山本五十六は、魔技研の神明大佐からの報告――陸軍魔法研究所の顛末を聞いた。


「……ゴーレム。噂には聞いたことがある。人型の石人形で、力が強く、頑丈だと聞く。戦闘以外にも土木でも活用できるかもしれない、と」

「はい」


 神明は頷く。山本は少し考えた。


「少し脱線するが、そのゴーレム、海軍でも運用できるかね?」

「セイロン島で完全体を捕獲、確保してあります。……魔研での運用検証記録も見ています。設備があれば、海軍でも運用可能です」

「海軍は人手不足だ」


 山本は天を仰いだ。


「軍艦でも航空機でも、だ」


 そのために、コアを解析し、海軍でも取り入れようと研究しているのだ。


「そして陸戦隊となると、お世辞にも強力と言えない。計画中のマーシャル、ギルバート諸島攻略には間に合わないだろうが、そうした上陸戦闘にも海軍で部隊があったほうがよいと思う」


 日本海軍の陸戦隊というと、陸上勤務の陸戦隊と、艦艇乗組員から人員を出して編成される部隊の二種類が存在する。

 後者の艦艇への配備人数が減っている現状、有事の陸戦隊編成が困難な状態になっている艦も少なくない。


 実際にゴーレムを艦艇に配備することはないが、陸上勤務の陸戦隊などにゴーレムを配備する、というのは案としては悪くなかった。……コスト面で折り合いがつくかはわからないが。


「うんまあ、五身島での件は了解した。今はコア技術の普及と、戦力化が優先だ。近く、マーシャル諸島攻略も控えているし、米海軍との共同作戦も水面下で進行中である。人員不足で再生艦が配備できない、という事態は避けたい。よろしく頼むよ、神明君」

「はい」


 神明が応じると、山本は預かった資料をお机の脇に置いた。


「神明君、少し話せるかな?」

「もちろんです」


 内心、作業があるから、早く帰りたいのが神明の本音であるが、上官――連合艦隊司令長官を前に、それを面と向かって言える者が果たしてどれほどいるだろうか?


「もうじき、昇級の季節だがね、君は少将になる」

「そうですか」


 あまり関心のない神明だった。兵学校のハンモックナンバーからすれば、上位者昇級組に入っている神明である。そろそろ45期組も少将進級者が出る頃か。


「今回、色々なところで人事変更される。この連合艦隊司令部の人員も変わると思う」


 それは連合艦隊司令部へのお誘いだろうか、と神明は思った。人事は海軍省の仕事だが、連合艦隊司令長官ともなると、多少の選り好みは利く。


「まあ、連合艦隊の参謀長には年次の上の者がなるだろうが、艦隊の参謀長辺りは、おそらく君ら45期組も選ばれるんじゃないか。……特に小沢君辺り」


 第一機動艦隊の参謀長に、と山本は言ったが、すぐに苦笑した。


「まあ、君はあまりそういうのには興味がなさそうだな。この話題はやめよう」


 山本は、従兵に言って地図を持って来させた。そして計画されているマーシャル諸島攻略について簡単に話すと、インド洋を指さした。


「第一機動艦隊を太平洋に戻したいが、敵もセイロン島の奪回を狙ってくるだろう。ここは、インド戦線、引いては大陸決戦の防波堤だ。敵さんも物資を前線に届ける海上補給ルートは取り戻したいはずだ」


 しかし、と山本は眉をひそめる。


「武本さんを指揮官に、防衛艦隊を配備したいが、先の九頭島への攻撃で、予定された戦力の補充が遅れるものと思われる」」


 充分な数の防衛艦隊でなければ、いくら潜水機能を持っていようともジリ貧となる可能性が高く、セイロン島の防衛も困難となる。


「かといって、第一機動艦隊をインド洋に貼り付けておくわけにもいかない。敵太平洋艦隊との戦いも想定されている状況だ。確実に勝ちを収めるためにも、第一機動艦隊は必要だ」

「陸軍さんは、第一機動艦隊がインド洋にいることを望んでいるようですが」


 神明は言った。魔研の杉山大佐も、陸軍はそう思っていると言っていた。


「まあそうだろう。しかし、マーシャル諸島攻略に躓けば、太平洋の安定は保てない。戦力を二分化した結果、敵に後れを取ったら……? 内地を砲撃されることになったら、陸軍はどう言うかな」

「仰る通りです」


 神明は「失礼します」と一言断りを入れてから、自身が持参した魔法鞄を漁る。山本は唐突にいった。


「それ、何でも入る魔法鞄だろう? 一つくれ」

「……手配しておきます」


 新しいもの、珍しいもの好きな一面を見せる山本である。神明は目当てのものを引っ張り出す。


「セイロン島の攻略を計画した時、洋の東西に戦力を置かねばならなくなる事態は想定しておりました。そして戦場が広大になれば、戦力の分散、そして移動について大きな懸念になることも――」


 西はセイロン島から日本本土、あるいは東はマリアナ諸島やトラックまで、移動に掛かる日数は馬鹿にできない。


 いざ事が起こった時、洋の東西にいては駆けつけるのは時間的に無理。しかし事前に戦力を移動させたとして、手薄になったほうに敵が攻めてきた場合、どう対処するのか? 敵、異世界帝国の艦隊は、太平洋とインド洋、同時に侵攻してくることだってあり得る。その時、片方を片付けて、もう片方を助けに……など不可能であり、また各個撃破されかねない。


「これは、その解決策です」

「T計画――転移連絡網の整備」


 山本は新たに提出された資料に目を通した。

 前々から、魔技研は、艦の転移実験を行っていた。現在、艦艇転移は秋田大尉の転移能力に頼るところが大きい。モルッカ海海戦でも九頭島沖海戦でも、ほぼ単艦しか送れなかった。


 だが、水上機に装備させた転移離脱装置を用いた長距離転移は、能力者であれば、秋田でなくとも転移が可能になっていた。


 先のモルッカ海海戦でも、そのシステムを応用し、小型艦ではあるが能力者の魔力によって転移に成功している。


 実質、大型艦艇でも、秋田に頼らずとも転移できる――その検証が行われたことで、転移連絡網の整備計画を打ち出した。

 このショートカットが実現すれば、移動の日時の大幅短縮と、その移動に費やす燃料・物資の消耗をカットできる。


 セイロン島からトラックへ艦隊を瞬間移動させることが可能になれば、以後の艦隊も大胆な運用が可能となるだろう。

 そう、第一機動艦隊を内地に戻しても、セイロン島にも中部太平洋にも、敵の来襲の可能性があるならば即時、転移、移動できるのである。


 T-13実験などの最終到達点が、この転移連絡網(仮)なのだ。

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